6月25日のライブの直後に書いたもので、今ではいろいろ評価や認識が変わっているところもあるのですが、備忘録として公開しておきます。\ウイぽ〜ん/
昔のアイドルと今のアイドルの違いを端的に表すと「テレビの中の特別な女の子が時々普通のことをする」のが昔で、「ライブ会場の普通の女の子が特別になる」のが今ではないだろうか。
かつてはテレビを通して仰ぎみるものだったアイドルと、今は握手できるし、ツイッターでリプライも送れる。でも、そんな近い距離にいるアイドルたちが、ステージではキラキラ光る「特別な女の子」になる。そして、ファンはCDを買ったり、ライブに参加したりすることで、「彼女たちが特別になるための手助けをしている」という意識も持てる。
そうなると、ステージで特別な女の子たちがいかに「私たちと変わらない普通の女の子」かを発信していくこともアイドルにとっては必須になってくる。ファンはツイッター、ブログ、Ustreamと、編集を経ずに流される情報を享受しながら、ライブ、CDを通して彼女たちの特別を見守っていく。
でも、そういった「普通の女の子らしさ」を売っていくやり方は、生身の自分を見せ続けていくことそのもので、ちょっとした加減で女の子達を深く傷つける可能性を秘めている。「見せる」か「晒す」かの違いは紙一重で、だからこそメンバーが傷つくような見せ方はこっちもしてほしくはない。
そう思う一方、そういう正しさは本音だけどきれい事で、実際は人が傷つきもがく瞬間は、確実に半端なエンタメより面白い。私は観ていないのだけどAKB48のドキュメンタリー「DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?」や「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」があんなにサブカル界隈の話題になったのは「見せる」を通り越して「晒す」まで踏み込んだからだろう。戦争映画と表現されるアイドルのドキュメンタリーなんて、そりゃ、面白いはずだ。たとえ道義的には間違っていても。
先日ミニライブを観覧した「BiS」は、「見せる」と「晒す」の間を行ったり来たりするアイドルだ。全裸PVを作ったり、ドッキリ企画でファンを狂騒の渦に巻き込んだり、スクール水着でライブをやったりする。その極端な活動方針から、結成3年目にしてすでに4人のメンバーが脱退。2013年6月現在、結成時のメンバーは2人しかいない。
そんな「BiS」の活動の中で、もっともひどい「晒し」は、「Ash」のMVから始まる一連の内紛騒動で間違いないだろう。
私は後日ニュースサイトで読んだ情報でしか知らないが、もともと「BiS」の極端な方針に違和感をぬぐうことが出来ないまま活動していたテラシマユフに対し、炎上をしてでも知られていかなくてはいけないという主張を抱えるリーダーのプー・ルイとの間に確執があったらしい。
20代前半の、自己表現がしたい女の子達の間に、活動方針を巡って確執が起きるなんてことはさして珍しいことではないだろう。問題は、それを軟着陸させるのが仕事のマネージャーが対立を煽ってイベント化しようとしたことだ。
かくして、「Ash」のMVは『唐突にテラシマユフとミチバヤシリオを批判するプー・ルイとヒラノノゾミが映し出される』というショッキングな内容になり、何も知らないメンバーとファンの前に公開された。さらに、プー・ルイとテラシマユフがお互いのアイドル観と今後のBiSについて泣きながら語り合うというイベントが用意され、二人の溝をますます深める結果になった。その後、結局プー・ルイとテラシマユフの和解が訪れることもなく、半年後にはテラシマユフの脱退が発表されるという結果に終わった。
内部抗争と呼ばれる騒動の間中、ずっと当人達はブログに思いを綴り、インタビューを受け、トークイベントで感情を吐露しあった。泥沼の「晒し」合いだ。後追いの私ですら疲弊するその「晒し」に、当人達はもちろんファンも疲弊しきったに違いない。
そして、テラシマユフは脱退を決め、5月26日にテラシマのラストライブ「BiS4」、新メンバー3名のお披露目ライブ「BiS48」が行われた。
さて、こうしたごたごたを後追いで知った私に、初めて生で「BiS」を見に行く機会が訪れた。音楽のジャンルには詳しくないのだけど、間違いなく「BiS」は通常のアイドル音楽よりロック寄り。歌詞も「ときめき」や「かわいさ」より、「青春」や「刹那」を描いたものが多く、いわゆるアイドルらしい歌は少ない。でも、そういう刹那的な歌を女の子達が歌う姿はとても魅力的で、1度生で目にしたいとは思っていた。
さらに「あんなにむちゃくちゃなことがあったグループが、これからどういうライブを見せていくのだろう」ということにも関心があった。脱退ライブ「BiS4」からの喪失感が癒えないまま、お披露目ライブ「BiS48」を見た一部のファンが、まるで「両親の離婚の翌日に父親から新しい恋人を紹介された子ども」のように取り乱す様子をSNS上で見ていたから、あの混乱は一体今どうなっているのだろうかと、野次馬気分で足を運んだのだ。
この日のリリースイベントは通常版(1050円)、MV版(1890円)、LIVE盤(3570円)のいずれかのCD一枚購入につき、ミニライブの観覧資格と握手券が手に入る方式。通常版を1枚買ってライブに挑む。
収容人数1300人らしいクラブチッタだけど、集まった人数はそれほどでもなかったようで、ファンは前方にたまっていた。後方に関係者席と書かれた椅子が何脚か立てかけてある。(付け加えておくと、「BiS」のファンは正式名称「BiS 新生アイドル研究会」にちなんで研究員と呼ばれている。)
前方のスペースを区切るために立てられた柵に寄りかかるファンや、ステージ際前方に乗り出すファン、少し遠巻きに見ているファンと、それぞれがライブの時間を待っていた。中にはTシャツの売り買いをしている人もいる(アイドルのライブではファンがオリジナルの応援Tシャツを作る文化がある)。ステージ袖近くが空いていたので、そちらに異動し、柵にもたれかかってライブを待つ。
しばらく待ってクラブチッタのスタッフと思われる人から、「今日は関係者席を用意したのですが、誰も来ないことになったので、皆さん自由に遊んでください」とアナウンスが入る。とたんに「おおーっ」とかけ声が上がり、関係者席の椅子にファンが乗っかり始め、誰かが持ち込んだサッカー選手の等身大パネルが椅子の上に置かれる。
あっけにとられてみていると、しばらくしてペットボトルとタオルを持ったメンバーがステージの上に姿を現した。でんぱ組.incのライブはいつも導入の曲から始まるから、どっこいしょという感じで現れたメンバーにちょっと驚く。
ライブは新曲の「MURA-MURA」から始まり、人気曲の「nerve」へ。このナンバーではメンバーがステージの上から観客にタッチする文化があるらしく、サビの部分でオタが全力でステージに駆け寄る。「でんぱ組.inc」の「でんぱれーどJAPAN」もタッチのパートがあるのだけど、横から見ると鯉っぽい。後ろを見ると、空いたスペースでファンがなぜか全力疾走している。
ただ、ファンの盛り上がりと裏腹に、ライブ自体は空回りしているような印象を受けた。こんなもんなのかなと思いながら見ていると、途中で自己紹介を兼ねたMCが始まった。
この自己紹介の際にいちいちファンがリフトをして合いの手を入れる。リフトとはアイドル用語で、ライブ中にファン同士が1人を担ぎ上げてアピールすることで、「BiS」に限って起こるとこではない。けど、MCごとにリフトが起こるというのは初めて見た。なんだろう、これ、アイドルライブというより祭りの御輿の上ではっちゃける青年たちみたいな……。
この日はMCもどこかぎこちなく、なんだか新しい学年になったばかりでうまく話が続かない女子グループのような空気を醸していた。なんだろう、この放課後の教室感は。何となく気まずい気分でいるところに、ミチバヤシリオの「今日お葬式みたいだよ〜」との発言。あっ、それ言っていいのか……。
盛り上がりを欠いたまま終わったライブで、ちらほら批判的な声も聞こえる中、とりあえず握手会に並んだ。私は話すことが浮かんでこないから握手会は苦手なのだけど、これもアイドルライブの一部だからくらいの気持ちで行ったら、とにかく全員キラキラしていて、やばかった。しかし、なんでアイドルって握手会に全力で挑んでくれるのだろう?たかだかCD1枚1050円で女の子の手を握れるのって恐縮だ。
会場を後にしてツイッターでライブの感想を検索すると、この日のライブがいかにパッとしなかったを多くのファンが語っていた。そういう場に立ち会ってしまうと、こちらとしては次の日にも行われるというイベントの成功を祈らざるを得なくなる。まだまだ馴染んでいない、放課後の女子のような空気は明らかに生身の女の子たちのそれで、そういうのを見てしまうと、「あしたはがんばって」と思ってしまう。
そうか、こういう感情もアイドルを応援するってことの一部なんだ。その日の「BiS」はたしかに普通の女の子達だった。でも、それが特別な女の子になっていくのを追いかけていくことそのものが、アイドルの応援の醍醐味なんだろう。新生「BiS」のライブから帰宅しながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
セットリスト 01.MURA-MURA 02.nerve 03.BiSimulation 04.Hide out cut 05.DiE
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