ホンのつまみぐい

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土地の言葉で話す

 「面白いスタンプに出会えないか」とぼんやりLINEのストアを回遊することがあるのだが、この間方言スタンプというものがあることに気が付いた。

 両親の故郷の山形で検索すると、何十個もの方言スタンプが出てくる。しかも、それらは庄内弁、村山地方置賜地方など、地域によって細かに区分けされているのだ。

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 山形県は県の北側にあたる最上・庄内と、南側に当たる村山・置賜とでかなり言葉が違うらしい。たしかに、両親とも村山の出なので、村山・置賜のスタンプに出てくる言葉はなんとなく耳にしたことがあったが、最上・庄内のスタンプは聞き覚えのないものも多かった。少しの距離でも使われる言葉がずいぶん違うことがよくわかる。

 面白いので母に送るために使いやすそうなスタンプを買い、たまに送っている。

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 東京と横浜にしか住んだことがないので、日常生活で方言の存在を身近に感じることがなかなかない。方言の中には土地の歴史の厚みが宿っているようでうらやましく感じる。

 最近胸を打たれた方言での会話は、絵本画家・長谷川義史氏と、第18代大阪市長平松邦夫氏とのfacebookでのやりとりだった。

 日付は11月2日。大阪都構想住民投票日の翌日だ。

 大阪弁での絵本の執筆も多い長谷川氏は、都構想反対派として投票日までに3枚のイラストをSNSにアップしていた。

 難波橋のライオンの像が「大阪市なくなってほんまにええんか よー考えてや!」と叫ぶ絵。江戸時代の町人らしき男性二人が「大阪市なくなったらどないになるんや?」「家も名前もなくなるいうことや!」と橋の上で語る絵。男性が「ええお天気 さあ!投票に行ってこう!」と難波橋の前で手を広げる絵で、どれも反対の意が示されていた。

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 「ほんまにええんか よー考えてや!」というやわらかい言葉を使ったユーモアのあるイラストは、反対派のキャンペーンに使われ、ポスターやチラシに姿を変えて町を駆け巡った。

 私がライオンのイラストを初めて見たのも、新聞に載っていた反対派の男性が掲げているポスターを通してだった。視認性が高く力強いのに、どこかとぼけた温かみがある。それが長谷川氏の絵だとは、SNSで名前を見るまで気が付かなかった。

 11月1日に行われた住民投票は僅差で反対派優勢で終わった。

 そして11月2日、長谷川氏は再びライオンの絵をアップした。口を閉じて静かに座る難波橋のライオンの足元には「No Side」という文字が書かれている。

 反対派としてさまざまな広報活動に携わっていた平松氏が、この投稿にこんな言葉を寄せた。

長谷川様、シェアさせていただきました。難波橋のらいおんさん、よう頑張ってくれはりました。街頭や、投票に行かれる方に温かい風を送ってくれました。そして、「No Side」ホンマでっせ。

 これに対する長谷川氏の返答は

賛成も反対もみんな大阪を思うての一票ですから。

 というものだった。

 簡潔で何気ない会話なのだが、心から交わされた血の通った言葉のやりとりが、ずっと忘れられないでいる。

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