定期的に新宿・歌舞伎町のことを思い出す。
ライブハウス、バー、ホストクラブ、ショーパブ、ストリップ劇場……。不要不急だらけの街。店構えも歩く人々も遊ぶ人々も、すべてがごちゃごちゃしていて、よくわからないままに多くの人が集まる街。人のいない歌舞伎町はきっと寒々しくて、その猥雑さが寂しさを引き立てる場所になっているだろうな。
歌舞伎町を思うときに頭に浮かぶのは、感動的なライブをたくさん見たライブハウスや、時に緊張しながら扉をくぐったストリップ劇場ではなく、昨年一度いったきりのショーパブだ。
理由はわかっていて、去年の11月の19時台ですら、客席がガラガラだったからだ。私と同行のMさんのほかは、常連っぽいおじさん1人しかいなかった。
接客をしてくれる女の子たちは、金回りの悪そうな二人の女に対して無理に酒をすすめようとはせず、今の仕事の楽しさ、厳しさについての話や、昔やっていたという地下アイドル活動の話などをしてくれた。昼の仕事を辞めて、お酒を飲みながらの接客をしながら、毎日練習をしてダンスを踊る。すごいことだと思った。
10人ほどで行われるセクシーなダンスは真剣なもので、ショーとして見ごたえがあった。だけど、だからこそお客さんの少なさが寂しかった。
20時台になって中国語の10人位の団体と、常連っぽいお客さん、ひやかしにきたお客さんがちらほら入り、少し場が盛り上がってきた。私たちは20時台のショーを見届けてから外へ出た。
もっとたくさんの人たちが彼女たちのダンスを見ればいいのにと思いながら。
ところで、この日のことを考えるともう一つ、中国人のお客さんたちのことを思い返す。私は「やっぱりこういうところは観光客を見込んでるんだ」と思ったのみだけど、ひょっとすると、セクシーなダンスを披露するダンサーたちがアジア人のお客さんをもてなすのを見て「侵略された」と感じる人がいるのではないか。
キャバレーに勤めていた知人が「キャバレーには衣装をそろえる日があるけど、チャイナ服は嫌がるお客さんがいたからできなかった」という話をしていたから、そんなことを思った。
なぜこんなことを書くかというと、先日久々に新宿に行ったらヤバいものを見たからだ。
都庁前の電灯に「東京へ、返せ!」「必ず、取り戻す!」「拉致」と書かれた青い旗があったのだ。
どうやら拉致問題に対するアピールのようだ。しかし、拉致問題の現状を細かに提示し、問題点を共有させるならまだしも、ただ怒りを書いてもなんとなく北朝鮮への憎しみが強まるだけで解決しないだろう。一市民が北朝鮮に対して向ける言葉なら、まだわかる。しかし、この旗を掲げているのは行政なのだ。
一市民ならまだわかると書いたが、それはいわゆる「気持ちはわかる」の範疇で、市民が本当に何とかしたいのなら、国政に働きかけるしかない。言われずとも働きかけるのが本来の国の仕事ではあるが、とにかく市民として日本にいる私たちの立場でできるのはそれだけだ。
だから、「東京へ、返せ!」とアピールされても、私は「いや、国が仕事しろよ」としか思わない。
しかも、なぜ「東京へ、」なのか。拉致された人々の多くは日本海側で生活していたと思うのだが。新潟の街にこれがあったら、賛同せずとも痛ましいとは思ったかもしれないが、トンチンカンな印象しか受けない。
北朝鮮の人たちがこの旗を見ることもないだろうし、意志を伝える意図があるとも思えない。間に「、」と入れて変に言葉を飾っているのもなんだか気持ちが悪い。
そんなもんをなんで都が掲出してるんだろう。……。そりゃ、キャバレーでチャイナ服を嫌がるような連中の共感を誘うためだろう。アジアに対する憎しみでつながる人々。それを行政が主導する。いやあ、ひどい国だ……。
「オリンピックなんてやる資格がないな」と思いながら歩いていたら、パラリンピックの広告が出てきて、脱力してしまった。現実にオチは求めてないよ。
ところで、上の文章を踏まえて少しうれしい話もある。ツイッターは最近ヘイト発言の取り締まりを強化しているらしい。
実際、私よりずっとこまめにツイートの通報を行っている人が、最近はヘイトに対しての対応が早くなってきたと言っている。下のツイートのツリーを見てほしい。
「CM見て感動するだけじゃなくて何かしないと」って言ってるだけじゃなくて、Twitterのヘイトスピーチ通報くらい今この瞬間からやりましょうよ。
— d a y o (@dztp) 2020年11月29日
https://twitter.com/dztp/status/1332887405821526016?s=20
https://twitter.com/dztp/status/1332887405821526016?s=20
「通報するだけでは……」とする向きもあるだろうけど、私はこれははっきりとよいことだし、社会をよい方向に向ける動きだと思う。
最近、民族差別・男女差別・障害者差別発言を繰り返しているストリップ客のアカウントが凍結した。
彼は今もサブアカウントで発言しているが、直接的な差別の言葉を書くことはかなり少なくなった。おそらく凍結を恐れてだろう。きっとどこかでもう少しわかりにくい形で差別的言動を繰り返しているのだろうけれど、それでも表に出ずらくなることには意味がある。そうした言葉を読んで傷つく人々が少し減ることになれば、それは大きな意味だ。
とにかく、おかしいことにはおかしいと言わなければいけない。