ふと思い出したので軽い気持ちで書くけれど、E TICKET PRODUCTIONが制作した「ILLNINAL vol.2」のリリイベはアイドルラップ現場で5本の指に入るくらい印象的だった。
E TICKET PRODUCTIONはライムベリー分裂後しばらく、グループを運営して定期的に活動していくということができなかった。だから、シングルCD「ILLNINAL vol.2」には南端まいな&野本ゆめか(当時はアイドルネッサンス所属)、Summer Rocketと、さまざまな当時の現役アイドルが参加している。
メンバーの課外活動扱いの展開では、しっかりとした練習もライブもやりようがない。Eチケさんの復帰を横目で見つつ、MVに目を通すくらいであまり関心を持っていなかった。
タワレコ錦糸町でのリリイベにふと足を運んだのは、ちょうどlyrical schoolとRHYMEBERRYを観たばかりで、「せっかくだからアイドルラップに一通り目にしておこう」くらいの気持ちだったと思う。
ライブの内容はお世辞にもこなれたものではなかった。しかし、私はものすごい衝撃を受けてしまった。
「なるの♪ 何になるの♪ なるよILLになるよ♪」と、歌うアイドルたちが「アイドル」じゃなくて「児童」だったからだ。アイドルは「客や本人が望む女の子の形」であろうとする。しかし、児童は当然そこまで自分にも客にも責任を負わない。
ライブそのものの質はお遊戯会程度だったのにもかかわらず、そこにいる女の子たちがあまりに生々しく、しかし、フェティッシュないやらしさとは無縁の、健やかな明るさに満ちていて、そこに驚いてしまった。普段のアイドルの姿より、数段きままに歌う女の子たち。それは、消費されがちな「少女」のイメージより、ずっと自由で、どこか荒々しかった。
その時、はじめてEチケさんの音楽が表現しているのが「子ども時代」だということを意識したのだった。
Eチケさんは「子ども時代の幸福」を歌を通して描いていて、「幸福な子ども時代から飛び出していく女の子」に願いを込めている。それが特別に響いたのは、私がそれなりに屈託のある子ども時代を過ごしたからだろう。
作者と作品世界を同一視するのは危ういことなのだけど、中学2年生で不登校になり、そのまま文章の仕事を始めるようになったというEチケさんから、こうした世界が生まれてくることに納得せざるを得なかった。
青春の手前、まだ未分化な女の子の内面が、アイドルというフォーマットを通して私たちの前に現れる。彼女たちを見ていると、自分が子どもだった頃の記憶と、目の前の彼女たちの朗らかさや切なさが混ざり合い、記憶の境目がなくなってしまう。
ライブは3曲で終わってしまった。
アエロさんと松村さんが来ていたので、「Eチケはヤバい」と伝えた。アエロさんは、歌詞の中に、かつてMCMIRIのパンチラインだった言葉があることを興奮気味に話していた。アエロさんはロマンチストなので、悲しい時もうれしい時も興奮気味に話す。
それから数日後、信岡ひかるを観る機会があった。かつてライムベリーでDJHIKARUとして活動していた彼女は、当時から現在まで、ソロアイドルとして活動している。しかし、登壇するイベントはどれもとても小規模かつ内輪向けで、興味が湧くものがなかった。
その日はご当地「鍋」フェスティバルという野外イベントがあり、そこにステージが設けられるとのことだった。
会場に着くと、日比谷公園内のステージには小さなテントが設けられていた。すぐ隣に屋台、正面は鍋を食べる人向けのイスと机。小雨のぱらつく天候。
ほとんどの客が鍋にかぶりついてワイワイやっている中、ドルオタは内輪向けの馴れた雰囲気で固まっていた。普段は自分がアイドルオタクであることも、オタクの内輪なガヤガヤ感も気にならないのに、その日はあまりに開けた場の空気とのギャップに、少し居心地悪く感じてしまった。
ステージに現れた信岡ひかる……ひかるんは長身でスッとした美女になっていた。
相変わらず媚びたところのない雰囲気で、「ああ、やっぱり美少女だ」と思いながら眺めていると、1曲目を終えたところで「私は昔ライムベリーというグループにいたんですけれど」という話から、ライムベリーでの曲「きみとぼく」が始まって、なぜかわからないけど感極まって少し泣いてしまった。
MIRIちゃんもhimeちゃんも、もう歌うことのないあの歌が、ひかるんに屈託なく歌われていることに安堵したのかもしれない。
「きみとぼく」を目を見開きながら聴いていると、スッと陽が射して公園全体が明るくなった。ひかるんがそれを見て「やっぱ晴れ女だから晴れたわ~!」と力強く叫ぶ。
その姿は本当にキラキラしていて、差し込んだ陽の光とよく似合っていた。
簡素で音の悪いステージで、10人もいないドルオタと通りすがりの人たちが相手でも、信岡ひかるの健やかさと美しさはそのままなのだ。ああ、本当にライムベリーはすごい女の子たちの集まりだった。そして、それはもう失われてしまったのだ。
だけど、もう皆がそれぞれの場所で動き続けていて、きっとこっちの感傷は無用の長物なのだ。
最後の曲は、カバー曲「夢をかなえてドラえもん」。ひかるんはステージから降りて、通りすがりの幼児やオタクと一緒に手をつないで、短い輪を作っていた。
彼女のあっけらかんとした、でも楽しそうな表情は、ずっとそのままだった。
これは、E TICKET PRODUCTIONの詳細なインタビュー。
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松村さんによる信岡ひかる生誕祭のレポ。
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ご当地「鍋」フェスティバルの記録。
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