ホンのつまみぐい

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よく出来たポートレートはまるで写真家による絵画だ/女性の肉体のかわいさ・かっこよさを突き詰めるスリリングな展示「アイドルレスラー展」

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人間の肉体を撮影すると言うのが、こんなに面白いことなのかと認識させてくれる、めちゃくちゃスリリングな写真展だった。

 

アイドルレスラー展は女子プロレスラーたちを6人のカメラマンがそれぞれの方法で撮影するというコンセプトの写真展。

 

撮影方法や被写体との関係性は様々で、ソフトフォーカスを多用し、廃屋らしき場所に佇む伊藤麻希ちゃんをゴッシクに切り取った作品(山本華漸)もあれば、メインビジュアルに採用された、上福ゆきさんがその美しい背中を見せながら刀を構える極道映画のポスターのようなもの(鈴木ゴータ)もあり。山下実優さんが馬に乗る凛々しい姿を捉えたモノクロ連作(カツミリナ)あり。暗闇で蛍光の光の帯を光らせる写真(浮花)あり……。

 

中でもインパクトがあったのは、里歩さんが古いアパートの窓辺に薄手で花模様のワンピースを着て佇む写真(立花奈央子)と、ギャルゲーのパッケージをイメージさせるのどかおねえさんの連作写真「3Dバイノーラル のどかおねえさんVR」(鈴木武)だ。

 

どこか儚さを感じさせながらも、日活ロマンポルノ的なエロスも連想させる里歩さんのワンピース写真。その隣にはレスラーとしてほどよく鍛えたお腹を出しながら、キリッとした目でこちらを見ている写真もあり、そのギャップにめまいがした。

 

のどかおねえさんVRは、ぽっちゃりむっちり体型ののどかおねえさんが洗濯物を取り込んだり、フライパンで料理を作ったり、部屋でごろんと転がったりする様子を、ギリギリだらしなさより可愛らしさが勝つレベルで捉える。生活感のあるエロスがヤバかった。

 

大学では写真部だったのに、こんなことを書くのは恥ずかしいけれど、写真はデフォルメだということ。そして、よく出来たポートレートはまるで絵画のようだということを私はこの写真展で初めて知った。

 

たとえば、立花奈央子さんは作品で肌のマットな質感を強調することで肉体の凸凹を浮き立たせながら凜々しさとエロティックさを共存させ、レスラーの存在感をたしかなものにしている。一方、鈴木武さんは影のできない明るい画面作りをすることで、その肉体の陽性をあらわにしている。

 

ひとりの人間の姿をどのようにして写真に収めるか。それが、ある要素を引いて別の要素を強調させていくことならば、それはデフォルメと呼んでいいのではないか。そして、出来上がりに対する想像力と技術力こそが作家性なのだろう。

 

カメラマンの目線を受け止めるレスラーの媚びのないたくましさや、ナルシシズムを排したストイックさは、ファッション写真やアイドルポートレートと違った迫力があり、見飽きなかった。(でも、何となく昭和のエロスを感じる部分もあり……)

 

被写体のファンなら確実に見にいくべきだし、女性の肉体に興味があるなら、また見に行くべき展示だった。

 

ちなみに会場では作品はもちろん、A4サイズのお手軽な値段のポートレートに本展の写真集も販売している。会場は銀座のヴァニラ画廊。25日(日)の17時までなので、気になっている人はぜひ。

 

ところで、私は女子プロにはくわしくなく、ドルオタ属性から伊藤ちゃんの写真を見に何となく足を運んだのだけど、写真集に「伊藤さんの闇を表現しました」と書いてあって笑ってしまった。

 

伊藤ちゃんのプロレスラーに転向してからの活躍のめざましさは本当にすごい。アイドルだった頃はピンでの連作ポートレートや、雑誌の裏表紙でセミヌードなんて考えられなかっただろう。見ていて楽しいし、かっこいい。私はミスiDのポートレートを買ったことがあるだけのライトなファンだけど、いつか現場にも行ってみたい。

www.vanilla-gallery.com

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