江戸時代に実際に使われていた「芝居小屋」を現代に再現させるという試みで作られた「平成中村座」での公演。歌舞伎を観るのは4回目。
桜席と呼ばれる2階の長椅子席での観覧。実在した芝居小屋にあわせたのか、ひざをしっかりたたまないと座れない作りになっていて、大柄な人は大変そう。そういえば歌舞伎座の席も狭かったけど、昔からある建物だからだろうか。
歌舞伎座と違って薄暗い照明や、お大尽席の存在、会場を彩るちょうちん。たしかにきれいに整備された「伝統文化守ってます!」感のある歌舞伎座とは違う趣でちょっと楽しい。
演目は「双蝶々曲輪日記 角力場」と「極付幡随長兵衛 公平法問諍」。
角力場は若々しくチョコマカした関取と、重厚感のある大御所といった風情の関取が出てくる。扉の前に立ち、扇を仰ぐ姿だけで強い関取だと思わせる中村勘九郎の演技がすばらしく、「このふたりがケンカしてくれるの?! 楽しみ!」と思っていたら、立ち合いはせずに終わってしまって拍子抜けした。あれだけ前振りで戦う姿勢を見せてくれたのに、ぶつかり合わないのか……。帰宅中、同行の母に「ケンカしてるところ見せてほしかった。歌舞伎はいつも観たいところを見せてくれない」とずっと言ってしまった。
歌舞伎は長い話の一幕だけで終わったり、感情の流れに共感できなかったりするので、物語を味わう面白さを味わえることがあまりない。観光地に行ってきれいな植物や建築物を見るのと同じような感覚で見ている気がする。
極付幡随長兵衛は客席から役者が現れたり、立ち合いの場面があったりと、なかなかわかりやすく面白かった。歌舞伎の話は現代的倫理観では理解しづらいものも多いけど、そういうひっかかりも比較的少なかった。長兵衛が中村獅童で、何となく親しみがあったのも大きいかもしれない。
この話にはまだ小さい長兵衛の子どもに対し、子分があれこれ気を使う場面がある。この子ども役を、スターの実子である小さな子どもがやるのだが「生まれながらにして立場を得ている子どもを、世襲制をもとに大舞台に立つ子どもが演じる」わけで、若干グロテスクに感じた。
「幼いころから舞台に立ち、経験を積んだ人間を作るには世襲しかない」と言われているらしいが、もう少し別の道を探ることを考えた方がいいのでは。