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超絶技巧の馬の絵観てから、生きてる馬が観られる環境最強すぎないか「馬鑑 うまかがみ」山口晃展@馬の博物館

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山口晃の原画の淡い色味と配置の妙。そして突き刺してこないくらいの悪意のまぶし方。デカいことやってるのに大げさじゃないし、冷徹なほど洗練されているのにとぼけていて、いつまでも観ていられる。
 
私たちは描かれたものから感情の片鱗を探し、そこからすくい上げた文脈で理解してしまいがちだ。しかし、山口晃は紙の上に感情を重ねない。淡々と対象を紙の上に落とし込んでいくその絵は、一見すると精巧な地図のようだ。
 
それでも、素材を、色を、線を選ぶ過程で出てくる、人の手を通して描かれた世界の歪みがなんとも言えず面白い。
 
超絶技巧の人だからこそ出来る世界の描き方だ。
 
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(会場にあった撮影用のパネル)
 
 
今回は馬の博物館らしく、現代と中世がごっちゃになった世界で馬と人との関わりを描いたシリーズを中心に展示。
 
ただし、その馬の姿も正常なものではなく、オートバイと馬を合体させた奇妙な生き物として描かれている。足はオートバイのタイヤ、胸部はエンジン。中には頭部までバイクになった馬もいる。私は一連の絵に、ユーモアよりグロテスクさをより強く感じてしまったし、特に死んだ馬が路傍に横たわり、タイヤやエンジンを収奪されて朽ちていく過程を描いた「九相図」には胸が痛んだ。
 
しかし、会場入口に掲示された馬の博物館・館長の文章には「特に合戦図や厩図などにみられる馬とオートバイの合体した表現は、馬の持つ潜在的能力を、現代のオートバイに重ねて、動力の力強さを捉え、逞しい日本在来馬の姿を絶妙に表現しています」と書いてあって、読みの違いに驚いてしまった。
 
「山口さんの絵は馬のかっこよさをバイクって方法使って描いてて超いい!そうそう、馬ってバイクに負けないくらいかっけーよね!(超訳)」という感性なのか。そうなのか。
 
また、馬小屋と一体になった小さな囲炉裏端のある曲り屋に、オートバイや電気ポットを置いて絵の中の世界を再現したインスタレーションもあった。
 
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全体がソメイヨシノのような淡さの絵ばかりなので、暗い会場でスポットライトを当てられる様が神秘的に映る。
 
展示は馬の博物館所蔵の、厩舎を描いた屏風や、武士が使用していた刀や兜、そして馬頭観音の石碑などを間に挟み、霊的な様相を醸し出していた。
 
しかし、今回の展示の何よりすばらしいところは、やはり外に出ると公園に本物の馬がいることだろう。馬の絵を観てから眺めると、憧れの人の姿を生で見た!というような感慨がある。
 
馬の身体は美しい。
 
その胸も足もあまりに強靭な筋肉の塊で、「蹴られたら死ぬ」「怒らせたくない、怒らせたくない」とつぶやいてしまった。
 
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この日は月に一度の乗馬の日で、三頭の馬が一般客をその背に乗せるためにスタンバイしていた。
 
うち二頭は穏やかで優しい表情をしていたが、一頭は落ち着かないようでしきりに頭を振っていた。そこにネクタイ姿の初老の職員が「おやおや、どうした」と話しかける姿が美しかった。
 
また、馬車馬役を務めていたポニーのマーカス号の引退セレモニーがあった。インスタレーションの中で、馬野模型の横に置かれたパネルに「人馬一体で歴史を作った」という言葉につながるほのぼのとした風景。
 
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会期は5月29日まで。ちょっと駅から遠いけど、行く価値のある展示だと思う。
 
会期:平成28年3月26日(土)~5月29日(日)
会場:馬の博物館 第2・3展示室
開館時間:10時~16時30分(入館は16時まで)
休館日:毎週月曜日 
※ただし3月28日、4月4日、5月2日は開館
入館料:大人200円、小中高生30円、団体(20名以上)半額
障がい者手帳等をお持ちの方は無料(付添いの方は半額)
※毎週土曜日は小中高生無料
 

www.1101.com

そう、そうなんです。
だから、技術というのは「透明度」なんです。 

 山口晃の「技術」を解説する言葉がとても面白いインタビュー。

casabrutus.com

 

山口晃 大画面作品集

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