ホンのつまみぐい

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ZEN THE HOLLYWOOD 井上雄貴卒業ライブ 6月27日

6月24日に突如つげられたZEN THE HOLLYWOODメンバー「営業部のイノウエこと井上雄貴」の急な卒業発表は本当にショッキングだった。アイドルの卒業そのものは珍しいことではないし、事務所も目標も違うメンバーの集合体であるこのグループのことを考えると、卒業は避けられない事態でもあった。

しかし、ちょうど2週間ほど前に発表された三浦海里ことかいりんの卒業とはあまりにも違った。事前にTwitterで公演に来るようにうながされ、ファンの前で彼自身の言葉で伝えられた卒業発表。発表の際の動画もその日のうちにアップされた。卒業時期未定というのはよくわからないけれど、妥当な終演準備だろう。

しかし、井上くんの卒業はある日突然Twitterで発表された。しかも、3日後の6月27日のリリイベが別れの日だという。卒業をつげる動画には7人のメンバーのうち4人しかおらず、本当に急な卒業だということが伝わってきた。翌日、少年ハリウッドのニコ生「山下大輝の少ハリねずみカラー情報局」で、原作者の橋口いくよから事態の詳細が伝えられ、いくらかファンの気持ちは落ち着いたが、何にせよ、心の準備も出来ないまま27日に卒業ライブを迎えなくてはいけないことには変わりなかった。

発表から6月27日まで、私はずっと「アイドルのいる暮らし」の中の言葉を思い出していた。

なっち推しとかはちゃんと卒業して次の人生に行っている人が多いですよ。でも加護ちゃんはキレイには終われなかったから成仏できてない人が多いんですよね。綺麗に最後の舞台を見届けることができずに、振り返ればあれが最後だったっなぁっていうのが一番厳しいですね。見送れないのは一番ひきずってしまうパターン。でも、そういう人のほうが多いですけどね。キレイに卒業式で送り出せるアイドルなんて一握りだと思うから。

アイドルのいる暮らし ピストルさん編


成仏にはいろいろなニュアンスがあるだろうけど、もっとも哀しいのは幸福だった過去の時間が薄暗い感情で塗り込められてしまうことだろう。

最近では、ライムベリー、DorothyLittleHappyの分裂はファン同士の分裂も含めてとても痛々しいものだった。あの様相をまた自分が推しているグループで見なくてはいけないのか……。

6月27日は、もともとアイドルに関心の無い友人に同行してもらう予定だった。一足早く現場に着くと、それなりに人が集まっていたが、前に行くつもりもなかったので集まった人々をぼんやり眺めていた。友人がついたので、今日の状況を話す。

「今日、卒業ライブなんですよね?」

「そうです。卒業続くんですよ。青がいちばん整った顔してる今時のイケメンなんですが、彼が卒業発表してて」

「センターってことですか?」

「そうですね」

「あら、ヤバイじゃないですか」

「そうなんですよ。それで、3日前にオレンジの子の卒業が発表されて、その子が今日お別れライブっていう」

「メガネがいなくなっちゃうの残念ですねえ。なんで辞めちゃうんですか?」

「体調不良です」

「それ、別の事務所に行くとかじゃないんですか?EXILEのTAKAHIROがテニミュに決まってたのに、EXILEのオーディション受けてて体調不良って言い出して降板したみたいに」

「私も疑ったんですけど、喉直して声優の養成所に行くらしいです。事務所とか仕事とかだったらばれるし、まあホントなのかなと。というか、信じるか信じないかですよね。裏のことは絶対わからないから」

「ふうん……。私、卒業って表現おかしいと思うんですよね。卒業って修了したということで。それ、もうこの場所は自分には必要ないってことじゃないですか」

「私も、BiSが脱退という表現を使うグループだったので卒業はなんだか不自然な感じで好きではないです。地下アイドルだと晴れやかな卒業ばかりではないですしね」

「うーん……。まあ、TAKAHIROだってテニミュをやっていたら、EXILEみたいな活躍はできなかっただろうし、こっちでどうこう言えることではないですけどね」

「そうなんですよねー。結局は他人の人生ですから」

そんな話をしているうちに、人がどんどん集まってきて、最終的には500人くらいの集客があったと思う。メンバーが舞台袖に来たらしく、一瞬「キャー」という声があがる。しかし、その声も少し緊張しているように聞こえた。

ライブは「バージンマジック」からスタート。ありがたいことに舞台が高いので、全体がよく見えた。井上くんを見ると言うより、客側も含めた全体を眺めながらライブを見ていた。1曲終わって最初のあいさつ。いきなり「東急百貨店にお越しの皆さん!」という笠井薫明くん。東武だよ! リーダー緊張してるのか……。

そして、いつも通りの自己紹介とコール&レスポンス。「ぼくが、呼んで欲しそうにしたらイノウエー!と呼んでください」というあいさつ。メンバーがそれぞれ無難なコーレスをする中、下ネタで笑いを取ろうとする横山くんにイラッとしてしまった。そんなに安い方法で笑いを取りに来ていいのか、よっこ。もっと闘おうぜ……。

そして、「残り2曲!」という深澤くんの言葉。全3曲ならコーレス省略してほしかったなと思う。

2曲目は井上くん頭サビの永遠 never ever。3曲目はハート全僕宣言。喉の調子が悪いというのは本当だったんだなと実感。ハート全僕宣言の、キラキラしていてダサくて、アイドルにしか歌えないようなパンチの効いた歌詞と、この日の緊張感の漂う空間とのギャップにむずがゆい気分になり、友人にあれこれ話しかけてしまった。

「この『宣誓!』ってめっちゃダサいですよね!大好きですけど」

「えー、でもアイドルソングってこんなもんじゃないですか? なんか、全体的にうたプリに近い感じですね」

「ああ、振り付け師は一緒ですね……。振り付けいいんですよ。ミュージカルっぽくて」

いまいち集中できないまま最後の曲が終わり、メンバーが井上くんに向けてそれぞれ一言伝えることに。

「イノウエはほんとブサイクだね」という横山くんの言葉から始まり、皇坂くんの「グストキタ(フィリピン語で大好き)」。深澤くんの「夢に向かって進んでください!」。笠井くんの「オレンジは元気の色ってイラッとしてたわ〜」。三浦くんの本田圭佑の物まね。阿部くんの「イノウエさんがいなくなったら、ブスって言われるのがぼくだけになってしまう」。

卒業というには騒がしく、洗練されていないイジり方を見ながら、メンバーもまだまだ彼の不在の準備が出来ていないのだなと思った。

そして、「じゃあ、これまでの言葉をふまえて」という笠井くんの言葉を受けて、「ふまえて?!」とこぼす井上くん。ここからの彼のあいさつは完璧だった。

「まず、ぼくはこのZEN THE HOLLYWOODに関わらせて頂いて二年近く、本当にいろんなことを教えて頂いたり、経験させていただいたり、皆さんからいただいたものもとても大きなものでした。これはこれからのぼくの人生にとって間違いなくかけがえのない宝物になります。これからぼくは一旦自分の体調を整えるべく、お休みの期間をいただいて、自分の夢に向かってますます努力していこうかなと思っているところです。

気持ちとしてはとっても前向きです。また皆さんの前にぼくが元気な姿でお会いできるという確証は持てませんというか、言えません。ぼく嘘は嫌いなので。絶対にという言葉は使えません。でも、また、戻ってきたいと思います。それに向かってぼく全力で夢を叶えるためにがんばっていきたいと思います。

皆さんもそれぞれやりたいこととか夢とかあると思います。ぼくがこんなこというのはおこがましいと思いますし、ぼくより大先輩な方とかいろんな方いらっしゃると思うのでぼくがこんなこというのおかしいと思うんですけど、でも、それぞれお互いに一緒に自分のやりたいことや夢に向かって、明日からも全僕で、オレンジは元気の色なので、今日も元気を持って、明日からも一緒に歩んでいきたいと思います。

とりあえずさよならは言いません。さよならの代わりに、この言葉を心を込めて言わせて頂きたいと思います。本当に皆さん、ありがとうございました!」

生真面目で丁寧な別れの言葉と感謝。

続けて、「営業部のイノウエ」として「プロジェクトをよろしくお願いします」と締める。自分が何を言うべきかをすべて承知したような迷いのない言葉にほっとした。

そして笠井くんの〆の一言。いつもはファンに向けられる「一つ言うなら」に続く決めぜりふは、「イノウエ、卒業おめでとう」で締められた。

「あ、ありがとうございます。えー、でも、うれしい」という井上くんと、「ちゃんと言えてなかったからね」という笠井くんの会話。

最後はいつも通り「ZENKAIPLAY」のラップ部分を歌ってはけていくメンバー。井上くんが最後に手をふり、笑顔に感謝の表情を表しながら舞台から消えていった。

ライブを楽しむと言うより、ハラハラしながら見守る30分ちょっとが終わってしまった。自分の位置からはメンバーの表情はよく見えなかったけど、井上くんの声は晴れやかで、どこか重荷から解放されたようなすがすがしさがあり、残されることになったメンバーのどこかとまどっているような様相とは対称的だった。特典会は参加せず、友人と会場を出る。

友人に「さっき、こんなイベントに付き合ってもらってごめんねって言ってる人いましたよ。そんなに卑下しないでいいのに〜〜」と笑われてしまった。

「う〜〜ん。でも、アイドルのリリイベとか興味ない人にはすごくどうでもいいですよね……。いやー今日はつきあってもらってありがとうございます」

「いやいや、みんながんばってるなあと思いました」

「そうですね、イノウエ辞めちゃうの痛いすけど」

「人気のある子だったんですか?」

「そうですね。他のメンバーはこれ以前にも芸能活動していて、他にフィールドがあったりするんですが、彼だけ声優学校学生の時に、合格してそのまま活動していたんです。だから、ある意味ふつうの子。でも、ダンスもがんばってたし、営業部という名目で毎日ツイキャスやったり、Twitter運営したり、いろいろがんばってましたから。アニメ『少年ハリウッド』のニコ生でアシスタントやったり、アニメは見てるけどぜんハリ知らない人にも認知されてましたし。

わりと見た目リア充寄りのメンバーの中で、彼だけが雰囲気がオタク寄りで、そこがアニメと併行して動いてるコンテンツのアイドルとしては強かったと思います。

いつも丁寧な言葉で話すところもお姉様受けしてましたね……。うん、アイドルっぽくないけど、ある意味いちばんがんばってアイドルやってたのかな。今日の終わり方も見事でしたね」

「ああ、そういえば、見た目ちょっと声優っぽいですね。それじゃあ大変ですねえ」

「まあ、でもこのくらい曲がいいと7人から5人になったくらいだと、実はそんなにパフォーマンスのインパクトは変わらないと思います。もちろん、前から観ていた人は物足りないと思うでしょうし、卒業する子のファンの中にはいなくなる人も多いでしょうが。5人くらいの方が個々のキャラは立ってくるし、カバーするためにがんばってくれるとそれはそれで面白くなってきます、きっと。でも、卒業多いグループは嫌われますからね。現状、アイドルって売れるしか正解がないから、メンバーのモチベーションが保てるかが心配かな」

友人に話を聞いてもらううちに、やっと別れを惜しむ気持ちが生まれてきた。

イノウエくん、いい子だったなあ、そしてアイドルだったなあ。もう少し、晴れやかに見送ってあげたかったな。

惜別の気持ちと、残されたメンバーの重圧を想像しての不安が入り交じり、切ない気分になった。

豪雨が心配されたこの日は、昼頃から終始薄曇り。空の見えない、穏やかな天気だった。