フッドが産まれ育った街に直結しているサイプレス上野のトークイベントが12月17日。翌日18日はうって変わって、ネットでつながったオタク青年たちが運営するイベント「Tinpot X-Max(チンポクリスマックス)」へ。
ブログで何度か書いていますが、主催の「Studio Tinpot」 (ビートメイクにおいてはMAZAIRECORDS名義)は、「オタクとヒップホップ」を共通項に、ネットを通じて知り合った青年たちのサイファーが元になっています。だから、サイファーの場所は決まっているものの、メンバーの地元や現在の住居もそれぞれ違いますし、サイファーのメンツの中には1時間半以上かかる場所から来ている人もいる。でも、集まったメンツはそれぞれStudio Tinpotに愛着を持っていて、特定の土地ではないけれど「人が集まる場所」としてのフッドが成立しています。
そんな彼らが主催するクラブイベントの3回目。12月18日の金曜日、24時からという日程は中年社会人にはハードでしたが、会社の忘年会を終えてなんとか川崎のアニソンDJバー「月あかり夢てらす」に到着。
会場に着くと受付のDocManju a.k.a ぽじぽじくんが私物の「中古屋で見つけたらとりあえず買ってる黒人ジャケCD」を配っていました。2枚もらって中に入るとJabvaraさんのオープニングDJ中。
DJタイムが終わるとホストMCのヤボキシイくんの開会宣言。
「あの!オタクがラップをする!チンポマニアックス!!しかもクリスマス〜〜。
オタクに本物のクリスマスはこない!
みんな家でデュフフとか言いながらツイッターしてるでしょ!俺はバイトしてます!
そんなみんなのためにサンタさんが集まってくれました~~!」
「いえーい!ヤボシ!ヤボシはいいぞ!!!」と騒ぐオタクたち。
最初のイベントは1on1バトル。Studio Tinpotのバトルは通常のバトルと違い、審査員制。
先攻が提示された3つのお題の中から一つを選び、両者それに沿った話題(正直おもしろければあんまり沿ってなくてもいい…)でバトルする。審査員が「かっこいい」「おもしろい」「キモい」といった独断と偏見に基づいた基準で試合中のパンチ・ラインの数をカウントし、その合計数で勝敗を決める。ノリを重要視するため事前エントリー不要。
という特殊ルール。しかも、今回は加点だけでなく減点制度もあり。NGワードを言ってしまうと1点マイナスというルールになっています。バトルの内容は正直コンプラだらけ(下ネタ的な意味で)で、とても文字に起こせる内容ではありませんでしたが、対戦カードとテーマ&NGワードから当日の様子をうかがってもらえれば幸いです。
★対戦カード:テーマ:NGワード「」
〇ぎぎぎのでにろう×コスモ:ボッキ不全
カクニケンスケ×樫〇:自家発電
あらいぐま×ロリコム〇:お〇んちょ
今日犬×イーエックス〇:日露開戦→延長のテーマ:上坂すみれ
オラディー×コース〇:女性声優
〇茶怒×マルカ:剃毛
ガジランム×だねこ〇:セックスの才能
〇ワッショイサンバ×MANOY:〇ーメン
無能×らいんひき〇:人種差別
〇マミヤ×hzm:マサラタウン
遊牧民×時崎〇:オフ会
〇でにろう×樫:テンガ
ロリコム×いーえっく〇:無修正
〇茶怒×こーす:ありえん
〇ワッショイサンバ×だねこ:子作り
〇らいんひき×マミヤ:万華鏡写輪眼
→ここから時間がないのでトライアングルバトルに。NGワードも追加。
いーえっく×でにろう×茶怒〇:おっぱい:NG「セックス、性交、にゃんにゃん」
時崎×〇らいんひき×〇ワッショイサンバ:二郎:NG「みたいな感じ」
らいんひき×〇サンバ:キンタマがかゆい:NG「ヒップホップ」
★決勝★ 茶怒×ワッショイサンバ〇:浣腸:NG「フロウ」
少しはその内容が伝わったでしょうか。……無理か!
どんな形でもいいのでバトルを経験したことがある人ならわかると思いますが、マイクを握った瞬間に放たれる言葉の中には、意外なほど「自分の中にある経験や感情」しか出てきません。「自分自身の中身を言葉にしてぶつけ合うのがMCバトル」と言い換えることが出来るくらい。
そのままならなさは、もちろんこの日のバトルにも通底していました。そうしたMCの制御し難い心理と、「とにかく面白かったほうが勝ち!」という美意識が合わさった結果、参加者は皆「性癖や人生や生活習慣をありったけのバイブスで痛烈にぶつけあう」という異常な空間の共犯者になっていったのでした。
とてもじゃないけれどブログには書けないような性癖暴露から、「俺は今度お母さんと一緒に上坂すみれの武道館ライブに行く!」という日常生活暴露まで。異様なワードセンスから繰り出されるパンチラインに、比喩ではなく膝が崩れ落ちるくらい笑いました。だれかがこぼした「MCバトルというより『リズムに乗ったゲスい飲み会』」という比喩がぴったり……。
中でも、「俺は川越から川崎までオナニーしながら歩いてきたんだ!」に「お前が落としたティッシュの後を歩いてきたよ。さながらヘンゼルとグレーテル」とアンサーした試合はファニーでよいなと思いました。なんかかわいくなってる。即興の生み出す化学変化。(MC名は一応秘す)
その後はMr.SmileさんとShirayukiさんのユニットSNOWSMILEのライブにKalnoさんのDJタイム。
SNOWSMILEは2人ともラップが巧いんだけれど、音はゲーム音楽っぽいアレンジを活かしたわりかしキュートな曲調。バトル中のMr.Smileさんは正直ものすごく憎たらしいキャラクターなんですが、そのギャップも含めて面白かった。
SNOW SMILE「HATSUYUKI」全曲解説 interview | Madobe
どちらもゆるりと、だけど明るく楽しく盛り上がってました。ちなみにDJタイムでは当然のように『2012年にクリスマスが終わる』がかかりましたね。
ライブとDJが終わり、過去のTinpot Maniax歴代チャンピオンによるタッグマッチが開催。
チャンピオンが選んだ仲間を引き連れての3on3大将戦。引き続きテーマ設定あり。NGワードも最初から導入されます。そして、ここからラッパー代表として登場したカクニケンスケさん、時崎さん、BATTLE手裏剣さんの3人がタッグを組んでオタクのタッグと対決することに。
すでにバトル界隈でのプロップスも高い3人ですが、この日は彼らに対抗する強烈なオタクのタッグが存在しました。それが茶怒・ヤボキシイ・遊牧民チームです。飛躍したワードセンスに固い韻、そして淡々としたラップでなぜか勝ち上がる茶怒さん。バトル中だけ謎のポタクキャラを降臨させて勝ち上がる憑依型のヤボキシイくん。そして、常に半袖アロハシャツで「俺がさいこうーーー!!」と大声で叫んで無理やり勝ち上がる遊牧民さん。決勝も最終的にこの2組のバトルになりました。
1回戦のテーマは世界平和:NG「つまり」
カードは茶怒・ヤボキシイ・遊牧民チームVSマジコン・コスモパワー・ミシェル。
マジコン×茶怒〇
コスモパワー×茶怒〇
〇ミシェル×茶怒
〇ヤボシキイ×ミシェル
★茶怒チーム勝利
第2回戦のテーマはくさいオタク:NG「イエーイ」
カードは時崎・カクニケンスケ・BATTLE手裏剣VSオラディー・ぽじぽじ・無能
カクニケンスケ×ぽじぽじ〇
〇時崎×ぽじぽじ
〇無能×時崎
無能×BATTLE手裏剣〇
オラディー×BATTLE手裏剣〇
★時崎チーム勝利
そして決勝戦。決勝戦は1試合ごとにNGワードが増えていく鬼畜仕様。
茶怒さんの強さについてはちょっと解説しづらいのですが、あえて言えば自意識がまったく邪魔をしないラップと強烈なワードセンスでしょうか。たいがいバトルの後はその人がどんな人か何となく共有できるものですが(草バトルならなおさら)、彼はどれだけ聞いても本人がどんな人なのかよくわからない。
でも、「トランプ大統領ありがとう/俺のために大統領になってくれて」「ここは日本だぜ/トランプ大統領から花札大統領に改名」。など、よくわからないけどやたらインパクトのある言葉をしかも意外に固めの韻で打ち込んできます。どういう流れか忘れましたが、この日は「俺も妊娠してみたい!」と言い出し、それを受けた時崎さんが床に座り込んで「俺も妊娠してーーー!」と絶叫するというわけのわからない展開を誘因しました。
ヤボキシイくんは「ポタクキャラ」を憑依させて「もれは感情を失ったポタク……!」「はっ、感情が感情が生まれた!」などと言い出すつっこみづらいキャラ作りで相手をかく乱させます。
そして、遊牧民さんは基本的にはほぼ、でかい声で「俺がさいこーーー!!!」を連発するだけなのですが、とにかくその強力なバイブスに誰もが飽きれつつ気圧されてしまい、最後についつい爆笑してしまうという稀有なキャラクター。
反則の連続のようなMCたちに対し、「あんなの勝てねえよ~~」という言葉がラッパーから飛び交う。BATTLE手裏剣さんはとうとう「ホント勘弁してくださいよ、もう~」という愚痴からのアンサーで、手を膝に置きながらバトルするという、おそらく他ではありえない反応がバンバン引き出される特殊なバトルに。
最終的にテーマ・トランプ大統領で始まったバトルはオタクチームの勝利で終了。
NG「オタク」
〇茶怒×カクニケンスケ
追加NG「ライム」
〇茶怒×時崎
追加NG「マ〇コ」
〇BATTLE手裏剣×茶怒
追加NG「くさい」
BATTLE手裏剣×ヤボシキイ
延長の追加NG「チ〇コ」
〇BATTLE手裏剣×ヤボシキイ
追加NG「ラッパー」
〇遊牧民×BATTLE手裏剣
最終NGワードは「オタク・ライム・マ〇コ・くさい・チ〇コ・ラッパー」(途中から試合前に確認のためNGワードをみんなで読み上げてコールする流れになったのもかなり狂っていた)
車座になってお互いを慰めあい、土下座するラッパーたちの姿とバンザイを続けるオタクたちの姿に爆笑しました。
昨日Tinpot X-Maxお疲れ様でした!ヾ(*´∀`*)ノ
— カクニ ケンスケ (@kakunidao) 2016年12月17日
MCバトルであんなに笑った&負けたのは初めてです!
スマイルに呼ばれて3on3出場させて貰ったんだけど、写真が4コマ漫画みたいになってたから貼るね!
結果は決勝負けです(´。~ω~。`)💧
またリベンジします! pic.twitter.com/YUk7fX3smu
バトル終わってDJ・神と和解せよさんの「オタクの人たちおめでとうございます」から「ラッパーは雑魚です」という言葉に「うるせー!」とつっこむラッパーたち。そして始まるラブライブセットのDJ。
前日のコンプラ祭りのトークイベントを上回るコンプラ連発イベントで、2日間で1年分くらいの爆笑を体験しました。
深夜から早朝のイベントでボーっとするかと思いきや、あまりに刺激的でまぶたを閉じる暇がなかった。すごいイベントだったと思いながら、ふっと「そういえば、昨日のサイプレス上野の『別に犯罪自慢したいわけじゃなくて、こうやって一緒に遊んできた人たちもかけがえのない存在で、そういう人たちと楽しんでいくのもヒップホップじゃないかっていう』って、まさにこの場だよな」と思いました。
(UZIさんの事件を踏まえて追記するけれど、般若ですらかつて吸ってた話が浮上している中、サイプレス上野は「ドラッグやってない」って再三主張しててそういう証言が一切出ていない数少ないラッパーだし、ここで書いてる犯罪も遊園地に忍び込んだとかそういうことですよ:2018年1月22日)
ひょっとしたらこの場をヒップホップと認めない人もいるかもしれないけど、「ヒップホップの枠組みでは、こういうくだらなくて楽しいことが出来ない」っていうのであれば、それはそれで、無理にヒップホップにこだわらなくてもいいんだろうなあ。これはイベント参加者の総意ではないのですが、少なくとも私はそんなことを考えました。
だって、面白いから文章の上ではラッパーとかオタクとか分けて書いたけど、そういうの抜きにしてみんな馬鹿みたいに爆笑してたし、心の底から楽しんでたし。
それがヒップホップなのかどうかはわからないというか、どうでもいいけれど、皆が楽しめる最低で最高な場所を作り出せていた運営のみんなに心の底からリスペクトを送りたいと思いました。ちなみに、撤収終わって外に出たところ、遊牧民さんはバーの中だけではなく、12月の寒空でも半袖アロハシャツ。ぶれない生き様に“リアル”がにじみ出ていました。
◆配信中のMAZAI RECORDSの音源
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