ホンのつまみぐい

誤字脱字・事実誤認など遠慮なくご指摘ください。

「ラッパー同士はしゃべるよりラップした方がお互いがわかるって マジでその通り」女子向けラップ練習会に参加しました

 本番数日前に「あっ、そういや私、頭の回転遅かったわ」「その上、リズム感とかゼロだったわ」と気付いてギョッとして、これは対策を考えねばと思いつつ参加した「女子ラップ練習会」。

 

 フリースタイルダンジョンからラップにはまり、ひとりでサイファーに飛び込んだり、バトルに参加したりという意欲的なM女史。そんな彼女が「もっと女の子が気楽にラップできる機会がほしい」と思い立ち、始めたのが「女子向けラップ練習会」。

 同じく、フリースタイルダンジョンからMCバトルの存在を知った身ですが、これは一度体感せねばと思い、参加を申し出ました。

 ただ、個人的には「MCバトルで勝ちたい」「ビシバシ韻が踏めるようになりたい」などといった高い目標は特になく、あえて言うなら「ヒップホップの詩人たち」で、ダースレイダーの逸話として紹介されていた「何時間もフリースタイルをしているうちに、自分でも思ってもみない表現やフレーズが出てくる」という状態を体感してみたいというくらいの気分。

 また、ラップアイドル現場や行きつけの喫茶店でもサイファーが当たり前に行われていて、なんとなくうらやましくなっていたのもありました。

 

 とはいえ、やるならある程度は口が動くようにならないと楽しくないはず。何日か前からなんとなくビートに乗せて言葉を発するようにはしていましたが、これがびっくりするくらいうまくいかない。

 なるべく頭を使わず、ただ言葉を垂れ流せるようにと、テーマは「フラッペは味が薄くなって途中で飲み飽きる」とか「初めての握手会の感動が懐かしい」とか、意味の無いことばかりをラップするようにしていたのに、それすら1小節も持たずに言葉に詰まってしまう。「とにかく途切れずラップしないと……」と思った結果、「手順がわかっている」という理由でスルスル言葉が出る「圧力鍋の使い方」や「朝ご飯の作り方」を淡々とラップしていくことに。

 DJみそしるとMCごはんという偉大な女子を思い出しつつ、これはヤバイと危機感を抱きました。練習でこんなんじゃ、本番で言葉に詰まって「うるせえ!ばかやろー!」とか言ってしまうのが目に見えている。

 とはいえ、これ今から練習して当日までにうまくなるようなものではないな……。開始数時間前まで危機感を引きずりながら、携帯でビートを流しつつ、それなら見た目から入るしかないと達観。

 何日か前まで、着るならBiSのIDOLTシャツかアロハシャツかなと思っていたのですが、ここは「うるせえ!」とか言わなさそうな地味な服を着ていくか。そして、取材が入ると言っていたから、顔見えないようにサングラスを持っていこう。紺色のシャツと黒のロングスカートに着替え会場へ。

 

 到着すると、思った以上にいろいろな服装の女子が集合。パフスリーブにギンガムチェックにハハノシキュウキャップ、お寿司のネタが描かれたTシャツ、迷彩ジャケットにミニスカ、白のワンピなど、何の集団か端からはよくわからなかったのではないか。

 総計9名の女子と、運営の手伝いをしてくれているラッパーのYさん、Pさん。それに取材スタッフが畳6畳ほどのスタジオへ。ちょっと窮屈な状態で、最初はオープンマイクでの自己紹介サイファー。

 すでにバトルに出たりと、経験値の高い女の子が何名かいたけど、後は初ラップの人が多めでした。今度は大学生ラップ選手権に出るというWさんと、ゲストMCとして登場したラップを初めて4~5年目というKさんが韻を踏みつつ、しっかり聞き取れる声でラップしていて驚愕。主催のMさんも、趣旨の説明をラップでやるし、みんな対応力が高い。韻なんて絶対踏めませんな。若い子は頭の回転が速いなあ……。言葉吐き出すだけで精一杯だし、吐き出したら次はビート聞こえなくなってしゃべってるだけになっちゃうよ……。

 サイファーが繰り返され、自己紹介から続いてラップを好きになったきっかけに続き、取材班の提案で彼氏がいるかどうかの話になり、なし崩しに彼氏ほしいラップおよびどんな芸能人が好きかラップに。サングラス装着して再度参加。

 個人的にはここで

好きな芸能人はいないけど好きなラッパーはサイプレス上野
(あっ、これ人に伝わる言葉で言わないといけないんだよな)
レペゼン横浜なのもあるけど
いい人オーラが半端ない
(いや、違うな。こんなこと言いたいわけじゃないわ。てか、吉野!吉野のこと入れないと)
くだらないこと真剣に出来る奴が一番かっこいいんだ!
〇〇〇〇〇(取材に関することなので公開まで伏せ字)見てろよ!
ロ吉と今日もぶっかます!プチャヘンザ!

 で落とした瞬間、ものすごくオタクとしてやりきった感がありました。もう思い残すことはない……。正直、自分の「こう語りたい」という脳の動きが言葉としてフィードバックされたのは2時間の中でここだけでした。

 

 サイファーの後はMCバトルに。最初にテーマを決めての戦いということで、事前に用意された言葉からひとつ選んでトーナメント形式でバトル開始。最初のKさんと3さんからレベルの高い戦いで、お互い服装disというベタなところから入りつつ、違ったラップスタイルで攻めていくのが見応えがありました。

 面白いなと思ったのが、思った以上に即興での言葉が、それぞれのキャラクターや意外な個性を引き出してくれるところ。

 責任感強そうな主催のMさんが聞き取りやすくて丁寧なアンサーをしているのは雰囲気に合っていたし、反対に背が小さめで小動物系の可愛さのMUさんが「肉じゃがの作り方を教えろ」という無茶ぶりに「女は肉じゃがなんて前時代的だな」とdisり返したのは、いい意味で見た目とのギャップがありました。女の子がニコニコしながらdisると効くなー! Wさんが盛大にfacebookをdisっていたのは、ある意味想定内でしたが。

 私の第1戦は「無印良品」テーマで後攻。相手のSさんが

「hontumaなんていうから誰かの嫁かと思ったら 彼氏もいないとか
無印良品で買ったような地味な服かと思わせといてサングラスかけてるしわけわかんねえ」という至極まともなラップを受けて

「そうだよ 今日のこれ無印だよ 痩せ見え服だから黒を買ってるんだよ
アロハだってアイドルのTシャツだって好きで着るんだよ!」というようなことをもはや韻もビートもへったくれもなく叫んだらありがたいことにウケたみたいで勝てました。地味な服を着てきた甲斐があった。

「ただ叫んでるだけじゃん! 全日プロレスか!」と言われたの、プロレス好きでライブの構成もプロレス調なサ上とロ吉のオタクとしては「よっしゃ!」でした。まあ、演出としてのプロレスっぽさと、ただ叫んでるだけっていうプロレスっぽさは全然違いますが……。

2戦目は先攻。テーマはプチプラだったのですが、何も思い浮かばずに主催のMさんの個人情報をdisったら、2小節目でアンサーできずに言葉に詰まってしまい、きれいに首を切られました。(そういえば、首をかっ切ってやるっていう感じの〆方多かったな)

 トーナメントはKさんと主催のMさん。レベルの高い戦いでしたが、Kさん勝ち。

 休憩してからは褒めラップが3戦。バトルでは言葉に詰まってしまったNさんが褒めラップではちゃんと言葉を出せていて、やっぱり人をdisるってそれ自体が慣れないうちは難しい行為なんだろうなと思ったり。

 最後に今日の感想と取材用のラップをサイファーしてから終了。

 いやあ、疲れたけれど面白かった!

 終わった直後の和気藹々とした空気に、ヒップホップバンド韻シストが公開している企画動画「STUDIO韻シスト」でのHIDADDYの言葉を思い出しました。

www.youtube.com

 STUDIO韻シストは、韻シストの演奏に合わせてゲストラッパーがフリースタイルするというとてもシンプルな企画なのですが、彼はひとり旅しながら土地土地のラッパーをフリースタイルをしていた頃の話として、こんな言葉を紹介します。

 「ラッパー同士はしゃべるよりラップした方がお互いがわかるって マジでその通り」

 マジでその通り! 言葉の選び方はもちろんだけど、立ち振る舞いや表情にすごく性格が出る。それぞれが直接言葉を交わした時間は短いけれど、会話とはちょっと違ったその人らしさを感じることが出来て独特の親近感みたいなものが生まれていました。

 また、MCバトルに関して言えば普段は口に出来ないような極端なことや攻撃的なことを言えるのがかなり気持ちよかったです。はまる人の気持ちがわかるな。

 「女の子がラップできる場所を増やしたい」という気持ちで主催してくれたMさん、そして運営に辺り、ビートの選定や進行、説明などもろもろに対応してくれたUさんとPさん、そして参加者の皆様ありがとうございました。

 特にMさんは急な取材の対応で疲れていたところ、気持ちを切らさずに運営をやりきっていて、誠実な人だなと思いました。最後までいじってごめんなさい。

 個人的には今回全くといっていいほどビートに乗れなかったので、せめてちゃんと音を拾えるようになりたいです。

 目標出来るの楽しいですね。


追記:なんかその場のノリで結婚願望ある人みたいなこと話したら、テレビに映ってたらしくちょいビビりました。私あの場ではああ言ったけど、相当結婚願望ないよ!結婚願望強い女はこんな集まりいかねーよ!まあ、でもウケたならそれはそれで。


夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

 

 

 

ヒップホップの詩人たち

ヒップホップの詩人たち

 

 

www.youtube.com