風を「暖かい」と思う瞬間が増えた頃に、歩きながら聴くNujabes。
まるで春の陽気のために用意されたBGMみたいで、薄手のコートをはおって音にあわせて歩くと、まるで自分が映画の登場人物であるかのように錯覚できる。
3年ぶりくらいのVampilliaは永福町のソノリウム。聞き覚えのない場所だと思ったら、普段はクラシックコンサートなどに使われている箱らしい。
天井が高く、内装は真っ白。キャパは100。客は木のイスに座ってステージを眺める。ライブハウスの傷や汚れを積み重ねた猥雑さに比べると、はるかに清潔でしんとした空間だった。
しかし、小さな教会のようにも見えるその空間は、ライブハウスとは別の、異界への扉が潜んでいるようにも思えた。小さいころ読んだ児童文学の舞台にもなりそうな、何かの拍子にファンタジーの世界へ飛んで行けそうな。
私はVampilliaを聴く時に目をつぶっていることが多いので、イスに腰掛けながら音楽が聴けるのはわりとありがたかった。
目を閉じながら耳をすますと、頭の中にさまざまな記憶がぐるぐる回っていく。しかし、その記憶のほとんどは悪口とかコンプレックスとかプレッシャーとか、自分の頭の中にへばりついたゴミみたいなものばかりだ。
美しい轟音にこの脳内のゴミ箱っぷりはそぐわないと思い、途中からこの音を元に絵画を描くならどんな絵になるだろうと思いながら聴いていた。
Vampilliaの出す音そのものはずっと気持ちよく、蠱惑的だった。この世のどこにもない場所について、音を奏でているようなところがある。よく耽美的と言われるのは、そういうロマンチックなところだろう。自分の気持ちと音の波がうまく重なって、すっと没頭できる瞬間がたまにあって、そういう時間をもう少し長引かせることが出来ればいいなと思った。
Endless Summerのツジコノリコさんのボーカルをモンゴロイドさんが歌っていたのは、いまいち間が抜けていた。間が抜けていると言えば、合間のMCでVMO兼任の細面のメンバーが「7月に梅田クワトロでワンマンをやります!……我々も、ちょっといい感じになってきたんじゃないでしょうか?」と言っていたのも、なんだか気さくすぎて、官能的でストイックな音とのギャップが面白かった。
最後の一曲で、来日しているというゆかりの深いアーティストがゲストで1曲歌っていたけど、それまでにテンションを完成させたバンドと、まだ気分が乗り切っていないゲストのコラボレーションは、ちょっとかみ合いきらないものがあって、そのあたりも人間味があった。ブラックメタルバンドのAlcestのNeigeという人だったらしい。
道幅の広い、静かな下町を通りながらの帰り道まで含めて、充実した時間だった。