「アライバル」で知ったショーン・タン。
「アライバル」は東日本大震災直後に大ヒットしたサイレント絵本。一人の男性が移民として別の国(星?)を訪れ、生活していく様子を描く。当時からお気に入りの絵本だったけど、故郷から離れて暮らす人々の物語を、当事者性をもって読んでいたわけではなかった。
しかし、改めて読むと「自分の生まれ育った土地から出ていかざるを得ない人々」の物語はまったくもって他人ごとではない。
その「アライバル」の制作方法が印象的だった。登場人物と同じ服を着てポーズを取り、その姿を写真に撮ったものをもとに絵を描いたり、コンピューターでコンテを作り、場面の構成を入れ替えながら制作したそうだ。
この絵本では見慣れない生き物がまとわりつき、奇妙な災害に襲われる街が、実際に地上のどこかに存在するもののように見えるが、それはこうした制作方法を選択し、年代記としての強度を与えたことによるものなのだろう。
展示の中でもっとも心にしみたのは「内なる町から来た話」の原画だった。動物が今生と違うルールで生息している、人間が特権化された存在ではない世界。あるものはクマに訴えられ、ある集団は蝶の美しさに心を乱される。畳2畳分くらいの大きな絵画を見ているとその絵と同じ空間にずっといたいような気持ち--こここそが自分のいるべき場所ではないかという気持ちになってくる。
高島屋閉店直前の人の少ない時間に行ったものだから、ほぼマンツーマンで見ることもできて、それもよかったと思う。