ホンのつまみぐい

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踊り子は過去と今をつなぐ/DX歌舞伎町閉館ラスト公演2019年6月結のチナツ「フラメンコ」

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あと3日で営業終了という日に、初めてDX(デラックス)歌舞伎町を訪れた。少し雨が降っていて、街全体が湿り気に覆われた日だった。


雨に濡れた薄暗いコンクリの中に浮かび上がる、キャバクラやホストクラブの看板。情緒のない明るさに居所のない気持ちになる。早く劇場を見つけたいと思いながら歩くが、なかなか見つからない。湿った街をぐるぐる回っていると、蒸し暑さも手伝って弱々しい気分が広がっていく。 


やっと見つけたDX歌舞伎町。小さな看板を横目に地下への階段を降りて劇場の入り口を開けると、スーツ姿の背中の連なりが見えた。売り上げ不振で営業終了と聞いていたが、さすがに混雑しているらしい。背中のすきまから見えるステージでは、大柄な女性がフラメンコを踊っていて、見慣れた風景にひとまずほっとする。


よく見まわすと、立ち見の人と人の間にそれなりにすきまがあり、壁際にもスペースがあることに気が付いた。入り口が詰まっていただけで、混雑しているとはいえ、さほどの人の量ではないようだ。特別講演と銘打って通常5000円の入場料を8000円にしているとはいえ、最終3日前でこれなら、閉店するのもわかる。


暗く塗られた壁や荒れたイス。そして天井右手に取り付けられた透明の棺桶のような箱。夢の空中ゴンドラと書かれたその箱は、かつては本板を客が下から眺めるために使われたというが……。過去の痕跡がそのまま残された古びた劇場にいると、見世物小屋にタイムスリップしたような気持ちになる。


ステージの踊り子は、すでに盆の上で薄布の赤いドレスに着替え、筋肉の詰まった肉体をさらしている。空気をかき分けるような力強い肉体の動きを、追いかけるようにふわりとなびく赤いドレス。そして、鳴り響く少し寂しげなフラメンコ。踊り子を照らすスポットライトは白熱灯のようなまぶしさで、その過剰な明るさがかえって女体の生々しい陰影を引き立てていた。


真っ白なまぶしい光に照らされ、少しわざとらしいくらいの情感をこめて踊り、局部を見せつけるためにポーズを取る女性。まるで古い映画の中にいるようだ。曲がいつの間にか日本語の歌に変わっていた。噛みしめるような気持ちで歌詞を聴きながら、寺山修司が好きだった高校生の自分を思い出した。そういえば、私は寺山修司から「新宿」という土地を知ったのだ。

 
ストリップを観ていると、たまになんの関係もないはずの自分の過去が溢れて感傷的になることがある。この日はそんな日で、なぜか少し泣けてしまった。

 

時代から取り残されたような古い劇場は、過去の足跡を色濃く残したまま消えていく。過去と現在があって未来がない場所で、少し古臭い、しかし優しく郷愁を誘うような音楽に合わせて彼女は踊る。そのダンスのあでやかさやじっとりとした汗は現在そのもので、しかし、過去と今をつなぐような力強さがあり、なんだかとても暖かいもののように感じられた。

 
ステージが終わるとすぐ、2人の小柄な女の子が私の横を通り過ぎていった。よく見ると武藤つぐみさんと小宮山せりなさんだった。踊り子は他人の演目を観ることを「お勉強」と言う。彼女たちも「お勉強中」だったのだろう。


フラメンコを踊った踊り子、チナツさんと写真を撮った。ストリップは一度引退し、今は時々小さな公演をプロデュースしながら、ダンサーを続けているというチナツさん。「あたし出戻りなんですよ〜」と言いながら笑っていた。


その後の6人。田舎から憧れの東京に出て、最後は娼婦として辛い毎日を送る演目をやった葉月さん。ステージも体も緩慢だけど、愛想のいい写真撮影で人気の美咲さん。所作のひとつひとつが美しく、セクシーな女教師を演じていても清潔感のあるMIKAさん。大きな扇子をかかえ、どこか寂しげな美しさで踊る友坂さん。アラビアンな衣装で、ほがらかにマイペースに踊る武藤さん。キュートな表情と肢体で悪魔を演じる小宮山さんまで観て帰宅。御幸奈々さんと真白希実さんは観られなかったが、それぞれがそれぞれらしかった。


常連のお客さん同士は、寂しさとあきらめを分け合うような表情で、顔を見合わせていた。死を受け入れるというのはこういうことなのだろうか。劇場はどんどん減っていき、過去との接続点も消えていく。消えていくものをただ惜しむだけの状況が、もどかしかった。

 

  余談だが、デラカブという名前は、前野健太の曲の中に残されている。彼が、自分の曲で踊るストリッパー「石原さゆみ」を観に行った際の経験をもとにして作った歌だ。

 前野はそのことを『Didion』01にて、エッセイとしても発表している。

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