展覧会タイトルの元になっている書籍はまだ読んでいない。
石田家の日常と、病院での日々と、植本さんの日々。
泣くかと思ったけど、一枚で情動の引き鉄を引くような写真はなかった。マスクをつけたふたりの娘がベッドに横たわるECDを見ているところが唯一物語のある写真だろうか。懐かしい恐怖心がよみがえってきて、少し悲しくなった。
写真には撮影者と撮影対象の距離が映るというが、実際は定義しきれない対象との距離を客観視するためにシャッターを切ることもあるのではないか。
日常はかけがえがないとか、すばらしいとか後から定義するもので、その場には名付けようのない表情が存在する。そして、写真がそれを捉える。
最終日、植本一子さんが在廊。なぜか寺山修司のお面をつけながら、サインや会話に応じていた。
ECDはどの写真でも、あの、何かをのぞきこんでいるような穏やかな目をしていた。