SPECIAL OTHERSを観にラゾーナ川崎に行った。
ラゾーナは川崎駅西口にある神奈川県屈指の巨大ショッピングモールだ。
休日ともなると市外どころか県外からも大量の人が訪れ、多くの家族が車で出向いて買い物をし、フードコートでご飯を食べて帰る。
でっかいモールの中央にある屋外広場は、屋根の着いたステージを円形の人工芝が取り囲んでいて、スペアザファンだけでなく、買い物を終えたであろう多くの家族が集まっていた。
芝の上で走り回る子供と一緒に聴くアコースティックのSPECIAL OTHERS。これがよくないわけがない。スペアザファンも通りすがりのお客さんものんびりと音を楽しんでいて、まるで楽園にいるようだった。
スペアザのファンは「地に足の着いた音楽好き」という雰囲気の人が多く、品のいい素朴さにあふれている。きっと、今までもこれからも同じように彼らの作る音楽と過ごしていくのだろう。普段はうっすらと焦燥感の漂う地下アイドル現場やクラブにいるせいか、その翳りのない幸福感が強く沁みた。
一方で、ラゾーナの出来る前、もう15年ほど昔に川崎駅東口側のテナントで働いていた自分としては、ちょっと複雑な気分にもなった。
東口側はBADHOPの生まれた川崎区側。つまり、ガラの悪い方だ。区の境は京浜東北線の線路に沿って引かれていて、東口は川崎区、西口は幸区(さいわいく)にきっぱりとわかれている。
働いていた頃はビル周辺の様子しか知らなくて土地の特徴には疎かったけれど、たしかに昔も今もどこか散らかっていて、翳りのない場所とはお世辞にも言えない。
その後、私は同業界の別業種につき、改めて東口のお店にうかがうことになった。東口の店にとってラゾーナ出店の影響は大きく、店舗ごとの自助努力では補いきれないものがあった。ラゾーナの出店だけが理由ではないだろうが、かつてお世話になった店舗の中には、閉店したところもあれば、親会社が変わったところもある。
仕方のないことではある。私だって子供がいたらラゾーナの芝生で遊ばせるはずだ。ちょうどいい値段設定の店が一つに集まるモールは便利だし、この日だってシャツを2枚買った。行き届いた使い勝手のいい店に人が集まるのは当たり前のことだ。
でも、ルポ川崎のトークイベントで聞いた「川崎の不良は『ラゾーナとか雑魚っすよ』と言う」話にも、少しだけ共感してしまうのだった。
優しいけれど緊張感のあるアコースティックを聴き、幸せそうな顔でくつろぐ人々を観ながら、ショッピングモールでは歌われないであろう音楽のことが、頭の隅に居座っていた。