ホンのつまみぐい

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文学フリマで、一億円稼ぐホストから「失恋ホスト」を買った話

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 文学フリマ行ったらホストがいた。

 

 文学フリマは「文芸同人誌のコミケ」のようなものなので、基本的にはブースも書き手も客も地味だ。というか、輪郭が薄い。

 

 そんな中、ホストの人たちがいるブースだけは水彩画の中にマジックインキで線を引いたようにくっきりと周囲から浮き上がっていた。単純に衣装が黒ベースのスーツだということもあるけれど、なんだか立ち振る舞いがスッキリしてる。

 

 ブースには関係者が入れ替わり立ち替わり現れていて、ホスト関係者が10人くらいわっと広がる瞬間も。大人数でワイワイしている時間はさすがに近寄りがたかったので、ブースの人数が3人になった時に近寄って、なぜ文フリに出ることになったのか聞いてみた。なんでも、オーナーが九龍ジョーさんと知り合いで、九龍さんが文学フリマで同人誌を出したことを伝えたところ、オーナーが「うちもやってみよう」と言い出したとか。

 

 本のタイトルは「失恋ホスト」。

 

「ホストが失恋って面白いかなと」

「でも、やっぱ本当は書きたくなかったですよ〜」

「この表紙の絵、ホストが泣いてるっていう。それでもカッコつけてるのがいかにもホストっていうね」

 

 3対1。3人のホストが織りなす、この程度の、ごくたわいない会話。しかし、真ん中の人の顔が良すぎて(SKY-HI似)、なおかつ3人が順々に繰り出す話の軽やかさが見事すぎて思わず笑顔になってしまった。マジか。

 

 付き合いの長い人なら知っていると思うが、私は顔のいい人間にあんまり興味がない。顔の良さに感心したり、感動したりはするけど、見ているだけで笑顔になるなんてことはまずない。

 

 それなのに、話しているだけで笑顔になる。これはヤバいな。

 

 ホストの人たちは会話中にこちらに一切気を使わせない。しかも、ガツガツしていない。会話って多かれ少なかれ、お互いががんばらなきゃいけない部分があるけれど、そういうのが一切なく、こっちはただただテンポのよい言葉の流れを楽しむことが出来る。立板に水という言葉があるけれど、それはまさにこれじゃないか。

 

イチローはストレッチから入場までの一連の型が完璧に決まっているというが、その手の洗練を感じた。洗練を極めたチャラさ。

 

 しかも、本一冊1000円なんてホストからしたらはした金だろうに、何の引目も感じさせずにサラサラと楽しくお話させてくれる。これはたしかに疲れていたり、顔のいい男としゃべりたかったら大層効くだろうな。

 

 怖いので、「どうもです~」とか言いながら本を買って退散。

 

 中身を読んでみる。最初の話は、月300万貢がせてた女の子に最終的に捨てられた話。今は彼女以外と付き合う気が起きなくて、風俗だけだとか。

 

 300万て……。最近ちょこちょこ風俗の本を読んでいるのだけど、それって本番やって毎日フルで働かないと得られない金額では? いや、そりゃ捨てられるでしょ。

 

 しかし、ホストの人たちはそうやって稼いだお金で成り上がること自体が、女の子に対する恩返しだと思っているらしい。

 

「おれに何百万と貢いでくれたあの子のためにも成り上がらなければ……!」と。そういうもんなのか。いや、でも月何百万とかさすがに女性の人生ぶっ壊してるし、本人たちの倫理観も壊れてるのでは。

 

 中には、「彼女の連れ子を必死で育てながらホストをやってたけど、結局捨てられて、再婚した彼女のインスタで子どもたちの顔を見てほっとした」なんてほっこり話もあるけど、読み終えるとにわかにホスト社会に対する恐怖心が芽生えてくる。みんな「男はこうあらねば」という強い男性性に縛られている……。

 

 また、読後には敗北感もある。それはホストたちが徹頭徹尾「自分の人生の主人公は自分」という意識で動いているからだ。だから彼らは寝る間もなく仕事に励むのだ。この自我の強さは、残念ながら自分にはない。

 

 でも、その努力の直近の目標が女の子に貢がせること(もちろん、楽しい時間を提供してこそと思っているだろうけど)というのが、やっぱりコワッとはなるのだった。

 

 ちなみに、SKY-HIくらい顔のよい真ん中のホストは、1億円プレイヤーと呼ばれた一条ヒカル氏だったらしく、「さすが1億の接客は違うぜ……」としみじみ思った。自分でホストクラブに行く選択はないから、もう二度と話すことないだろうなあ。

 

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