ホンのつまみぐい

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磯部涼が真摯でR-指定は紳士「サイゾー2016年6月号ニッポンのラップ」

聞きづらいことも含めて、わりと満遍なく文章化されていて初心者にはありがたい内容でした。

個人的面白かった記事ベスト3。

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第1特集、さすがに読み応えあり。

日本語ラップをジャンルとしてみた時に最初に不思議に思ったのがいとうせいこうが第一人者と呼ばれていることでした。テレビでコメンテーターもやる文化人で、かつて一般教養の授業で聞いた「アメリカの貧民街から生まれたヒップホップ」とは違うし、今フリースタイルダンジョンに出ている不良・ボンクラ文化と近接しているラッパーとも違うのに、なんで第一人者なんだろう? そして、彼が第一人者なら、今の怖い感じのラッパーたちはどこから出て来たんだろう?という疑問を整理してくれました。
 
面白かったのは、さんピンCAMPが「後に伝説化することを前提に企画されたイベント」だったという話。
 
「歴史にするため」のイベントを意図して企画するスケールもすごいけれど、関わったメンバーの中に共通項としてのラップ・ミュージックがあったというのが不思議でたまらなくて。たしかにラップの人たちシーンそのものがファミリー化している印象があるけど、歴史の編纂のために共闘出来るものなのか? その時企画者の中に共有されていたはずのラップ・ミュージックがどんなものかについて知りたい。
知りたかったけど聞けない「ドラッグ話はどこまでマジなのか」について。
本文を読んだ感想としては、ドラッグは自分の尊厳も他人の尊厳も傷つけるからやめてほしいなと思いました。
それはそれとして、獄中でアルバム「UNTITLED」をリリースした元麻薬中毒者BESのインタビューは面白かったです。コカインのラインを引いた跡をジャケット写真にしていることなどを、「犯罪を広告として扱っている」と否定する人に対して、「肯定しているわけじゃなくて、こういう世界も現実にはあるんだよって」と諭しているのがいいですね。身も蓋もない。そして、写真が見事です。
 
 
「ビッチ」という表現の変化と現状についてかなりの紙数が割かれており、アメリカの状況と日本の状況が比較されていて大変勉強になりました。
ホモソーシャルな世界観を強調するヒップホップシーンで、侮蔑語であるビッチという言葉を女性側があえて利用し、マッチョイズムを強調したり、自分の身体を使ってのし上がる女性像を描いていく流れがとても興味深い。
一方で、「日本には、セックスやジェンダーについて、女性からの視点を打ち出した楽曲が少ないという非対称性がある。(中略)そういう表現があまり見られない日本で、安易にビッチをテーマに歌われるのは、やはりあまり気分がよくないですね」という磯部涼の言葉に耳の痛い気持ちに。
 
特集として面白かったのはこの3つ。全部磯部涼が関わっていることがすごい。連載中の「川崎」はもちろんだけど、磯部涼は文化というものが経済・土地・宗教など、人が生きることそのものと接続していることにとても自覚的。だからこそ、心にひっかかるのかなと。
落語との関連性や、ご当地ラップ、アイドルラップについては、切り口は個人的にドンピシャだけどちょっと食い足りなさを感じました。それなりに面白くかったけど、もっと掘り下げられそう。あと、早稲田派閥の話はなんだ。
 
そうそう、腐女子腐男子座談会とR-指定へのインタビューが二次創作界隈でざわついてましたね。
 
「『フリースタイルダンジョン』を“腐った”オタク目線で観る!」は、フリースタイルダンジョンで如何に萌えるかというテーマを、あえて腐というセンセーショナルな言葉でまとめている内容。
 
先日のシンガーソングライター刺傷事件の際に、当初多くの人が彼女を「アイドル」と表現していたことを思い出しました。「腐女子やアイドルオタクはいじっていい」「ネタにしていい」という気持ちがあるんでしょうね。
 
R-指定について聞くインタビューで唐突に「フリースタイルダンジョン腐女子の餌食になってます」というインタビューアーも、落語の話をしてるなら落語のこと聞きゃいいのに、そんなに下世話なフックがほしいのか。いや、でもある意味サイゾーらしいけど。
 
一方で、二次創作界隈の反応もちょっとひっかかりを感じました。
 
別に日本語ラップに限らないのですが、こういう場合の「隠さなくちゃいけない」「本人に伝えるのはNG」という反応はどうしても「同性愛は隠すべきものである」という態度と似通ってしまう。
 
三次元に限らず、「ホモ扱いしてごめん」みたいな物言いがオタクの中では流通しがちだけど、それ実際ゲイの人に言ったら失礼に当たりますよね?
 
ラッパーさんにもセクシャルマイノリティーいるのに。
 
基本的には「これで禁止されたり、白眼視されたりするとつらい」というのがベースにあるのだろうけど、「隠すべきものとして扱うこと」も暴力になりうるというのを、もっと考えなくてはと思いました。そこで守っているのはあくまで自分たちのコミュニティで、当事者じゃないってこと、あるんじゃないかな? 自戒をこめて。
 
もうひとつ、「ホモソーシャルな見立て」「女体化という見立て」がNGで、他の見立てなら構わないというのもあまり共感できなくて、別に愛があろうがなかろうが、セクシャリティに関することであろうがなかろうが、他人のことをあれこれ言うのって基本暴力的で傲慢なことじゃないですか。話してるテーマが違うからといって免責されない。磯部涼も百合厨も腐も古参ヘッズもみんな平等に罪人で。でもその傲慢さが愛情とか執着だったりするから面白いわけで……。
 
だから件のふたつの記事で怒らなくてはいけないのは、
 
・インタビューのテーマと逸れたことを聞いている
セクシャリティーに関することをネタとして扱っている
ホモソーシャルな見立てをセンセーションとして扱うことで、腐女子腐男子を貶めている
 
ことなんじゃないかなと。
 
そういう意味で、このインタビューでのR-指定の受け答えはうまいなと思いました。オタクもセクシャルマイノリティーも貶めない。
 
R マジっすか! 腐女子はすごいなぁ。本来ヒップホップは同性愛を攻撃する文化もあったから、そういうのに寛容じゃない人が多いのに(笑)。あ! そういえば最近ライブ会場に、様子がおかしい2人組の女の子が来てましたよ。妙なアクセントの敬語で、ドモりながら『私たち、オタクなんですけど』って言われて……。
(中略)
まぁ、入り口は、そんなんでもいいですけどね。腐女子の子たちは、男でラップにハマる奴に近いというか、オタクになれるほうが長く応援してくれると思うんです。そうして来たお客さんも、振り向かせるようにしたいですね。
腐女子は男でラップにハマる奴に近い」にケラケラ笑ってしまいました。めっちゃわかる、お客さんのことよく見てるなー!