「すげー」と「うーん」が入り混じる感じでした。BADHOPワンマンライブ。や、もう4か月も前のことなんですけど、アーカイブとしてね。
BADHOPが川崎クラブチッタでワンマンライブって物語がめちゃくちゃ強いじゃないですか。ヤクザか職人の2択しか経済的に潤う方法がないと言われる川崎の貧困家庭の不良少年たち。音楽を通じてそのよどみから抜け出そうとしている彼らが、地域でもっとも有名で大きな箱でワンマンライブをやる。しかも無料。
BADHOPはこの時期、ALLDAYというCDを、アパレルショップや懇意にしているCDショップに置いてもらうという方法で無料配布していて、これはとてもうまいと思いました。自分たちの日ごろの生活から考えて、「どういう人に手に取ってもらいたいか」をちゃんと目に見える形で示す方法はとても戦略的だし、通販はあったものの、大手販売店には渡さず、限られた店舗で配布するというのもワクワク感があってよい。(ドミノピザに怒られたらしく、配布終了してしまいましたが……)
フリー配布やフリーワンマンという方法は、もちろん広く自分たちの音楽に触れてほしいからだろうけど、やっぱりかつての貧しい仲間や子供たちのことも頭にあるんじゃないかと思います。
遊びに行くお金もなく、自分たちの生まれ育った町から出ないままの少年少女たちが住む川崎。そして、給食の時間にBADHOPが流れるという町、川崎。(まあ、川崎は大きいので、ここで言う川崎とまったく違う川崎の方が広いのですが……)
一足先に大阪で行われた無料ワンマンライブがパンパンだったと聞き、ちょっとドキドキした気分で、当日はツイッターで会場の様子を検索しながら川崎に向かいました。20時開始のライブに19時ごろ着。
もうスルスル入れる状態になっていて、もっと混雑するかなと思っていたのでちょっと拍子抜け。入り口前に設置された喫煙所で大勢の若者がタバコを吸っていました。中に入ると迷彩のヤンキーとチューブトップのギャルがぞろぞろと。おお、すごいHIPHOPっぽい……。
客入りはこの時点で8割くらいで、最終的には1000人くらい入っていたはず。前方に人がみっちりつまっているのが遠目からでもわかる状況。ステージ上のDJがFLYBOYRECORDSやSCARSの曲を流し、「BADHOPの地元でのワンマンーーー!」と叫ぶけれど、あんまり盛り上がっていなくてちょっと気の毒。アイドル現場だったら関係ない人でもとりあえず「ウェーイ」っていうのに冷たいな。DJはDJCHARI、DJTATSUKI、DJTYKOHの3人だったらしいけど、どの時間のDJが誰なのかはわかりませんでした。
DJタイムの終わりにKOWICHIが登場して「俺が来なきゃはじまらねーだろ!」と叫ぶ。
BADHOP登場の場面はあまり記憶になくて、手元のiPhoneのメモにも何も書いていないんだけど、前方で一斉に携帯が掲げられたのはうっすら覚えています。
ステージの上の青年たちの一挙一動にワーッ!キャー!という声が飛び、フラッシュがたかれます。最後方で見ていた私の隣には、高校生くらいの男の子がいて、興奮を抑えきれないというように曲に合わせて身体を動かしている。
BADHOPのMCはとても率直で、「ずっと酒と女と金しかしてないけど、それが俺たちなんで」「東京に負けない川崎の根性見せたい」という言葉に育った町への葛藤と愛情がのぞく。
「街から逃げ出したいんじゃなくて、このクソな現状から抜け出したいんですよね」という前置きから、「川崎のイメージ悪くなるかもしんないけど。大阪でもやるか迷ったんですけど、やります」からPAIN AWAY。
わかんねえ 人間どうあるべきか
包丁の刺し傷タトゥーで消した
ノックの音でかくなる玄関
開けたら数人のヤクザ
土足で回すカメラ お袋は土下座
など、痛々しいラインの続くこの曲を歌い上げる2WIN。「ああ、まるで映画のようだ」と思いながら、中央で叫ぶYZERRを見つめる。
そして、最後のMCで、「正直俺が流行らしたよ。この街にヒップホップ」というT-Pablow。
「俺はバトルで目上の人に死ねとか言ってるやつとは違うよ。俺たちは自分の言葉に責任持ってるから」という自身の矜持を語ってからのLifeStyleで終演。
こうやって書くと大団円の流れだったのだけど、1観客として率直に言うと、被せの大きさやフロアのもてあまし方が終始気になって、ライブを楽しむというより若者を観察するという目線に立ってしまいました。
FIRE BURNに「Fire Burn アイドル共逃げ出しな」ってラインあるけど、歌いながら踊るアイドルでも、少なくともチッタでやれる子はあんなに被せ大きくないよ。楽しそうに真剣にやっているけどまだ客のことまで見えていない感じで、フロア前方と後方のテンションの差も大きかった。
そして、いわゆる音楽メディアがほとんど取材に来ていなかったことや、結局最後まで満員にならなかったことにちょっとショックを受けました。動画はBlack FileTVが公開していますが、把握している限りでは、磯部涼のAERAへの寄稿以外にライブのレポートを見ていない。ローカル局っぽいTVのカメラが回っていたようなのですが、そちらはまだ確認できていません。
まだまだ音楽としての注目度は低いのだなという実感と、数値化できないけれど何となく感じてしまう少子化の陰。まさしく凱旋というべき日だったのですが、一方で今後の彼らの道のりの長さを思わされるライブでした。