ホンのつまみぐい

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2018年9月中の水鳥藍「ボレロ」@渋谷道頓堀劇場

昭和のラブホのような内装の道頓堀劇場に「次の演目はタンバリンや手拍子を控えてご覧ください」というアナウンスが流れた瞬間の違和感をよく覚えている。

 

幕が開いて姿を現したのは、黒い目隠しをつけ、黒鳥を思わせる黒ワンピースで現れた水鳥藍。そして、か細いメロディから始まる、ラヴェルボレロが流れる。

 

同一のリズムが反復され、楽器の構成だけが変化していくラヴェルボレロ。ダンスのために作られたというこの音楽は、バレエ史に残る傑作舞踊を生んでいる。真っ赤なテーブルの上で、一人のダンサーが音に寄り添うように踊り続ける不思議な舞踊。モーリス・ベジャールによる振り付けのそれは、一度見たら、たとえ画面の上でも忘れられないだろう。

 

水鳥藍は、このボレロにストリップで挑戦したのだった。

 

小さな劇場の舞台の上で、弦の音に合わせ、身体を少しずつ動かしながら、挑むように盆に向かって歩んでいく。

 

途中でさっと目隠し(パンティーだった)を取る。初めて見る彼女の眼は、まるで少年マンガの主人公のような生命力に満ちた目つきで、客でも、場内の壁でもないどこかを遠くを見つめていた。

 

そのダンスがどれだけベジャールの振り付けを引き継いでいたのかは判断できなかった。

 

しかし、15分間まったく緊張感を緩めず、ただただものすごい集中力で踊り続ける彼女の姿は、とても異様で、そしてとてもすがすがしく、野性的だった。

 

バレエのボレロは盆の周りにダンサーがいるが、ストリップ劇場ではほぼゼロ距離に客がいる。そして、盆の上では女の子はたったひとりだ。

 

最高潮に至ったまま唐突に終わるあの曲が、コンサートやバレエと同じように最後を迎えた瞬間、照明も瞬時に消え、彼女の身体も私たちの目から消えた。

 

艶も可愛げもふりまかず、ただただ全身をさらけ出しながら15分を踊り切る。暗転した瞬間の拍手は、にぎやかしの手拍子ではなく、コンサートやバレエですばらしい演奏がなされた時に聴くたぐいの、敬意に満ちた拍手だった。

 

私が観た日、かぶり席に座っていた男性は、ボレロを観ながら退屈そうに首をかしげていた。ストリップという枠が何でも受け入れる土壌を持つとはいえ、敷居の低い演目ではないだろう。

 

それをやり通す無謀さも含めて、水鳥さんは美しい。彼女は「踊っている時間がもっとも生を実感できる」タイプの人間なのだろうと思う。