ホンのつまみぐい

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二人会「信」杵家七三 三味線ライブvol.6&藤山晃太郎 手妻公演第2回

手品を美しいと思ったのも、邦楽を聞いて鳥肌がたったのも初めてだった。
そして、古典芸能の人がこんなにキュートなおしゃべりをしているところも初めてだった。

野毛は大道芸の町なので、そこで行われている手品すべてに新鮮に感動したわけではなかった。お札を焼く芸も、箱から次々に布を出す芸も、毎週土日にみなとみらいで行われている路上のパフォーマンスと大きく違ったわけではない。ただ、焼いたお札がロウソクから出てくる面白さや、布を取り出す所作や、舞い散る布の軽やかさな風情がとてつもなく新鮮だった。
はじめてみる技ではないけど、芸を見せる所作が美しい。つまり演舞なのだ。

藤山氏の幕間での解説によると、手妻は見立ての芸らしい。ただ、手品を行うだけでなく、その動作を見立てて、風景を作る。

今回見せてもらった芸の中には、見立ての究極といえるような芸があって、それが「蝶のたはむれ」だ。懐紙で作った蝶を扇で仰ぎながら、それが生きているように見せる。
扇で懐紙をあおぎながら、蝶がゆらゆら飛ぶ様子を表現する。一匹の蝶が伴侶とであい、死んでゆき、子を残す。
「懐紙で出来た蝶の動きから物語を想像する」というのは、ずいぶんと能動的な鑑賞だ。思うに、見立てるという行為は観客の主体的な想像力を必要とするのだろう。ある種の参加型芸能といえるのかもしれない。
「蝶のたはむれ」には、手品という単語から連想される驚きはない。でも、扇の動きから連想される小さな蝶の物語には、たしかにこちらを満足させるものがあった。不思議な芸だ。

また、こういった繊細さで魅せる芸だけでなく、金輪舞のようなアクロバティックな芸もおもしろかった。直径2メートルほどの大きな鉄の輪につかまってぐるぐる回るという芸。
金輪で回りながら舞台全体を使い切るという、その芸のスケールに圧倒された。ニコニコやyoutubeでも見られるが、ぜひ生で見てほしい。

邦楽演奏は三曲間に合わず、途中からの鑑賞になった。

最初の民謡メドレーはちょっと退屈に感じてしまい、「アニメのBGMに使うなら何がいいかなあ」などと考えていたが、分福茶釜とカチカチ山を合わせたという演目「狸」。
これで目が覚めた。
私は邦楽だけでなく、音楽には疎いのだけど、かろうじて演奏にキレがあるかないかくらいはわかる。七三師匠の三味線のパワフルでキレのある音。生で聞くと音が叩きつけてくるようにストレートにこちらにぶつかってきて、気持ちいい悪いではなく、まず「かっこいい!」と思わされる。

そして最後の曲は「傷林果」。さっぱり知らなかったのだが、かの同人ゲーム東方の曲らしい。

圧巻。残念ながら音楽のことをうまく言語化できないのだけど、邦楽で鳥肌が立つ経験ははじめてだったということだけせめて書いておく。音が振動となって、じかに皮膚にふれてきたような気がした。それはきっとあまりにすばらしい演奏だと、人間の集中力が過剰に高まって勝手に振動までを受け止めようとしてしまうのだと思う。

さて、この公演ニコニコ動画で課金配信されていて、合間にその説明を兼ねたトークがあった。ガタイのいい藤山晃太郎さんはいわゆる美丈夫というやつだと思うけど、喋り方は深夜ラジオのお調子者のMCという感じだ。
七三師匠の喋りもキュート。うまくいえないけどたぶん「あさイチ」とか出たら人気出る。古典芸能の人というとどうしても固いイメージを持ってしまうけど、軽やかで粋な大人という感じできゅんとくる。古典に限らず芸事の人にはどこか近寄りがたい印象を課してしまうのだけど、そういう偏見を溶かしてもらった。

カーテンコールでの演者の皆さんの柔らかい笑顔が最高の〆。

いいものを見せてもらいました。

後から知ったのだけど、藤山氏はふだんニコニコやyoutubeに動画をあげて、邦楽や手妻の知名度をあげようと尽力しているらしい。たしかに、お客さんの中にはふだんこういう芸能を見に来るタイプではなさそうな、オタク層の人が多かった。意外なところでつながってるんだなあと感動。


ニコニコでの配信に対する藤山さんの意気込みは必読。「信」のレポートをかねた日記もおもしろい。


配信できるインフラ、って簡単そうで簡単じゃない。上り速度の定常確保、運用回線と配信回線の独立、ブース候補箇所複数への有線引き込み。それをクリアしたハコがあり、一定以上の視聴者を抱えたチャンネルがあり、実績を持った配信チームがいる、ということがどれほど価値があることか。


無料を続けても、有料には至らない。無料視聴が基本のUstreamでどれほどお客を集めても、有料化し次第いなくなることは事例として多く見られている。当然だ、無料ベースであれば使用楽曲申請、および固有ユーザへの関連づけ(ログインしないでの視聴)が異なる。どのようなサービスでも、格安→高額化はありえても、無料→有料はない。そこに気づかずに無料でお客を集めて、「近い将来、プラスに転じるから今は投資!」とか思うのは危ういと思っている。

新潮選書 手妻のはなし 失われた日本の奇術

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