知人とカラオケに行く約束をしていたその日は、BiSの全国ツアー「BiS After All」最終日だった。
まず焼肉を食べようということで集まった17時。
直前になってプー・ルイが不穏なことをつぶやく。
リハの前に丹羽さんに呼び出された。なんのことかと思ったらおとといの君たちは中身がないってことを繰り返して言われた。昨日何を考えたか聞かれた。明日の新宿を埋めるために具体的に考えたか聞かれた。それについては確かに考えられてなかった。
— プー・ルイ@新生アイドル研究会BiS (@pour_lui) 2014, 2月 11
今日Yahoo!ニュースになれば新宿は埋まるよねって言われた。Yahoo!ニュースかぁーってうーんって言ってたら『そこでお願いが1つある、今日のライブで全裸でダイブしてほしい』って言われました。夢か現実かわからなくなりました。
— プー・ルイ@新生アイドル研究会BiS (@pour_lui) 2014, 2月 11
詳細は「BiS騒動まとめ」にて
http://togetter.com/li/628436
「えっ」と思ったがそのまま待ち合わせ場所へ。
友人2人と店へ急いだ。
コートをかけながら、友人dさんが蒼波純ちゃんの話をする。
「蒼波ちゃん、何もかもがまぶし過ぎてTwitterのアイドルリスト(非公開)から外しちゃいました……」と私が言うと、dさんから「その発想はおかしい!アイドルはキラキラしているものでしょ」というツッコミが。
そして、仙台が気になってつい携帯に目をやる私の様子を見た友人Kさんが、「またBiSの心配ですか?」。
k 「iさん、BiSにはまってから辛そうですよね」
i 「……」
k 「だいたいなんで好きになったんですか?」
i 「うーん、やっぱり最初のきっかけは『曲がいいから』ですね。
BiSに限りませんが、今アイドルって本当に数が多いから、差別化のためにいろんな音楽をやるんですよ。
lyrical schoolはラップだし、
でんぱ組.incはいわゆる電波ソングのほかに渋谷系も歌うし、
BELLRING少女ハートは…まあ、寺山修司みたいな?
それがすごく面白い。私みたいに系統立てて音楽を聴く習慣のなかった人間にとっては、アイドルは音楽のショーケースなんですよ。
だから、アイドルシーンを追いかけると、なかなか退屈しない」
k 「たしかに、非常階段とコラボするアイドルとかヘンですよね。ノイズ好きのうちの旦那は、BiSのおかげで非常階段がオリコンチャートに入ったと喜んでましたが」
i 「非常階段、美川さんが銀行員と言うのがいいですよね!非常階段のコンプライアンス担当……。
ああいう風に定職を持った上で自由に音楽をやって、シーンの最先端を行くというのはすごいことだと思いますし、ある種の理想なんじゃないですか。
あと、BiSは詞を自分で書くことが多いのでそこも魅力ですね。
それから、ライブが楽しいんですよ。なんか、自由で。
特にBiS階段は豚の頭を投げたり、パンツ投げたりするアンダーグラウンドなパフォーマンスですが、そこに不思議と解放感がある。
それが唯一無二なんですよ。うまく説明できないんですが。
よくアイドルらしくないって言われるけど、舞台の上のキラキラした女の子を追っかけてるという意味では別にほかのアイドルと変わりませんよ。
でも、初めて見に行ったライブはクソつまんなかったんですけど……」
k 「えっ、そうなんですか?」
i 「メンバーがファンに向かって『どうしたの〜今日お葬式みたいだよ〜』って言うくらいつまんないライブで、しかもファンが会場でもTwitterでもそれを盛大にdisってる。普通メンバーがお葬式とか言わないし、ファンだってそんな激しく罵倒しないじゃないですか。なんだこれ?と思ってるうちに追っかけるようになってました。
BiSのオタクの人って、ヘンなんですよ。
私が実際に目にしたものについてだけ話しますけど、川崎でライブをやった時に、道にネギが落ちてたらしくてメンバーがそれを一斉にツイートしてたことがあったんですね。なんだろうって。そしたら、それを見たオタクがライブにネギ持って来て」
k・d 「は?」
i 「ほかの男の人に花束をもらったのっていう歌詞のところで、花束の代わりにネギを渡していくという……」
k・d 「……?」
*本文中に登場するネギのエピソードではないですが、nerveの歌詞に合わせてファンが誕生日祝いに花束を渡していく場面
i 「あと、100キロマラソンというのがあってですね」
k 「iさんがむっちゃ感動してたやつですね。でも、なんでアイドルが100キロ走らなきゃいけないんですか?テレビとか来てたわけじゃないんでしょ?」
i 「話すと長いんですけど」
d 「短く!」
i 「BiSを作ったリーダーのプー・ルイは、裸になったり過激なことしてでも、自分たちのことを知ってもらわなくちゃいけないという発想の子なんですが、当然『そこまで出来ない』と言い出すメンバーもいるわけで。そこで起きたすれ違いをマネージャーが『これからの活動についてお互いがガチで言い争う』イベントに仕立て上げしまったんです。
そのイベントに絡めてリーダーが100キロ走る宣言をしたんですよ。その時に、自分も『BiSのこれからを考えるために走りたい』と言い出したワキサカユリカっていう子がいて、2人が山梨から東京まで走ることになったんですね」
k 「えっ、2人走ってるんですか?」
i 「で、1回目は失敗しちゃったんですけど」
k・d 「え?マラソンは1回じゃないんですか?」
i 「そう、私が実況してたのは3回目なんですよ」
k・d 「なんで!?」
i 「1回目の失敗の時にワキサカユリカちゃんが足を痛めて休みがちになってしまって。
プー・ルイは、年末もう一度100キロ、今度は公園周回という形で走りきるんですけど。
そのあと結局ワッキーちゃんは足のケガが理由で辞めてしまって」
k 「足のケガが理由って、アイドルというよりスポーツ選手みたいですね〜」
i 「まあ、そういうわけで過去を清算するためにその後に入ったメンバーのサキちゃんが走ることを決めたわけですよ。Ust配信しながら。
でも、100キロとかむちゃくちゃキツイのわかってるから、途中でオタクがいろいろ場を盛り上げようとするんです。
音楽ならしたり、チャリ持ち上げたり、サンバ踊ったりとか……。あと偽ゴールを作ったり」
k・d 「何言ってるのかよくわからないんですが…」
i 「ゴールはavexの入り口だったんですが、そこにゴールをふたつ作ったんです。サキちゃんが走ってきて、テープを切ろうとする直前で、オタの人がさっそうとゴールテープ切って、ガチ切れしたサキちゃんに思い切りビンタされるという茶番をですね」
k・d 「アイドルにビンタ!?」
i 「とにかく、そういう感じなんですよ!」
k・d 「走ることに反対する人はいなかったんですか?」
i 「いや、反対している人の方が多かったと思いますよ。
でも、アイドルが決めたことならオタはそれを応援しなくちゃいけないから。
そうそう、だから並走した人もけっこういて、自分の足で走る人、自転車や車で追いかける人とさまざまなんですけど」
k・d 「はー」
i 「彼女が途中で足が痛くなって走れなくなった時があって。
オタみんな心配そうな顔で見てるんですけど、基本ずっと一定の距離を保って見守ってるんですよ。
それがすごい美しい様式美でした……。
オタクは参加できるけど、介入は出来ないんですよね。そこがちゃんとしてる感がイイなと」
k・d 「なんか、いろんなことがあるんですね〜。でも、楽しそうじゃないですか」
i 「そうなんですよ。すごく楽しいこともいっぱいあるんです。でも、もうオタク辞めたい〜〜みたいなこともありますからね」
d 「今日は何があったんですか?」
i 「今日!?今日……。今日は、とても言葉には出来ないようなことが……」
k・d 「え?なんですか。教えてくださいよ」
i 「いや、あの、誰かあとでまとめてくれると思うんで、それ見てください。
いや、ほんともう、いろんなことがありすぎで、メンバーも5人辞めてますし。ファンだって辞めてく人いますよ。
まあ、でも辞めたメンバーもみんなBiSを経験してそれぞれの場所でがんばって生きているので、それはそれで……」
k 「なんか移民みたい!それぞれの土地に移住していった人を思う的な」
i 「えっ、そうですか?でも、過酷な日々を乗り越えてそれぞれ新たな道を……という意味ではそうかも。
ファンもいろいろ大変で、二年半近く追いかけてたけど、最近のプロモーションに耐えられずに他界したファンもいますし」
k・d 「他界って表現すごいですよね〜」
i 「他の界隈に行く、というところから取ってるのかな?その人はメンバーのことは好きなんだけど、全裸とかのプロモーションで、『好きだけど、見ていて裏切られた気持ちになってしまう。でも、どうしても嫌いになれないのがすごく辛い』的な内容の長文ブログを書いてから、離れていきましたからね……」
k 「好きだけど、一緒にいられないみたいな?いやー、好きでいてくれるひとにそんな思いをさせちゃダメですねえ」
i 「ほんとにそう思います……。ただ、幸不幸は別にして退屈はしないですね」
d 「三次元の醍醐味ってそこですよね。振り回されるのも楽しいっていう」
i 「中毒性のあるものは大概、快と不快がセットになってるんですよね。
不快に耐えたご褒美として、快が与えられると、そのまま快が与えられるよりはるかに強いインパクトを残す。
食べるラー油は、舌に痛みと言っていいほどの刺激を与えるんですが、その時に脳内が痛みに反応してエンドルフィンを出すんです。そこに油のうまみがのる。
だから、中毒性があって食べるとやめられない。アイドルやギャンブルはある意味食べるラー油なんじゃないかな。
あと、悪化すると『アイドルにお金を使いすぎて離婚した』『貯金がなくなった』『でも、アイドル観てハッピー』という状況がドラッグ化するみたいですね。
リストカットみたいなもので、生きてる実感を強烈な快と不快の連続に求めたがる。
ただ、これはアイドルに限らず、中毒性のある娯楽はなんでもそうじゃないですか。パチンコとか不倫とか」
d 「そういえばiさん、前は梶原一騎の話ばっかりしてたのに、今アイドルの話しかしないですね」
i 「そうですね……。まあ、BiSも梶原一騎的な感じですけど、ある意味。人を見返したいとか爪痕残したいとかって発想が。あと、燃え尽きて真っ白な灰になりそうなところか……。
そういえばメンバーのひとりのファーストサマーウイカちゃんは『あしたのジョー』好きだし、プー・ルイは雑誌でジョーの燃え尽きシーンの真似してましたね。
でも、マンガだと燃え尽きようが概念になろうがエンタメで済むけど、現実に生きてる女の子ですから……」
k 「まあ、でも楽しそうじゃないですか〜〜」
i 「アイドル楽しいですよ!一緒にBiS見に行きましょうよ!」
k・d 「いや、それはいいです」
i 「ううっ……」
ちなみに、このあと仙台の様子が気になったまま、大マジな顔でカラオケで歌った「PPCC」と「primal.」はどっちも好評でした。
(でも「nerve」入ってなかった。謎……)