ホンのつまみぐい

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同じ場所で変わり続けること、続いていくことについて/TINPOT MANIAX vol.6

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 12月22日は、MAZAIRECORDSのイベントTINPOT MANIAX vol.6のために川崎の月あかり夢てらすにいた。最初は中村佳穂ワンマンのチケットを取っていたけど、結局、ほぼ全通の勢いで参加しているTINPOT MANIAX vol.6へ。

 

 忙しさにかまけてサイファーに参加できていなかったので、忘年会的に皆の顔を見に行こうという気もあった。久々すぎて、楽しめるかちょっと不安な気持ちもあったけど。

 

 開始時間を少し過ぎてから顔を出すと、ドクマンジュくんのビートライブが終わるところだった。この日の演者は、マザレコの面々、ドクマンジュくんが公園でサイファー中のところに声をかけたというotiさん、そして、MICADELICファンのドクマンジュくんが満を持して呼んだDJオショウさんとダースレイダーさん。

 

 マザレコメンバーのMANOYさんのライブが始まる前に、20代前半であろうストリート寄りの服装の男の子たちが入ってきた。今までマザレコの関連イベントに遊びに来る人は、だいたい主催の友人・知人。見た目も中身もオタク寄りの人が多かったので、ちょっと驚く。主催メンバーの知り合いという風でもない。向こうも様子をうかがうような感じで、長方形型の会場の後方にたまっていた。

 

 FLYBOYRECORDSリスペクトのMANOYさんは、MCで「駅から近いところに住むという内容の歌を作ったら、本当に駅から近いところに住むところになりました~」と話していた。お次は今日犬さん。チャイナ風の衣装で、ちょっと緊張を感じたけど、なんとかやりきっていた。

 

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 そして、前々日にEP「JELLYCLUB」をリリースしたばかりのジャバラくん。

 

 JELLYCLUBは、彼のプライドの高さと生真面目さがストレートに落とし込まれていて、ライブも迷いがなかった。言葉が力強くていいなあと思いながら観ていると、さっきまで少し遠目で観ていた後方の子たちが手を挙げ始めて、音に乗り始めていた。

 

 本人にとっては初めて人前で演る曲で、客にとっては初めて聴く曲。なのに乗せられるってすごくない? 進化してるんだなあ。

Jelly Club - EP

Jelly Club - EP

  • Jabvara
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥600

 

 ライブ後に青年たちに話を聞いてみると、「ヒップホップ好きの先輩に呼ばれてきた」という。話した感じ、そんなにマニアックに詳しいわけじゃなさそうで「トラップとか聴いてたんですけど……。トラップって内容ないじゃないですか。だから、もっといろいろクラシックとかも聴かなきゃなって今思ってて」と言う。うーむ、今からここで歌われる曲、内容ないやつが大半だと思うけど……。

 その後はゲストのotiさんのビートライブからオランゲーナさんのライブ。声優への思いを歌った「TOSHISHITA NO ONNANOKO」をシャウト。この曲のリリック、久々に聴くと耳に痛いな……。

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お次の大丈夫音楽は、自分で機材をいじりながらしょうもないことをしゃべるドクマンジュくんのMCが最高。MCを説明するのはちょっと難しいので避けるけど、ひょうひょうとしつつテンポの良いしゃべりが受けていたし、「Too many shit」はフックで「うんこの量が多すぎる」を連発する様子がくだらなすぎた。内容がない!

mazairecords.bandcamp.com

 お次はゲストのDJオショウさんの日本語ラップDJ。Youtubeにある最近のヒット曲中心の優しいセットリストだったけど、チルな曲のほとんどない構成ではちゃめちゃ盛りあがる。もうとっくに、常連組・初めて組関係なく盛りあがっていて、見ていてニコニコしてしまった。

 最終的にアグリレックスくんは上半身裸に、ドクマンジュくんはパン一になっていて、それを見たオショウさんが「おまえらサイコーだよ!!新しい川崎スタイルだぜ~~」と叫ぶ。前回出てくれた丸省さんの「お前たち知らない音楽で盛りあがれる音楽のプロだぜ!」というシャウトを思い出した。

 DJ後に、オショウさんがドクマンジュくんのことを「根っからのパリピなんだね」と表現していたのに笑ってしまった。

 お次はリーディングMCバトル。

 これは「ネットの書き込みでも本の一節でも何でもいいので、既存の文章をビートに会わせて読み上げる」というバトル。

 文字ではなかなか魅力が伝わらない内容なので詳細ははぶくけど、一回戦で「mixi呂布カルマコミュニティの解説文」を繰り出しただねこさんが、その後も鋭いセレクトであっさり優勝していた。

 ちなみに、呂布カルマコミュの解説文は「はらはらする危険なパンチラインの連続なので、心臓の弱い方はお気をつけください」で、だねこさんはこれを「暴漢に襲われた男が、人を振り払おうとする時に出すような声」で叫んで爆笑を生み出していた。

 お次はあらいぐまMCさんのライブ。ハードな自虐芸の歌が終わり、新曲披露。「ここにいる人はみんなほんつまさんのブログを読んでいると思いますが……」というMCから入って、「あれ?」と思っていると、私がブログに何気なく書いた「悲しい怪物のようだった」というフレーズをモチーフにした「sad monster」という曲が歌われた。

サッドモンスター 舞台の上で暴れる
サッドモンスター マイク持てば変われる
スポットライト浴びれば 人の殻を破れる

 というフックにちょっと驚いてしまった。適当に書き飛ばした文へのアンサーとしては、込められた感情が純真すぎる。心が動くライブだった。

あらいぐまMC | Free Listening on SoundCloud

 そして、マザレコのラップマシーン・ヤボシキイくんと、バンドや演劇もやる芸達者・アグリレックスくんによるASTRO NOBLE。よくよく聴くと「スペース原チャリ!みんな轢き殺す!」」というファニーなリリックなのだけど、ラップ自体はかっこよさで勝負する感じで、動きも今時のラッパーっぽく、ぴょんぴょん飛んでいる姿がよかった。

Bud Buddy Barons - EP

Bud Buddy Barons - EP

  • ASTRO NOBLE
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥600

 

 最後のライブはダースレイダーさん。少しお疲れのようだったけど、マイクを持つとあの低い声がしっかりフロア全体に響いていた。

 

 「今日、おれは電車の遅延で30分閉じ込められていた。なのに、おれはそこで一人も友だちを作ることが出来なかった。そこにラジカセがあれば。そして、音楽をかけて踊り出すやつがいれば、そいつとは友だちになれたかもしれないのに」という、ちょっとキザなMC。

 

 ダースさんはベテランのMCで、当然曲もいっぱい持っているけど、この日のライブは持ち曲をそのままやる形式ではなく、少し昔のポップスの人気フレーズを回して盛り上げるという手をところどころに使っていて、本人はそれを「ヒップホップは好きな曲の空いているところを使っていい文化」と表現していた。

 

 ある時は「きょ~~人類がはじめて~~木星に着いたよお~~」という歌声にあわせて会場全体が手を振り、ある時は間に歌詞を忘れてしまったダースさんの「曲を覚えてないのもヒップホップのリアルだー!!」の叫びにあわせて会場全体がワーッと盛りあがる。とてもばかばかしくて、チンマニっぽい。

 

 ふと、年始の荏開津広さんと二木信さんのトークイベントを思い出した。急逝したECDへの追悼を語るその日のトークで、荏開津さんは「音楽の魔法というか。音楽自体はただのマテリアル。空気が揺れているだけでしょう?でも、空気が揺れるとパッと変わるでしょ」「音楽が鳴ってるところがユートピア。そこはみんなが分け隔てない場所」「石田さんは音楽ジャンルとして好きなだけじゃなくて、『いろんな音楽をツギハギして作るヒップホップという音楽』が好きなんだろうなと思った」と話していたからだ。

hontuma4262.hatenablog.com

 

 ああ、つながっているなと思いながら見ていると、ダースさんがECDの話を始める。ちょうど1年ほど前、雪の日の葬儀で棺の中のECDの顔を見たこと。今にも起き出してラップを始めるんじゃないかと思ったこと。

 

 歌うようなMCから続く曲は「5years」。自らの余命宣告について歌った曲だ。言うまでも無く切実な内容なのだけど、一方で目の前の青年たちに何かを与えるような歌い方はとても優しい。最後は「あと5年って言い続けると5年後が延長されていく詐欺システム」というMCで笑いを取っていたけど。

 


THE BASSONS(ベーソンズ) / 5years

 そして、最後の曲は「ラッパーの葬式」。ECDの葬儀の日の風景からはじまるその歌は、再生という言葉が、レコードという言葉が繰り返される。

 

レコードレコードレコードレコード

レコードを聴いている今日も

プレイスプレイ レコードを再生しろ

プレイスプレイ レコードを再生しろ

プレイスプレイ レコードを再生しろ

プレイスプレイ あのラッパーを再生しろ

英語の奴らにはわかんねえんだってな

あいつらはプレイプレイプレイで遊んでるだけだろ

日本語では再び、生きる

日本語ではレコードをかければラッパーは再生するんだ

 

 再生再生再生、誰だって、いつだって生き返る……。

 これは、ちょっと涙が出る。ふと見ると、主催メンバーがダースさんをキラキラした目で見つめている。「音楽があれば、その瞬間は知らない人とだって仲良くなれる」。その言葉通り、初めて組も常連組も真剣な顔をして音楽を受け止めるフロア。つぎはぎの音楽の、思想の体現だ。

 

 ECDの、MICADELICの、ダースレイダーの延長線上にMAZAIRECORDSがあって、TINPOT MANIAX vol.6がある。

 

 この日は今までのような破天荒な爆笑や、プリミティブなバカ騒ぎはなかったし、アニソンも流れなかった。でも、主催メンバーや参加者の「らしさ」は失われていないし、それで満足感が減ったということもなかった。

 

 ずっと同じ場所で何かをやりながら、変わり続けることが出来ているのは本当にすごい。〆はいつも通りジャバラくんのDJで、これも変わらない部分だ。

 

 そういえば、ヤボシキイくんの曲には「ツギハギのミュージック」というリリックがあったことも、帰り道でふと思い出したのだった。

 

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