気持ちが落ちていてぜんっぜん本を読んでいない……。なんかひたすら樹村みのりを読み返していた記憶。
所用あってずっと里中満智子を読んでいる。里中自身はまじめで勉強家な、愛と正義の人なのだろうけど、男性社会への適応を内面化しているようなところがあって、けっこう読んでいてつらい。
『悪女志願』には主人公とシェアハウスをしていたシングルマザーがストレスで子殺しに及んでしまう話があるのだが、逮捕された同居人に対し、主人公は「私はあなたみたいに現実から逃げたりしない」みたいなことを思う。「さすがにそれはねーだろ」と思ってしまった。この主人公が男を変えることでしかドラマを生み出せないつまらない人間なのでなんかへこむ。反面教師として描いてるとは思うが……。延々と男を取り換え続ける女の放浪話という意味では『ハッピー・マニア』のシゲタもちょっと思い出す。
また、彼女の仕事にはクレオパトラや孝謙天皇のような、歴史上の人物の再評価を試みるものがいくつかあるが、最初は民のことを考える賢帝であろうとしているのに、最後に「愛」に流されていって「民どうなったん」とツッコまざるを得ないのが本当にしんどい。愚、愚帝、超めいわく~~。
『女帝の手記』の「天然痘流行ってるけど自己実現のために大仏作りたい~~!と言い出す聖武天皇」も「内政への不満をそらすためあんま必要ないけど新羅と戦争しよう!と言い出す藤原仲麻呂」も、「うわー、現在進行形!!」って感じで落ち込む。「お偉いさん」のメンタルってこんなもんなんだなというある種の諦観さえ生まれる。だからって「お偉いさん」を許しはしないが。
とはいえ、作者のドラマをわかりやすく説明する能力の高さはずば抜けていて、思想の面で引っかかる箇所がなければグイグイ読める。
特に『あすなろ坂』や『アトンの娘』は偽りなく面白かった。
『あすなろ坂』は「男の愛とは、女の愛とはこのようなもの」描写が多すぎるからダメな人はダメだと思うけど、過酷な時代を生き抜く人々をしっかりとらえようという強い意志が光り輝いていて、そのまぶしさに嘘はない。
『アトンの娘』は古代エジプトの宗教改革という壮大なテーマをしっかりわかりやすく読ませる手際に驚嘆した。親子婚すら存在する古代社会だから、里中作品にありがちな日本的な「男女の愛」が強調されないし、王族だからという理由だけど、男女どちらも積極的に政治参加するので、里中の現代劇よりむしろ新鮮な気持ちで読めた。
■「子ども漫画の世界」 (子どもの文化叢書) 斎藤 次郎
教育評論家の斎藤次郎の著書。社会評論と現実のマンガをうまくからませて語っていてかなり面白かった。
「日出処の天子」開始間もないころの特集。「薔薇はシュラバで生まれる」で紹介されていた「『天人唐草』は青春ものというオーダーを受けて作った」話はこちらのインタビューにも掲載。「天人唐草を描き始めた時は最後がどうなるかは自分でもわからなかった」とのこと。亀和田武が参加しているが、座談会でも寄稿でも、はしばしで「まあ、女の子にはわからないと思うけど」的な上から目線の態度を出してきて、本当に気持ち悪くてびっくりしてしまった。
樹村みのり特集目当て。著者インタビュー、単行本未掲載作品『窓辺の人』のほか、斎藤次郎の評論など。もっと樹村作品の評論読みたいけど、なかなかない。
ベスト・ワースト作品を決める読者投票が載っていたので読んでみたら梶原一騎嫌われすぎてて笑った。ちなみにワースト1位は『がきデカ』。ベスト1位は『トーマの心臓』。
また、才谷遼の左翼マンガが載っていて驚いた。話は思弁的だけど、永島慎二みたいな画はかなりいい。こんなのを描いてた人がパワハラで人を自殺させるようになるとは……。てか、才谷はなんで今も業界で生きてるんだ?
70年代の青年がマンガに向けて書いたラブレター。インターネットがもっと個人的な、夜中に書いたラブレターみたいだった頃と通じるものがあって何かよかった。
最近スティーブン・ユニバース観て泣いている。で、日本にもああいう知性的でクイアな子ども向けフィクションないだろうかと思って思い浮かんだのがこれ。山本ルンルン再評価もやりたい……! ただ、個人の資質に頼る日本のフィクションと、チームであれだけクイアなものを作れるスティーブンユニバースではやっぱり差があるなあとも。
とても濃密な内容で、いくらでも語りたいことが生まれる本だけど、個人的に「法制度上のあいまいな扱いが痴漢逮捕の妨げになっている」という点については自分でも人に説明できるくらいしっかり理解したいと思った。元警察官の著者による細かな分析を、一読で理解できているとは思えない。
ウイルスってどんなバイ菌?てひと向け
— ながた💊螺旋じかけの海③巻(私家版)作成中 (@nagatarj) 2020年3月27日
8ページでわかるざっくりコロナ
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↑のツイートの作者の作品。本業はお医者さんとのこと。遺伝子汚染によって身体が変態してしまい、キメラになってしまう人々が出現する世界で、自身もキメラとしてきまぐれに生きる医者兼研究者の物語。知性的かつ優しいストーリーの本格SF。
本作の肝は、キメラ化の進行度合いが進むと人に分類されなくなり、あらゆる社会保障の枠組みから外されてしまうという設定。格差により生命の選別が行われてしまう社会への問題提起も込めながら、決して読者を絶望させない物語展開が泣ける。
アフタヌーンで連載されていたそうだけど、今はなきプチフラワーに載ってそうな感じも。あの頃のSF・ファンタジー好きなら刺さるのでは。平沢進が好きだとのことで、主人公のキャラクター造形にしっかり反映されている。noteで公開されているものも、嫌味のない内容で○。
……と、ここまで書いて、「青木幸子のZOOKEEPERに似てる!」と発見する。クールな生物学もの好きならマストの作品。
金額的に手が出なかったんだけど原画展の会場で拝読。高いは高いけど、たしかにこのクオリティなら……という出来。「三原順って画が丁寧でうまいな……」と素朴に思った。くらもちふさこと西炯子の描いたグレアムはグレアムファンなら喜ぶだろうなあと。(私はサーニン好きです)
www.comico.jp 友人がめちゃくちゃプッシュしていた作品。韓国の昔話を原案に、二人の身分違いの女性の出会いと恋、そして戦いを描く重厚な物語。これも長文で紹介すべき作品だと思うので詳細は置くとして、とにかく画が美しい。ポップなキャラクター造形が美しい背景や衣装に溶け込んでいてすばらしい。今のところcomicoでの配信のみ。
■ガロのパロディをコンセプトに作られた、某マンガの特定カップリングのアンソロジー同人誌
まんだらけで見つけてつい買った。存在はWEBで知っていたけど、原作を読んでいない自分が気づいたときにはすでに完売していたやつ。
徹底した作りこみで古書店のガロの売り場に紛れていても違和感ない装丁にまず震えた。中身はガロ掲載作品のパロディもあれば、なんとなく「ガロっぽい」作品もあり。四方田犬彦のエッセイのパロディまであったのに感動。
それにしても十数人「ガロっぽい」話を描ける人ばかり集まるカップリングというのがすごいし、そこでちゃんとガロが共通言語になるのもすごい。日本のマンガ文化の豊饒さを感じた。本人たちが嫌がるだろうから詳細は出さないけど、すごくいいものを読んだと思った。
※余談だけど、渋谷のまんだらけの同人誌買取ジャンル表を見たら、スチャダラパーとCreepyNutsのほかにKEN THE 390も高額買取対象になっていて、ちょっとびっくり。さすがあの細面はちゃんと文化系のオタクにウケてるんだなー。