ホンのつまみぐい

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大衆演劇初体験/たつみ演劇BOX「三人吉三」@篠原演芸場

 ストリップで知り合ったKさんと、もと演劇雑誌の編集者のHさんの案内で大衆演劇を見ました。関東台風直撃の前夜、帰りの足があるかハラハラしながらの日でした。 

 場所は十条の篠原演芸場。駅を降りて古い商店街を歩いていくと、店先のあちこちに劇団のポスターが。そういえば横浜の三吉演芸場の周辺でも、大衆演劇のポスターを見たことがありました。

 入り口はちょうちん、のれん、のぼりに彩られ、いかにも芝居小屋という雰囲気。急いで中に入って、Hさんが用意してくれた予約番号の席に着席。床は畳。あちこちに見える木の肌。初めての場所だけどどこか懐かしい感じ。席数は130席ほどだとか。

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 40〜70代の女性が客層のメインですが、若い女性やおじさんもちらほら。

 

 開始前にHさんの話を聞きます。今日の劇団はたつみ演劇BOX。芝居の質の高さに定評があり、歌舞伎でもなかなかやらなくなった演目を原型のままかけてくれたりするのだという。大衆演劇は芝居のちショーという構成のところが多いけれど、今日は後片付けが大変な芝居のため、ショーを先にやるとのこと。

 

 大衆演劇の多くは世襲制。この劇団は2人の兄弟が座長を務めています。Hさんは彼らの姉の小龍さんという方が好きなのだそう。小龍さんは男性上位の演劇界で、役者だけでなく台本も務める才媛なのだとか。宝塚や歌舞伎のことなど、いろいろな話を聞きました。

 

 会場内で売っているおにぎりを買って着席。

 

 まずはショーから。日舞に演歌によさこいにヒット曲での群舞に……曲も演技も踊りもいろいろ。衣装豪華で、バラエティ豊かですごいな〜とぼんやり眺めていると、時折役者さんが舞台のへりで身を屈める場面が。そう、大衆演劇では駆け寄るお客さんがおひねりを渡すのです。手で受け取るようなことはしないため、身をかがめて服のすき間に挟んでもらったり、ヘアピンで札を止めてもらったりしています。

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 おひねりの相場はピン札1万円の人多し。Kさん曰く、たまのポチ袋入りは1万円以下ではないかとのこと。大衆演劇は木戸銭が2000円ほどなので、感謝と活動の継続への期待を形にしているのでしょう。

 

 なるほどと思いながら見ていると、ある役者さんの胸元に、ピンでまとめられて扇のように広げられた一万円が……。その数10枚。しかも、それが2回。十万円を手にした真っ赤なスーツのおばさまが駆け寄るのに合わせ、スッと身をかがめる役者さんの作法も含め、初めてヤバいものを見てしまった気分に。

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 いや、いいんですよ。私だってアイドルや演劇を見ているから、大衆演劇が木戸銭じゃ賄いきれないことは見ればわかります。しかし、こんなにはっきり経済が可視化されるようになってるってコレ、なかなかないなあと。絶対、マウント合戦すごいはず。もちろん、マウント合戦はメンズ地下アイドルでも、2.5次元ミュージカルでもおなじみなので、大衆演劇特有のこととは思っていませんが。

 

 十万を受け取った役者さんは、今劇団を休止して個人で歌手活動されている方だそうで、おひねりをした方は久々の邂逅に、気合いを入れたのでしょう。

 

 

 ショーが終わっていよいよ芝居。演目は「三人吉三」。義兄弟の契りをかわした三人の盗賊と、彼らに翻弄される人々の物語。

 

 実は私、歌舞伎を観たことがなく、これが初めて歌舞伎の演目に触れる機会になりました。歌舞伎の筋書き、率直に言って野蛮ですね……。現代人にはよくわからないモラルによって人の生死が決まる。登場人物にまったく共感できません。おとせと十三郎かわいそすぎでしょ。

 

 ただ、その極端で刹那的な行動には近代的な打算や忖度がない。私はどうしても「人権とは……」と考えてしまって没頭出来なかったのですが、これだけ純度の高い感情をぶつけられれば、そりゃ心が動くのはわかるし、ハマる人もいるでしょう。舞台装置も演出もケレン味があって、見ごたえはばっちりだし。

 

 そして印象的だったのは、けっこうほころびがあるところ。

 

「あ、この人、今思い出しながら喋ってる」とか、「あ、ダンス間違ってる」みたいなところがちょいちょいあるんです。主役クラスの人はそうでもないのですが。

 

 でも、それも無理はない。大衆演劇は毎日芝居とショーの内容を変えるのが通例らしく、ひとつの演目を連続してやることは基本的にない。そりゃ、台詞もふわっとしますよね。それに、「この舞台にはこの場面が、この感情が必要なんだ」というところではちゃんと決めるし、何より膨大な時間舞台に立ってるだけあって貫禄が普通の役者と全く違う。

 

 これ、大道芸人と近い部分があるかもしれません。常にお客さんを意識しながら振る舞う大道芸人は、自分の世界に没頭しきることが出来ない。でも、だからこそ芸そのものの地力が必要だし、たとえミスがあっても立て直す機転が必要です。大衆演劇の役者さんにも、それに近い説得力を感じました。

 

 表現が難しいところですが、エンターテイメントには「限られた条件の中で本物を見せる」力が必要なことがあります。この芝居からは「本物」を感じました。

 

 大衆演劇の役者さんはプロだけど、洗練された自己表現を見せることを最終目的としたプロではない。毎日来てくれるお客さんを飽きさせず楽しませるプロなのだな。

 

 最後には入り口でお見送りといって衣装のまま握手。これも通例らしい。K-POPや宝塚から流れてくるオタクがいるというのもなんとなくわかりました。

 

 ところで、ショーに一人、舞台に立つのが幸せでたまらないという風情の終始笑顔の女の子がいて、その子が出るたびに視線を送ってしまいました。水を得た魚という言葉ってこういう状態なのかと思うくらい。

 

 その名は辰巳満月ちゃん。芝居にもおとせという大事な役で出演していましたが、役を演じているというより、舞台の上でもう一つの生を生きていると感じさせる。Hさんが「小龍さんや満月ちゃんは新派だったらトップ」的なことを言っていましたが、よくわかります。

 

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 満月ちゃんがもう一度観たいので、いつかまた関東に来た時は観に行くかもしれません。ただ、今度はまた別の箱で観てみたいな。

 

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