えっ、もう選挙当日じゃないですか。
ちょうど1ヶ月前に行われたTOHYO CYPHERの感想、最初時系列順に書いてたんだけど、長くて読んでられないって友人に言われたから書き直したぞ。前回の分はこっち。
シンプルに、2日目、かっこよかったアーティスト3人!
かっこよさ基準は100%主観でよろしく。
PONY
山梨のラッパーで、地元でも投票の呼びかけを行っているPONY。
明日みんなの学校が終わる時間16時20分から甲府駅南口 武田信玄先生の像の前にて!
— PONY ポニー ぽにー (@PONYstill1mida) 2016年6月28日
"2016参院選期日までサイファー"
やります!選挙最高!RAP!!!#選挙 #甲府駅 #サンデイパニック pic.twitter.com/axlK0tlSvm
選挙について抽象的な言葉で語るMCも多い中、「一言だけ伝えたい。身の周りの人との会話を想像して下さい。そして、未来の対話を想像してください。それさえできれば見えてくると思う。だから最初の一歩のアクション、投票に行ってください」という丁寧な語りと「俺ら やりたいことやる やめたいことやめる」という歌詞の嘘のなさがよかった。
そして「今日、本当だったら俺たちのボスの漢の心の故郷、新宿。もし次もこんな機会があるようだったら、そんな大ボスが出られるように今日を成功させて次に進みましょう」と付け加える。
そう、新宿のラッパーと言えば9sariの漢a.k.a.GAMIだ。でも、入れ墨をばっちり入れて、マリファナ売買についてラップする人は出さないよな、そりゃ。この場には「安全」なラッパーが選ばれているわけで……。
レベルミュージックだけがヒップホップではないけど、アンダーグラウンドから言葉を届けられるというのはアイディンティティのひとつ。
このイベントにあらかじめ欠けたものを補おうとするPONYの言葉にグッときた。
サイプレス上野とロベルト吉野
一言で言うと優勝だった。
入りからホテル三日月のCM曲を流して客を湧かせてから、コールアンドレスポンス曲「ぶっかます」の「うえのぉ↑↑」「よしのぉ↑↑」のコーレスで巻き込んでいく。
ライブの場に初めて来たのであろうと思われる人や、通りすがりの人を短時間でガンガン参加させるライブ支配力の高さに思わずビビる。いや、コーレス曲とかさ、アイドル現場で散々見聞きしたけど、こんなに瞬時に人をつかめるライブ観たことないぞ。
しかも合間に入るMCが素晴らしい。
「みんなヒップホップはフリースタイルだけじゃないからね!
てか、ラップ!DJ!グラフティ!ブレイク!
フリースタイルだけがもてはやされてるかもしれねえけど、このDJの魂の声を聴いてくれ!」
「はっきり言ってこの2台のターンテーブルでやってることなんて音楽未満のことでしかねえから。でも、そういう何も持ってねえ奴が、それを自分たちの武器に変えて進んでいくのが俺はヒップホップだと思ってるのね」
「この場を使って自分たちのカルチャーの芯を伝えるぞ!」という前のめりな言葉が冴える。この場の意味も、自分のやるべきこともわかってここに立っている35歳。
個人的圧勝の場面は、プリンス・オブ・ヨコハマを終えて選挙について話し始めたサ上が、ふいに言葉を止めたところから。
アルタのビジョンに向かって「ちょっと静かにしてくれますかね、あそこ」と話しかけたのだ。
「全員ちょっと後ろ向いて、『サ上とロ吉』ってでっかい声で言ってください。
歌舞伎町まで届くくらい。今この新宿アルタ前が、日本で一番異様なことで盛り上がってるってことを証明するために、『ヒップホップが一番』ってことを証明するためにでっかい声で言ってくれ!
今、写真撮った奴は絶交するからな!」
この瞬間、本当にほとんどの客がスマホを下ろしたのが最高すぎた。ライブ観ながらずっとスマホを掲げているような人が大量にいるこの場に「お前ら何しに来てんだ」みたいな怒りが溜まっていたところだったから。
しかも「絶交」って。その言葉のチョイスなんなんだ。正しいでしょ。言葉が丸い。
「サ上とロ吉!」のコーレスが新宿歌舞伎町に向けて放たれた後、「プリンス・オブ・ヨコハマ」を歌い終えたサ上は同じ横浜の高校生、レオン a.k.a 獅子を加えて「RUN AND GUN」を歌い出す。
地元の後輩と「夢を追って走り続けること」について歌うサ上の声を聞きながら、ふっと「ああ、サイプレス上野は、ラッパーのまま、ヒップホップが大好きなままで、ちゃんと大人になったんだな」と、思った。
最後はヒップホップ体操第二。おそらく1000人を超えているであろう観客がチルなトラックにあわせ、「子供さんから大人さんまで有無を言わさず全員参加です」というめちゃくちゃくだらない歌詞に合わせて体を動かしている様に「そうだよ!これが音楽でこれがライブだ!」と実感できて、めちゃくちゃ痛快だった。
しかも、選挙について語る言葉にいちいち嘘がない。
「選挙に行け行けって言ってくれって言われたけど、それは自分の気持ちで勝手に行けばいいだけだから。俺みたいなやつに言われたってどう気持ち変わるかわかんねーじゃん。俺が20の頃とか行ってなかったし。でも、俺も行くようになって、それは自分で街をいい景観に変えていくことが必要だと思うから」
「選挙に行って、いい方に変わると信じてる奴は行けばいい。でも、必ず自分のセレクトでな!それがヒップホップだから」
「言いたいことを言い合うのがヒップホップ」と言ったのは映像作家の竹内道宏。
それを体現するような言葉の数々が清々しかった。
それにしても、たかだか20分の持ち時間で「自分の所属している文化についてプレゼンして、1000人以上の聴衆を一体化させて、なおかつ自分の生き様を見せる」ってすごすぎないか。おかしい。なんでそんなことが出来るんだ。時間が足りないでしょ、普通。
ふっと気が付いた。そうだ、DJだ。
サ上とロ吉は曲の真最中にレコードを止めてちょこちょこMCを挟んでいくライブ構成なんだけど、ロベルト吉野がサ上の呼吸と観客の呼吸の両方を読んで曲をかけるから、客のテンションを落とさずにスルスルと進行していくし、おいしいところをつないでいくから熱がどんどん上がっていく。
さすが12年続けてるコンビだ。そしてサ上がしょっちゅう言ってる「ポン出しとかありえない。練習を欠かさない」という話はマジだし、「オレのバックDJはあいつしかいない」というのも、感傷じゃなくて真実なんだな。
一方でロ吉にはどこか破調を抱えている部分があって、ロ吉と呼吸を合わせながらライブを進行させるサ上のバランスが、まさしく人間同士でなければ生み出せない味になっている。
なるほど、これが絶滅危惧種と言われる1MC1DJか。めちゃくちゃいいな……。絶滅させちゃダメじゃないのか、これ。
サ上がナレーション参加している、選挙について考える動画。
鎮座のライブを言語化するのは難しい。
おそらく現場で作ったトラックと持ち曲を組み合わせて、それにフリースタイルを乗せているのだと思うのだけど、
「これで税金回収」
「とりあえず選挙なんて興味ねえよな~。誰に入れたって一緒なのに」
「スモークウィードは新宿MSC」
「あのおっさん税金使ってとりあえずいろいろ海外旅行とか、絵とか買ってるみたいだし」
「あっ、今のは何だったんだろう……」
「東京! マザッファカ!」
「新宿! マザッファカ!」
「アルタ前! マザッファカ!」
「TOHYO都! マザッファカ!」
人を喰った発言を、次々と音の上に乗せていく。
鎮座のラップはお経みたいで、とらえどころが無くて、でも単調なビートが心地よく耳に入る。その有様がとてつもなく自由だ。
これは陳腐な言葉かもしれないけれど、ステージの上の鎮座は本人自体が音楽なのだ。だから、何かに囚われることなく歌うし、その存在だけでヒップホップを表現できる。
これが情報量の多いサ上とロ吉の後に来たというのも面白かった。
最後は「投票行けよ~」と、これまたとらえどころの無い声で締めて去っていった。やる気のない選挙広報。
その後の話。三宅洋平の選挙フェスに鎮座が参加していたらしい。とすると、本来は彼なりに伝えたいことがあるけれど、それはこの場で声高に表現したいことではないという判断だったのか。
SEALDsの投票促進イベントに出て「こんなぶっ壊れた国で」を歌ったDOTAMAが、この日は気だるい声で選挙への呼びかけをしていたのにも、その種の逡巡があったのだろうか。ただ、鎮座はともかくDOTAMAには「音楽ワルキューレ2」ではなく、「こんなぶっ壊れた国で」を期待してしまったな。
という訳で、かっこよかったアーティスト3組でした。
この後はダラダラ雑感を書くよ。
ちなみに私は途中から立ち見がめんどくさくなってステージ観ないで客全体が見えるところに座ってました。
・初のヒップホップオンリー現場だったけど、シンプルなビートの繰り返しで人を惹き付けるのがいかに難しいかを思い知らされた。というか、自分がけっこう退屈していた。そもそもカラオケだし……。まあ、あんなデカいとこでやるの経験のない人には難しいよね。
・音の出来によって立ち止まる人の数が露骨に違って面白かった。この点、KEN THE 390とサ上とロ吉の圧勝。別にポピュラーだから偉いってわけじゃ1ミリもないけど、ヒップホップ村の外に向けての発信をしょっちゅう口にしてる人たちだから、それが実ってるのを見られたのは面白かった。後は、「音が古くなってて若者がぽかんとしてる」と感じさせる人もいたね。
・舛添disは微妙。「投票しないとこんな人が首長になっちゃうんだよ」という論旨に使ってたMCが多かったけど、叩きやすいものを叩くの、テレビのコメンテーターみたいで。結局辞任しちゃって、もっとロクでもないのが都知事になりそうだし。これ以外にも、般若の「悪いのは東京都」とか、この場ではかえって陳腐に見えた。
・いちいち書かないけど、言葉の重みを感じられなかったMCもけっこういた。「ダメだよ〜〜。ヒップホップなんだろ〜〜」という思いながら聞いていた。
・「MCバトラーだから音源やライブがダサい」ということはないけど、MCバトルで強い人の音源やライブがダサいと倍くらいダサく見える。バトルで掴んだお金でがんばってほしい。
・日本のヒップホップに置いて、「アンダーグラウンドとオーバーグラウンドは分離していくのか」が頭をよぎった。安全なヒップホップだけが売れちゃったら、それはそれで芯を落とす。ただ、バトルだけが売れることによって、徐々にそうなっていく可能性はあるのだろうな。今のところ広告に引っ張られてるのも安全な人だけだし。
・イベントとしての成否を問うなら「話題になったから勝ち」かと思う。「ラッパーの話を聞いて行くか行かないか決めた」かどうかは計測できないので、18歳参政権が広報出来たかどうかなら勝ち。ラッパーがあれこれやんちゃすることも込みでの拡散を狙ったのなら企画者の圧勝なのでは。
・客がスマホ掲げすぎ! パンダ撮影しに来てるのか、音楽聴きに来てるのかどっちなんだ。ライブアイドル現場も撮影可のとこ、たまにあるけど「二度とないその場を全力で楽しまないやつが野暮」というコンセンサスがあるから、撮影はたいがいほどほどなので、理解できなかった。
・平日火曜昼に行われたBiSの解散前最後の演説の方が人が多い気がした。アイドルオタクは二度とない一瞬に立ち会うことに、本当に価値を感じているのだな。イベントに文句言ってたヒップホップオタクがあまり来てなさそうだったのが残念。踏み絵みたいなイベントだったからこそ、めんどくさい古参に来てギャーギャー言ってほしかった。
そんな感じでした。バトルとサイファーは特に言うことなかった。
もう当日だけど、大切なことなので選挙は行こうね。
選ぶこと、選ぶために考えることは自分が自分であるための権利だから。
追記:さんピンcamp20について書いた高木JET晋一郎さんのコラムにこんな一文が。
また、NORIKIYOが「選挙行ったか!」とMCしたのも、現在を如実に移す光景だった。当日が参院選投票日ということも当然影響しているが、単純に政治批判や社会批判をする、もしくは政治からのアイドサイダーを気取るのではなく、政治にコミットする、自分の意思を投票として表明するということの重要性をラッパーが話し、それがクールだと思わせるというのは、これこそ2016年的な音楽と政治との関係性とも言えるだろう。
たしかに、この方が実感に近い。
さらに追記
7月21日、フジロックフェスティバルを前にして、音楽と政治についてとても興味深い論考が登場した。
詳しくは本文を読んでいただきたいが、TOHYO CHPHERの経験と結びつけてひっかかる箇所がいくつかあったので以下に引用したい。
「学校現場で特定の曲を選んで合唱することや、カーステレオで何を流すかすらも、『人々を空間の中で特定のかたちに秩序付ける』という点で政治的な振る舞いなのです。そういった意味で、音楽と政治を切り離すことができないという端的な事実を、まず最初に私たちは確認しておく必要がある」
これを読んで思い出したので、この日のサイプレス上野とロベルト吉野のステージだ。
上に書いたように一体感のあるステージを見ながら小気味よい気分になっていたけれど、一方でその統率力にビビったのも確かだった。
この人らが政治家・政党の応援をしたら、このパワーに引っぱられる人は絶対出てくる。その時、それが私とまったく違う主義主張の政治家だったらどうする?
「音楽は不特定多数の人間をひとつにする」という美辞麗句は真実ではあるけど、そこからは「音楽は不特定多数の人間を支配できる」という一面も導き出される。
そして、不思議なもので人は群衆と一体化することで思考停止に陥ってしまう……。
選挙の終わった今、改めて振り返ると三宅洋平の選挙フェスはこうした音楽の力を最大限に活用していたと言える。その主張に賛同するかは別としてだが。
ただ、この日のサ上とロ吉のステージに感じた恐怖感を払拭させたのも、サイプレス上野のMCだった。
「選挙に行って、いい方に変わると信じてる奴は行けばいい。でも、必ず自分のセレクトでな!それがヒップホップだから」
そう、思考停止せずに自分で考え続けること、選び取り続けることこそが最も重要で知性的な行為なのだ。
たとえ群衆と別の方向を向いたとしても、尊敬している誰かと違う選択をしたとしても自分で考えて選び取るしかない。
そういえば、それはもうRHYMESTERが歌にしていることなのだった。
選ぶのは君だ 君だ 決めるのは君だ 君だ
考えるのは君だ 他の誰でもないんだ
さあ、歌いな