ホンのつまみぐい

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年末は超世紀末×SHIN-JUKEと東洋ショーに行って、2018年の自分をふりかえった

 (これはイベントレポではなくて日記です)

 

 2018年末の締めとして、大阪で開催された超世紀末×JUKEに行ってきた。ついでに、西日本に残された数少ないストリップ劇場・東洋ショーにも。

 

 一泊二日という短い遠征だったけど、何となく2018年のまとめらしいことをやった気がする。

 

 大阪は2014年のでんぱ組.inc×BiSの対バン以来だけど、あの日はZeppなんば大阪の周りをちょっと歩いただけで、街を眺めたりする余裕がなかった。

 意識的に大阪を歩くのは大学生の頃以来だ。私は本名の元ネタが「じゃりン子チエ」に由来するので、一度大阪に行かないといけないと思っていたのだ。

 

 その時は、大阪城天王寺動物園という一般的なコースのほか、「じゃりン子チエの舞台の西荻は西成の荻野茶屋のこと」と聞いて、駅名だけを頼りに荻野茶屋に行った。西成では地下鉄の入り口横でアヒルを飼っている人がいて驚いたり、バラック小屋のような建物の中で、だしの味のまったくしないしょっぱいうどんを食べた記憶が色濃く残っている。今ほどインターネットが当たり前じゃなかった頃のことだ。

 

 14時半からのイベントに合わせ、13時半頃に新大阪に到着。本当は少し早めに行って町歩きしようかと思っていたのだけど、のんびりしているうちに出遅れてしまった。

 

 地下鉄の心斎橋駅に降りて天井を見上げると、シンプルでモダンな蛍光灯が。大学生の頃に行ったロシアの地下鉄を思い出させる、かわいらしいデザイン。

 そうか、これが品のない改修案で話題になっている地下鉄の天井か……。

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 地下鉄の入り口を出ると、すぐに百貨店の扉が現れた。年末らしくお客さんで賑わっている。外に出て、人でごったがえす通りを歩く。街中に免税店と中国語の案内が多いのに驚いた。もちろん、中国語もそこかしこで聞こえる。学生の頃の記憶の、十数年先に生きているんだなあという気がした。

 

 超世紀末の会場は大阪のクラブ「COMPASS」。心斎橋の中心から、ちょっとだけ歩いたところにあった。

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 階段を降りて地下の入り口に入ると、手前にバーカン、右にメインフロア、左に大きめのソファー。そして、ソファーの奥に落ちくぼんだ広いスペースがあって、DJ機材とまばらに集まる人々が見えた。黄色がかった明かりや、黒い鉄柵、天井の電球などが、内装を古い西洋館のように見せていて、何となく秘密基地っぽい。

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 年の終わりという空気のせいか会場全体が明るくごった返していて、知人は運営のℏОĻ౺ٸἩ༏₮さんくらいしかいなかったけど、なんとなくめでたい気持ちになる。

 

 ℏОĻ౺ٸἩ༏₮さんにあいさつして、今DJブースになっているところは普段は楽屋になっているということを教えてもらった。

 

 出演者のことはVMOとUNDERHAIRZとCRNKYとくぴぽくらいしか知らない状態で来たので、会場では何となくDJブースいる時間が多かったけど、とにかく色んなことが起こる。

 

 パンツいっちょで登場して、ケツでろうそくを消すという芸を披露するラッパーとか(しかしラップの内容はエモい)、DJ中に踊り出してダンス対決をするダンサーたちとか、アイドルソングにあわせて歌いだす女の子とか。

 

 階段の手すりをつかんでダイブする演者を皆が面白がって笑ったり、音につられた人たちが勝手に即興のダンスバトルを始めたりする。

 

 会場でそれぞれがめいっぱい遊んでいるうちに、いつのまにか主役がくるくる入れ替わっていく一方、そういうのに加わらずに何となくソファーでぼんやりしている人もいる。そういうそれぞれが何となく好きなようにしている様子がすごくいいと思った。

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 フロアでずっとダンスをしていた細身の女の子がかっこよくて(ダンサーはみんなかっこよかったけど)、あとで「かっこよかったっす!」と声をかけたら、「やー!全然ダメでした~~!! でも、次もっとやりますから~~」みたいなことを言いながら抱きついてくれて、気持ちがあったまった。

 

 そういう雑然とした明るさとは対称的に、メインフロアのCRZKNYやVMOのパフォーマンスは、とにかく演者が出したい音、描きたい世界をガツッとぶつけていて、いい意味での頑固さが美しくて、まぶしかった。

 

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 残りのアクトが行松陽介さんのDJだけになった頃に、そろそろ出ようと思ってℏОĻ౺ٸἩ༏₮さんに話しかけたら、ちょっと照れくさそうに、でもはっきり「これが大阪のイベントですわ」と言っていて、言葉としては本当にシンプルなんだけど、最高の一言だなあと思った。

 

 超世紀末に行ってみたいと思ったきっかけの一つは、「一人でいたくない人も来たらいいよ」というℏОĻ౺ٸἩ༏₮さんのツイートだ。それは超世紀末とは関係ないイベントの紹介ツイートだったけど、「あ、そういう理由で行ってもいいんだな。そうだよね」ということに気持ちが軽くなったから。

 

 

 ライブハウスに行くきっかけのでんぱ組.incには、完全に這い上がりストーリーとアニメっぽいビジュアルや歌詞から入ったし、その後、BiSを解散まで追いかけたのも、HIPHOPを聴くようになったのも、たぶん物語性の強さに惹かれた部分が大きい。

 

 そのせいか、漠然と「ずっと音楽が好きな人が持っている時間の積み重ねにかなわないな」と思っているところがある。もちろん、楽しむだけなら気にしなくていいところなのだけど、言葉にして残しておきたいと思うと、どうしても知識が足りないために及ばない部分が生まれてしまうから。

 

 世の中には娯楽がたくさんあって、暇つぶしをしたり、何か気持ちを揺さぶられるものに会いたいと思うのなら、映画でも演劇でもスポーツでも読書でも食事でも、何でもいい。

 

 それなのに、コンプレックスを抱えつつも小さめのクラブやライブハウスの周りをうろついてしまうのは、「人が集まって楽しそうに騒いでるのを見るのが好き」なのもあると思う。だから、「一人でいたくない人も来たらいいよ」というのはとてもわかるなあと思ったし、そういう人がホームグラウンドでやるイベントに行ってみたかったのだ。

 

 もちろん、ジャンルレスなブッキングや、ネットに上がる簡潔だけど楽しそうな感想も「行ってみたい」と思う理由のひとつだけれど。

 

 それにしても、2週連続で演者が脱いでる現場にいるというのは笑っちゃうな。これで翌週に江の島の建設的に行ってたら、3週連続ライブで裸になる人を見ることになっていた。

 

 翌朝、寝て起きるだけのホテルから出て、教えてもらった本町のカレー屋を探すが、だいぶ歩いたところで、お店が日曜閉店だと気がつく。もうひとつ、前から気になっていたお店も日曜閉店というのに気がついて沈没。本町はビジネス街なので、日曜休みのお店が多いようだった。学生の頃はお金がないから、どこ行くともなく歩き回るのが当たり前だったけど、大人になって目的を定めるようになったら、学生ノリで旅行しちゃダメなのだといい年して気がつく。

 

 ちょうどSHINGO☆西成を聴きながら歩いていたから、一瞬、事前におすすめしてもらってた西成の立ち飲み屋に行くべきか迷う。しかし、「一人で行って大丈夫なのか。そもそも観光客気分で行っていい場所なのか」考えて結局断念。「ゲットーの歌です」の歌い出しの「人が死んでいる~ 頭血い出てる~~」をかみしめながら心斎橋まで戻る。

 

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 心斎橋は店が多すぎて、これという食事どころを見つけられず、結局、星野珈琲で一息。 

 

 天満のストリップ劇場、東洋ショーを目指して再出発。天満はハズレ飲食店の多そうな心斎橋と違って、喫茶店も飲み屋もおいしそうなところが多く、ここでごはんを食べればよかったと少し後悔。昔ながらの定食屋も、ちょっと気の利いたコーヒーショップも、街の中にすんなり溶け込んでいる。

 すっきりしたレイアウトの小さなコーヒーショップでお茶を飲んで、東洋ショーへ。

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 東洋ショーは入り口の階段に現在出演中の演者と次回公演の演者を印刷したポスターが貼られていて、華やかな雰囲気。階段もこぎれいで、中に入るとギャル風のお姉さんが受付で出迎えてくれて、何だかクラブのような感じ。いや、イメージはキャバクラなのかな? キャバクラは行ったことがないけれど……。

 

 ロビーのイスや机もステンシル素材のもので固められていて、白っぽい場内は何となくストリップ劇場っぽくなくて緊張する。年末ということで、熊手や凧などのお正月飾りが天井からぶらさげられていた。

 

 中に入ると広々とした舞台が現れた。映画館風のイスに、きれいに手入れされた盆や舞台。そして高めの天井は、一見すると新しめの小劇場演劇の箱のようだった。会場は満席で立ち見でステージを観た。

 

 東洋ショーではタンバリン・リボンなどが禁止されていて、客が介入できるのは手拍子のみ。そのせいか、手拍子が整然と揃っている。各回入れ替え制だったり、写真撮影の際にスタッフがついていたりと、厳格な雰囲気。

 

 独自ルールが生まれた理由を頭の中で想像しながら、ぼんやりとストリップの記事を作るまでのことを考えていた。

 

 初めてストリップに行ったのは2010年。訪れたのは横浜若葉町の黄金劇場という、時間が止まったような古い劇場だ。近くで活動しているアート団体ART LAB OVAが、「劇場も街の一部だから」「福祉施設のようなもの」といういう考えでフィールドワーク的にツアーを組んでいて、当時ボランティアに来ていた学生たちと足を運んだのだった。その時は、ストリップを大道芸と同じ枠に入れていて、消えゆく芸能を一度見ておきたいという気持ちだった。

 

 劇場には50代だろうという踊り子さんと、ぽっちゃり体型の踊り子さん、タッチの時だけ出てくる人と、AV女優の踊り子さんがいて、緊張しているこちらの気持ちをほぐすようにいろいろ話しかけてくれた。

 

 タッチショーでおっぱいをさわらせていただいたり、不思議の国のアリスの衣装を身につけてハードロックで踊る踊り子さんや、白い美しい着物で心中モノを演じる踊り子さんを見て、世界観の多様さに驚いたりした。常連のお客さんがポラをおごってくれて、みんなで舞台の上で集合写真を撮った。私たち以外のお客さんは4人くらいしかいなかったと思う。

 

 自分の身体が縮こまっていたせいか、記憶の中の劇場はとても天井が高い、宇宙船の中のような空間として記憶されている。流れている時間も外の世界とは違うような気がした。

 

 それからだいぶ経った2017年の9月。横浜ロック座で女性無料興行があると聞いてふと足を運んでみた。中に入ってその狭さに驚いたけれど、シュッとした白スーツで、宝塚の男役のように踊る友坂麗の凜々しさと、ポラ撮影時の小向美奈子のお客さんとの気さくで明るい会話をよく覚えている。

 

 不健全なはずの場なのだけど、あけっぴろげな分だけ明るくて、ほんわかした空間だった。ただ、「これは搾取じゃないのか?」「後ろにヤクザとかいたらどうする?」などいろいろ疑問が湧いてきて、その印象を言語化することが出来なかった。

 

 半年以上経った2018年の5月に、改めてmessyに企画として提出したのは、その時に浮かんだ疑問を解消させたかったからだ。エロがテーマだとバズるかなと思ったのもある。女性無料興行の時に踊り子さんの名前で検索して、熱心なストリップファンの女性がいることを知っていたから、彼女たちに話を聞こうと思っていた。

 

 最初は女性ファンにインタビューして終わりのつもりだったけど、劇場や踊り子さん、古参の男性客にも話を聞くことになり、全4回という長尺になり、企画書の段階では9月頃に掲載予定だったのに、私の遅筆もあって11~12月になってしまった。

 

 取材している間、ずっと心に置いていた言葉があった。ドキュメンタリー映画ヨコハマメリー」の監督・中村高寛の「ドキュメンタリーというのは今の社会をどう見つめていくか」という言葉だ。そういう姿勢で挑むべき題材だという覚悟で書いていた。

 

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 それにしても、最後の記事で「混沌」を肯定しているのが、いかにも自分らしい。ごちゃごちゃした正体のよくわからないものが、散らかっていて一瞥しただけでは把握しきれない場所が、一貫して好きだ。

 

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 そして、私の地元が横浜でなければ、中村高寛の言葉を見つけることはなかったんじゃないかと思う。そもそも、大道芸が好きになったのは野毛大道芸の影響だし、黄金劇場だって横浜ロック座だって、地元じゃなければ足を運ぶことはなかったろう。人は育った場所の影響から逃れられない。それはうれしいことでも、悲しいことでもある。

 

 そんなことを考えながら見ていたせいか、東洋の生真面目な手拍子はちょっと寂しく聞こえた。整った舞台の大きさに負けている演者もいて、やはり一人きり、身体一つで15分をやりきるというのは大変なことだと実感する。

 

 トリのせいの彩葉さんはダンスもベットも見事で、大柄な身体が舞台に映えていた。女性客を見つけると、「よく来てくれたねえ」という表情で手を振ってくれるので、ちょっと照れくさかった。

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 東洋を出て、天満のお店で肉寿司を食べてみる。お肉はおいしかったけれど、寿司である必然はないかな。よくよく見ると街のあちこちに大阪万博を歓迎するポスターが貼られていて、これがストリップの衰退を加速させることがないよう祈る。

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 天満周辺をぶらつくと、年末だからちょっと贅沢をしよう、もうゆっくりしようという人が多いのか、いかにも地元の老舗という風情の食事処のあちこちに行列が出来ていた。こういう風景を見ると、余所の街にお邪魔しているのだという気持ちになる。

 

 心斎橋に戻って一二三屋に寄ってみる。かわいらしいグラフティのドアを開けると、眼鏡の好青年が店番をしていた。

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 青年は訪れたお客さんに必ず「どこからいらしたんですか?」「ヒップホップ好きなんですか?」というようなたわいなことをふんわり聞いていて、耳を澄ませていると、こっちも少しずつお客さんのことがわかっていくのが、なんだか面白かった。マイドリという名でラップをやっているそうで、ラップスタア誕生にも出ているらしい。EVISBEATSを買って、「帰ったら曲聴きます」と言って退出。

 

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 「もう行くところなくなってしまったな」と思いながら心斎橋を歩いていて、ふと、ディスクユニオン梅田店で「じゃりン子チエ」のコラボバッグが販売されていることを思い出す。見学も兼ねて行ってみようかなと梅田まで行くが、駅から意外と距離があって、たどり着けないまま閉店時間を迎えてしまった。昼の本町のお店に続き、行き当たりばったりで行動してはいけないというのを痛感。ちなみにおみやげも買いそびれた。

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 しょうがないので地下街を歩き回り、泉の広場というところでふと立ち止まったら、50代後半のおっさんに「お茶行かない?」と声をかけられてビビる。

 

 追い払ってから「泉の広場 ナンパ」で調べて事情を把握。1回何万とか、話だけなら五千円と言われたとか、いろいろ出てくる。闇だな……。ていうか、なんでそんな空間が大型ターミナル駅の地下街にあるんだ。

 

 深夜バスの時間まで地下街のブックファーストで時間をつぶしたり、喫茶店でぼんやりしたりしていた。深夜バスは時間通りに来て、時間通りに東京に着いた。

 

「自分は本当にアホだなあ」と何度か思ったけど、行きたいところに行って、見たいものを見て、会いたい人に会えて、自分がなにが好きなのかゆっくりふり返ることができて、それはすごく幸福な2018年の〆だったと思う。

 

 しかし、はるき悦巳が描いたようなお好み焼きを食べることは今回もかなわなかった……。

 

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こう、かき混ぜるんじゃなくて、順番に具を置いていくお好み焼きというのをですね……。

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