地域ニュースを書いていると、「食事にはこだわっています」「材料の質にはこだわってます」という喫茶店や居酒屋におじゃますることが多々あります。しかし、そういうお店の食事が必ずしも美味しいわけではありません。
たしかに食材にはこだわっているけど、味付けが雑だったり、お酒だったら保管の雑さがわかってしまったり、コーヒーだったら出し方のまずさが伝わってしまったり。盛りつけはまるで雑誌のような出来なのだけど、食べるとなんだかしっくりこない。
そういうお店で何かをいただいた時に思い出すのが、よしながふみの「愛がなくても喰ってゆけます。」に出てくる「素材の味を殺さないギリギリまで塩を振るのがフランス料理で、素材の味を引き出す最低限の量の塩を振るのが日本料理」という言葉です。
この言葉に照らすなら、そういうお店はいつも「塩の振り方が一番美味しい量になっていない」。カメラで言うならピントがあっていない状態といえるでしょうか。裏返すなら、常に最適な量の塩を振れる人がプロということになるのでしょう。
それは、たとえばデザイナーがもっとも美しいバランスのレイアウトを作るために1mm単位で文字を置き換えたり、映画監督がどうしてもピンとこない演技に何十回とダメ出しをしたりというこだわりと似た「センス」の問題なのだと思います。
美味しいお店はたくさん知っていますが、それでも「これこそ!」と思わせる適量の塩のお店は限られています。
だからこそ、適量の塩が振られているお店を見つけた時の感動はハンパなく、多少お金がかかっても、もう一度行きたいと思わせるのですが。
もちろん、自分の仕事も適切な塩が見極められるようにしておきたいものです。
- 作者: よしながふみ
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