ストリップ界隈では「踊り子さんは女子が来ると喜ぶから」「女の子はひいきしてくれるから」という話がまことしやかにささやかれている。
こういうのは人懐っこいおじさん方の「もっと前に座りなよ!」とか、「せっかくだからポラおごるよ!」という言葉の前置きとして使われることが多いので、だいたい悪意はない。いや、本当は悪意を持っている人もいるが、そういう人ほど気が弱いことが多いので、その悪意がこちらに直接向くことはあまりない。残念ながらゼロではないが。
ただ、自分があまり「女の子だと踊り子さんが喜ぶ」というのを実感できなくて、そう言われると「いやいや、全通したり差し入れしたり、がんばってる皆さんドーゾドーゾ」という気持ちになる。
実際のところ、女性客を見つけると大きく手を振ってくれる踊り子さんや、ポラ撮影時に女性にだけハグしてくれる踊り子さんはそれなりにいる。
でも、これを「同郷だから」とか「アニメが好きだから」と同じような、ちょっとした仲間意識として気軽に受け取っていいのだろうか?
ドルオタ的には、レスって何らかの行動の結果としてもらうものだから、「私みたいな淡白なオタクはいいんで、もっと落としがいのある人をフォローしてあげてください」という気持ちになったりもする。うれしいけど、ちょっと受け取りづらさがあった。基本的に自分なら「女の子だから好き!うれしい!」って気持ちになったとしても、それを大きく態度に反映させることはないと思うからだ。
しかし、最近「そういうことだったのか」と思うことがあった。
その日は地下アイドル仲間の友人のNさんとMさんを渋谷道頓堀劇場に案内した。
友人2人は現役のアイドルオタクなので、すぐ現場になじんで、踊り子さんたちに目を奪われていた。
平日夜。展示会帰りのサラリーマン男性たちと、おそらく大学の友人同士であろう男性たちがいて、一見客の比率が高かった。
一見の男性集団は、大概多少の冷やかし感を出して入ってくる。そのドヤドヤした空気をどう処理するかも踊り子さんの腕の見せ所だ。
渋谷の表通りからひとつ角を曲がった場所という立地から、一見客には慣れているのか、その日の踊り子さんは積極的にハイタッチをしたり、写真撮影時に話しかけたるする人が多かった。
渋谷道頓堀劇場はイスの背もたれに、踊り子さんが足をかけて歩けるくらいの強度がある。だから、踊り子さんによっては演目終了後のオープンショー(おひねりタイム)で、後方の席で様子をうかがうように見ている客に、無理やりハイタッチしに来たりする。
ちょっと警戒するようにナナメに眺めていた人が、いきなり生身の人間に笑顔をぶつけられて、戸惑いながらもほおを緩める様子は何度見てもほほえましく、この日も、そういう場面が何度もあった。
中でも見事だったのは、晃生ショー劇場から来た浜崎るりさんの対応だ。
その日の彼女は、「るり先生」という演目をやっていた。黒縁メガネにフリルのブラウス、タイトなミニスカート、ストッキングに高いヒールというセクシーな衣装の女教師の授業……。ベタベタにAV的な内容なのだけど、ここぞとばかりに色気を振りまく姿が王者の風格。
いわゆるマッスルな肉体美とはまた違う、ふくらんだ胸やふともものたくましさは見ていると謎に明るい気持ちになる。
手に持った指示棒で客をいじったり、脱いだストッキングを頭に被せたり、「先生のこと好きですかあ~~??」と聞いて「ハーイ!」と言わせるかけ合いがあったり、サインとキスマークをつけたノートの切れ端を渡す場面があったりして、常連も一見も見ているうちにどんどんニコニコしていく。
写真撮影時の対応もひたすら明るい。一見の若い兄ちゃん、常連の陽気なおっさん、耳を真っ赤にしながら並ぶNさん、ちょっと緊張気味のMさん。みんなの「エッチなお姉さんと写真を撮りたい」という気持ちをビッカビカに肯定してくれる。
「初めて?」「楽しかった?」「また来てね!」
一見、女性、常連らにあますところなく気を配る踊り子さんたちを見て、やっと理解した。
踊り子さんたちは「女の子が好きだからひいきしてくれてる」のじゃなくて、「ストリップを楽しんでほしいから、少し所在なげにしている女の子たちに『楽しんでいいよ!』と呼びかけている」のだ。
よく考えてみるとそりゃそうだ。だけど、一見さんであふれた場内を、しっかりと自分のペースに巻き込んでエンターテイメントしようとする踊り子さんたちの様子を見て、初めて気がついたのだ。
ところで、この日はとても陽気な常連のおじさんがいて、楽しそうに見ている私たちにかぶり席を勧めてくれたり、初めて写真撮影に参加する男性客たちをアテンドしたりしていた。
終演後、「誰が好き?」なんて話をするおじさんに、Nさんが「今日の踊り子さん全員推しになりました!」と宣言して、おじさんがニコニコしているのが何だかとってもよかった。