ホンのつまみぐい

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古い人たちの話

 映画の配給・制作に加え、映画館の運営を行うアップリンクの代表・浅井隆パワハラで告発された。

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 彼がかつて寺山修司主催の劇団「天井桟敷」の舞台監督だったと聞いて、連鎖的に井上洋介の個展で聞いた話を思い出した。

 ギャラリーには井上のご息女が来ていて、昔話をいろいろ聞かせてくれた。晩年は「グラップラー刃牙」「クローズ」を読んでいたこと。一時期マンガに影響されて女の子の目が大きくなっていたことなどを面白く聞いた。しかし、楽しい話ばかりではなく、はっきりと不快になる話もしていた。

 そのうちの一つが「寺山修司は井上にポスターを描かせたのに、催促してもギャラを払わなかった」話だ。

 これはあくまで井上側からの話なので、真実はわからない。あとで気が付かないうちに振り込まれたなんてことがあったかもしれない。しかし、昨今少しずつ「パワハラ」としてとらえなおされるようになってきたアングラ演劇の現場の話を聞くと、ありえることのように思った。

 また、井上もかなりエゴイスティックな人だったようで、ご息女は「よく絵に描いているけど、父は太った人を嫌悪していた」「老人が嫌いで、バスに老人がたくさん乗ってきた時に『下ろしてくれ!』と叫んだ」「編集者が若い女性だと態度がまったく違った(よく覚えていないけど、年配の女性に対しては侮辱的だったという話もしていた)」「個展に来た記名者の名前から、“子”が付く人を抜いていった。“子”を使った名前は年寄りに多いので、若い女性だけにDMを送りたかった」というような話を、ほがらかに語っていた。

 その場にいた50~60代とおぼしき女性が、「まあ、それじゃ私なんか喜ばれないですねえ」と寂しそうな顔で言い、胸が痛んだ。

 ご息女にとっては天才画家である父の微笑ましいエピソードの一つであって、その話をすることによって傷つく人がいるであろうことは想像できなかったのだろう。

 ご息女から細やかで知性的なもてなしの姿勢と、父に対する敬意と愛情を強く感じていたので、そんな話を年配の女性の前でしてしまううかつさがよけいに引き立っていた。

 「ズレている」というのはこういうことなのかと、思い返すたびに物悲しくなる体験だった。