ホンのつまみぐい

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まとめサイトスケールのフィクションはもう嫌なんだ

 最近の「げんしけん二代目」。見るたびに「2ちゃんのまとめサイトにありそう」な展開を繰り広げていて、読んでいるととてもつらい。毎度きちんと読んでいるわけではなく、喫茶店のラックに入っている時や、弟がきまぐれにアフタヌーンを購入した時だけ読むという読者の無責任な嫌味かもしれないけれど。

 2ちゃんのまとめサイトと聞いてピンとこない人に一応説明するけど、ハム速とか、はちま起稿とかああいうやつだ。掲示板のスレッドのレスを拾ってデコレーションしたりすると、なんとなくそれなりの読み物になるので、それを利用してアフィリエイトで稼ぐ。

 まとめサイトにもいろいろジャンルがあって、デマも含めたセンセーショナルな出来事をまとめていくところ、アニメやスポーツなどの実況に特化したところ、マニアックな会話をまとめていくところなどいろいろだけど、中に創作実話というジャンルがある。

 2ちゃんにはよく、「こんなことがあったんだけど、聞いてくれないか」という体験談を語るタイプのスレッドが出現する。

 ゲーセンで出会った不思議な女の子の話がその代表格だろう。身の回りに起きたことというていで、応答を交えつつ物語を語っていくのだ。

 一部に本当に体験談を語っている人もいるのだろうけど、話半分で聞くべきホラがほとんどだ。素人が作ったストーリーらしく起伏やリアリティにも欠けるのだけど、ひまつぶしにはちょうどいい。そんな程度の内容だ。

 正確には創作実話自体は、2ちゃんねるのスレに特化したものではなく、あらゆる場所に存在する。ただ、2ちゃんねるまとめサイトという存在のために、そこで生じた多様な創作実話があちこちに拡散されていく可能性が高いのだ。

 こうした創作実話の特徴に、書き手の願望がかなりダイレクトに反映されること、人物が薄っぺらいことがある。イラつくのでリンクは貼らないけど「入ったサークルの『オタサーの姫』がウザかったからギャル投入した」というスレはひどかった。「しっかりもので、オレらを差別しないかわいい女の子が、オタクの集団の中に入ってきてくれることへの憧れ」「同族嫌悪的に憎しみを抱いているオタクの女の子を貶めたいという願望」がにじみ出ていた。

 クズが異性に対して「お前はクズ」と言いたがるインターネット。あるいは、実現する可能性のない願望をよちよちとなでてもらうインターネット。救われない……。

 さっき紹介したスレッドほどではないけど、最近の「げんしけん」もちょっとこういう部分がある。「卒業後も部室に行ってたら、どうも男の娘に好かれてるみたいなんだが」でスレが立つ。

 いや、「げんしけん」は最初のシリーズから「オタクなサークルに入ってるんだけど、最近腐女子の後輩が気になる」でスレを立て始めて、「実は、彼女は高校時代に同級生のオタク女子にいじめられていたことが判明した。オタク女子は自分の描いた『片思いの男の子受け』をその男の子に見せたんだ。彼はそれが理由で転校してしまった。その話を聞いたおれは……」みたいな創作実話っぽいマンガだったけど。

 でも、最初のシリーズは就職活動の緊張感とか、みんなで同人誌即売会に出る楽しさとか、普遍性のある感情のリアリティが随所にあったから、あんまり気にならなかったのだ。

 それが今では見るたびに全編にまとめサイトみたいな展開を繰り広げられていて本当にうんざりする。というか、つらい。なんでマンガという海の中で、そんなモニターサイズのフィクションを読まなくてはならないのか。

 いや、マンガなんて暇つぶしなんだけど、私はせめてもうちょっと凝ったウソがほしい。ぺらっぺらのフィクションは、まとめサイトで読めるから。

げんしけん 二代目の壱(10) (アフタヌーンKC)

げんしけん 二代目の壱(10) (アフタヌーンKC)