ホンのつまみぐい

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ダサいって便利だ

  昔仕事でお世話になった人に、ポップ作りがうまい人がいた。独特の書体でばばんと商品の特徴を押し出すポップは、商品売り上げを明確に左右するほどの個性があって、メーカーすら彼に媚びていた。

 

 人柄はとかくマイペースでぶっきらぼう。どこか子どもっぽい人だったけど、お世辞など言わない正直な人なので、その人に会うのはけっこう楽しみだった。

 

 当時の仕事を離れ、直接話す機会がなくなってからだいぶ経った今、彼が急逝していたことを偶然知った。彼の働いていたお店で、あの特徴的なポップの新作を見る機会がなくなったのはそういうことかと悲しくなった。私より年上だったけれど、まだまだ働き盛りだったはずだ。

 

 この間、彼が勤めていたお店に出かけたら、彼の書体と文体をまねたポップが商品に付けられていた。あの独特の書体が用いられてはいたが、商品紹介としてはまったく的を得ない、安売りのチラシのような文章が綴られていて、眺めている間にムカついてきた。フォーマットを転用して、こんなダサいポップを作るのは、彼に対する侮辱じゃないか。

 

 彼だって、メーカーに頼まれてそこまで気の乗らないポップを書いたことはある。それでも、こんなに投げやりな文章ではなかったはずだ。

 

 なめてるよなあ。商品のことも彼のことも。

 

 ひょっとしたら彼は自分の書体が会社に残っていくことを喜んでいるかもしれないけど、そもそも、身内ならともかく部外者がイラつくことじゃないかもしれないけど、でも、やっぱかっこ悪いよ。

 

 ダサいって言葉、便利だな。こういう時に使えばいいんだ。