ホンのつまみぐい

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レスのシャワーはアロマのようだった/でんぱ組.inc 「WORLD WIDE DEMPA」発売記念インストアツアー12/11 クイーンズスクエア横浜 クイーンズサークル

 都会とはいえ、東京に比べると圧倒的にアイドルの訪問が少ない我が横浜。そんな横浜に、でんぱ組.incがアルバムのリリースイベントに来るという。

 喜び勇んで自転車で駆けつけたら、会場はすでにいっぱいで、舞台の正面はぎっしりと人の壁。吹き抜けにあたる部分に舞台を作っているので、エスカレーターを上がって上からのぞくという選択肢もあったけど、どうやらそちらも埋まっている模様。

 仕方がないので舞台上手のA2ほどのポスターが貼られたスタンドと柱の間からのぞくことにした。

 消極的な選択だったのだけど、これが大当たりだった。

 MCになるとメンバーの背中しか見えないような位置で、柱とスタンドのすきまはちょうど6人が入るくらいの大きさ。そこに向かってガンガンレスがくるのである。

 レスというのはアイドル用語で、ライブ中に自分に手を振ってもらった(と勘違いした)り、目線が合った(と勘違いした)りすることを指す。

 皆がそうではないけれど、オタの人は推し(応援している子)のレスを取得するためにジャンプしたり、サイリウムをふったり、リフトされたり、大声を出したり、とさまざまな工夫を凝らす。

 ほかにも半裸になったり、巨大なボードを作ったり、大量のサイリウムを体中に巻き付けたり……。まあ、このへんは例外だけど、とにかくレスはオタにとってライブにおけるモチベーションのひとつであり、レスを奪い合うことそのものがライブの醍醐味そのものとなっている。

 とはいえ、私は「レスとか別に〜。アイドルさんには遠い存在でいてほしいんで〜」とかいうタイプのオタクだったので、特にレスがほしいとも思わずライブに参戦してきた。

 しかし、12月11日に狭いスペースのすきまから、シャワーの様に浴びせかけられるレスには「この子は私のために手を振ってくれている!」と勘違いさせる恐ろしい効果があった。

 その日の舞台は小学校の講堂の舞台ぐらいの横幅があったから、正面に一列に並んだ人たちはおそらく30人くらい。つまり、メンバーからのレスを30分の1から分け合うことになる。だけど、自分のいた場所からは6分の1の程度の確立の凝縮されたレスが届くのである。

 これはヤバイ。

 もう、自分に向かって舞台の上のキラキラした女の子が手を振ってくれているようにしか見えない。

 でんぱ組.incは私が知った時には、BSとはいえすでにTVのレギュラー番組を持っていた子たちだから、芸能人、向こう側の人という意識が強かった。なのに、普通だったら「久々に会った一番の友達にしか見せないような笑顔」で目線を送ってくれたり、手を振ってくれたりするのだ。

 よく女の子の笑顔を表現するのに「花が咲いたよう」というが、まさにそれ。そういう笑顔がシャワーの様に振ってくる。

 ヤバイというよりは、ありえない。上質なアロマをずっと浴びているようなふんわりした多幸感。これは……若返る!

 アイドルを見始めて半年以上経って、やっとドルオタの方々の気持ちが理解できた。だから、時にアイドルさんが大きくなりすぎるのをさびしく思ってしまうオタクがいたりするのか。うん、客観的には狭量なんだろうけど、それはそれとしてレスもらえないのさみしいよね。いやー、すみません。私アイドルのライブのこと全然わかってませんでした。

 そして、どんどん大きくなるでんぱ組.incのことをこんなに近くで観ることはもうないだろうとちょっと感慨深く思ったり。

 私が初めて生で見たでんぱ組.incのライブは4月16日、「でんでんぱっしょん」発売記念ツアー〜感じてパッション!みんながいるし、仲間だもん〜@CLUB CITTA'(川崎)だったのだけど、その時に集まったファンはいわゆるアイドルオタクか、そうでなくてもサブカルチャーに造形が深いタイプだったと思う。つまり、情報に自分からアクセスするタイプだ。

 でも、会場にいた子の中にはZipperかなんかを読んで知って、この日初めてアイドルを観たんじゃないかという女子高生がたくさんいた。そういう女の子たちが「やばい!やばい!かわいかった!」とはしゃいでいるのを見るのは新鮮でほほえましくて、グループが新しい層に開かれつつあることを感じ取れる瞬間だった。

 観覧の中には年配の方もいらして、おばあちゃんたちが新体操のリボンを使うダンス「でんでんぱっしょん」を観て「きれいだったわねえ」と言ってくれたことににんまりしたり。

 新曲「VANDALISM」の振り付けのコミカルさと演歌パートの交じったわやくちゃした感じはおもちゃ箱のようで最高だった。

 ダンスの合間にちょっぴりふざけて、最上もがが藤咲彩音の髪の毛をいじったりする様子からは、余裕と貫禄が見て取れた。全力感もいいけど、余裕を持って楽しませることができるのはプロフェッショナル。

 この日は握手会がなく、アルバム購入者には当日限定のミニタオル進呈という特典だったのだけど、MCでそのタオルをわざわざほっかむりにしてアピールする最上もがの態度もプロフェッショナルだった。「タオルより握手がいい」あるいは「タオルがつくなんて知らなかった!」で買い控えられるわけにはいかないもんね。

 でんぱ組.inc、まだまだ売れるし届くな!と思った夜だった。

 ところで、舞台袖から観たことで、メンバーの振りの細かいところがよく見えた。でんでんぱっしょんを斜めから見たことで、あのわちゃくちゃしたダンスが狭い舞台の上、緻密なポジショニングで成り立っていることがわかったのは収穫だった。横から見ると舞い踊るリボンが互いにぶつかり合わないようにとても細かく設定されている。

 また、「W.W.D」という曲ではメインパートを歌うメンバー以外が全員体育座りになり、観客に背を向けて座るパートがあるのだけど、着座するメンバーが歌うメンバーをとても優しい表情で見つめている様はとても暖かい気分に。

 曲中にメンバー同士がケンカをしてしまう様子が振り付けとして組み込まれている「キラキラチューン」は、細かな演技とポジショニングが伴ってることもよくわかった。古川未鈴が舞台袖でうつむいてしまうところで、彼女が下を向きながらマイクに向かって細々と歌っているなんて初めて知ったし、そこに藤咲が駆けつけるところを古川に近い視点で観ることができたのはすごく貴重だった。

 何回も観た振り付けなのに、うつむく古川が本当にいじけて悲しんでいるように見えたから。

セットリスト1部
でんぱれーどJAPAN
キラキラチューン
W.W.D
VANDALISM
でんでんぱっしょん

セットリスト2部
でんぱれーどJAPAN
W.W.D
ORANGERIUM
バンダリズム
でんでんぱっしょん