ホンのつまみぐい

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きみとぼくは夢で会える/ ライムベリーMAGIC PARTY VOL.2 /2014年12月21日@新宿BLAZE

 ライムベリーのワンマンが終わった後のメモには、「マンガみたい」と書いてあった。

 桑島由一の詩も、活動休止からの復活劇もだけれど、何よりメンバーがマンガみたいにくっきりした輪郭を持ってキラキラしていたのだ。

 ライムベリーはMCのMIRIちゃん、HIMEちゃん、DJのHIKARUちゃんで構成されるラップアイドルグループ。かつてはYUKAちゃんという女の子を加えた3MC1DJラップグループだった。

しかし、運営のごたごたで2013年8月にライムベリーは活動休止。2014年4月の再会発表は、YUKAちゃんの脱退とともにファンに告知された。残されたメンバーたちは、長い活動休止期間を経て、それでも残ってくれたファンと一緒にライブを続けながら、2014年12月のワンマンの日を迎えた。

 わたしはその前後のことはニュースやSNS、あるいはyoutubeで公開された動画からでしか知らない。でも、長いブランクの後でも、ファンはメンバーを暖かく迎えたこと。メンバーが、それに勇気づけられたかのように、パワフルに、しかし、キュートに突き進んでいのがわかった。それこそ、自分を押さえつけていたものを勢いよくはねとばしていくがごとく。

 同世代にラップをするアイドルはいくつかあったが、かわいさとかっこよさ、そして素人目にもわかるほどの高いスキルを持っているのは彼女たちだけだった。

 同時に彼女たちの「かわいさ」には、気軽に男性に消費されない自由な空気があった。

ライムベリーの代表曲である「HEY!BROTHER」

ねえ、おにいちゃん
ねえ、おにいちゃん
好きーー!

 という歌詞は、いわゆるアニメ・マンガ文脈から生まれた「妹萌え」の曲。それが、彼女たちの陰のない歌い方にかかると、アホな男子を振り回す快活な女の子の歌になる。適度なクソガキ感と、心の底から楽しそうな笑顔のバランスがぴったりだ。

その可愛らしい笑顔と真剣なラップで、「R.O.D」「まず太鼓」では、大きなサークルモッシュを発生させる。残念ながら私はその中に飛び込んではいけなかったのだけど、モッシュの渦に飲まれるオタクたちは「今死んでもいい」と想っているかのような高い熱量で笑っていた。


 一方で、ライトノベル作家でもある桑島由一の作る曲には美しい青臭さがある。

「Ich liebe dich」の

明日がくるのがちょっと怖いな
今日した約束忘れちゃうかな
こんなに大事な人や出来事
色褪せて見えて消えてしまうの?

「ウインター・ジャム」の

あと少しで今年も終わる
新しい今年がやってくる
昨日より少し成長した?
大丈夫、きっとしてるよ今

 それぞれの歌詞に、「まだ何者かになる前」の少女の全能感と不安がシンプルな言葉でつづられている。CDで聞いてもいいのだけど、これを薄暗いライブハウスの照明のもと、キラキラした女の子たちが歌うのを見るというのがヤバイ。少女たちが本当に放課後の教室で思ったこと感じたことを、こちらがのぞき見しているかのような奇妙な背徳感と、ステージ上の彼女たちのたしかな存在感にやられる。

 どちらかというとポエトリー・リーディングに近い「クオリア」や「Ich liebe dich」は、ふだんのかわいらしさや熱気と違った透明感のある美しさをステージ上に作り出す。ステージの緩急がとてもよい。

 ステージングそのものもとても魅力的なライムベリーだけど、私が何よりいいなと思ったのは、彼女たちの自然さだ。

 ふつう芸能人はキャラを作る。アイドルだってキャラを作る。そうしないと、人の頭に定着しないからだ。

 いつもツインテールのあの子。「はわ〜」が口癖のあの子。食いしんぼうで、自撮りは常におやつと一緒のあの子……。そうやって作ったキャラクターを定着させて、人々に覚えてもらおうとする。

 キャラを作って人前に姿を現すアイドルたちを「プロだなー」と思いつつ、それがたまにほころんだり、キャラの奥の素の表情を見せたりする瞬間を見て、喜んだりホッとしたり。オタクをやっている間に、何度もそういう瞬間に立ち会ってきた。

 でも、ライムベリーのメンバーにはキャラを作っている様子がぜんぜんなくて、それなのに、それぞれが個性的だった。それが何よりすごいと思った。

 印象的だったのはMC。

 MIRIちゃんが「私チェキ会嫌いなんだよね。MIRIの列すぐ終わっちゃうんだもん!」って言った場面。

 そんなことないよというつもりで首を振るHIMEちゃん。

「それでね、HIMEちゃん推しの人とかが並んでくれるんだけど、MIRIこんなんだから、HIMEちゃんに振り向いてもらうためにはどうすればいいかなとか相談されるの!」というMIRIちゃん。握手・チェキの列が短いのはしんどいだろうに、それを明るく吐露できて、一番人気のHIMEちゃんを嫌みなく立てられる。

 そして、人気のHIMEちゃんは、たしかにふわっとしたかわいらしい容姿なのだけど、MCでの「今日のチケットは今はまだただの紙切れだけど、とっておくと価値がでるよ」という姿がとても、とてもかっこよかった。

 対照的に、ライブ中にほとんど笑わず、淡々とツマミをいじるHIKARUちゃん。ふたりが活動再開からここまでの道のりと、これからの決意を語る感動的なMCを続けた後、「なんかふたりが感動的なこと言っちゃったんで……」と言い出し、いきなりラッスンゴレライをやり出す。ほっそりした手足と大人びたルックスに反し、とぼけたギャグをやり出す様がとてもおもしろかった。

 それぞれがまるで戦隊もののキャラクターみたいにくっきりとした個性を持っていて、それをうまく出しているのに、誰一人として「キャラを作って奉仕している」様がない。

 ステージの上で自然な一個人でいられて、しかもそれがとても魅力的に映るというのは奇跡的なことだ。

 くっきりとした意志を宿し、どこかとぼけたユーモアを持ち、キュートな存在感と力強く美しい楽曲を持ったライムベリー。

 あまりに強力すぎて、「この子たちはマンガみたい」と思った。

 ライムベリーはとても幸せなユニットだったのだ。

 だから、彼女たちの夢が叶って半券はきっと高くなるのだろうと思っていた。

 それから3ヶ月後の2月、ライムベリーから急遽プロデューサーの桑島さんとの契約終了と、HIMEちゃん、HIKARUちゃんの卒業が発表された。しかも、唐突に。辞めさせられた3人にろくな説明がなされていなかったこと。その直後のライブで急遽新メンバーと新曲の発表があり、「何かおかしなことが起こってしまってばらばらになってしまった」ことだけが事実としてファンの前に残された。

 分裂後の今は、かつてのライムベリーを思わせるのは、MIRIちゃんのラップだけになってしまった。今のライムベリーを貶めるつもりはないけれど、私のような2・3度見ただけの人間ですら、どうしても、見ているとさびしくなってしまう。

 そして、5月7日、HIKARUちゃんこと信岡ひかるちゃんの生誕ライブで、HIKARUちゃんによる「きみとぼく」。HIMEちゃんによる「クオリア」の音源が配信された。

クオリア

どこにいてもわたしはわたし 人それぞれ形が証
嬉しい 悲しい 話 両方正しい
じゃ帰ろう うちまで でもちょっとだけ教えてあげる

https://soundcloud.com/eticket/mchime

「きみとぼく」

きみの声が消えないように 僕の声が届きますように
2人の愛戻らないけど きみのために歌うよ
きみとぼくは 夢で会える

https://soundcloud.com/eticket/djhikaru

MIRIちゃんとHIMEちゃんのラップがなくなった「きみとぼく」には、「きみとぼくは夢で会える」というコーラスが追加された。別れの言葉の代わりに残された音楽。ライムベリーのことは、きっと忘れない。


HEY!BROTHER

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R.O.D./世界中にアイラブユー

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