とにかくパーティを続けよう
これからも ずっとずっとその先も
このメンツ このやり方この曲で
ロックし続けるのさ
日本で最も有名なラップミュージックと言っても過言ではない「今夜はブギー・バック」の、あまりにも有名なこのリリックが多くの人の心に突き刺さるのは、永遠に続くパーティーなど存在しないからだ。
人も場所もそして、そこで人々をつないでいたはずの音楽も変化し続ける。
3月24日にひとつのパーティーが折り返し地点を迎える。始めた頃はTwitterで知り合ったラップ好きのオタク同士でしかなかった青年たち。MAZAI RECORDSというふざけた名前のもとに活動する彼らが始めたパーティー「Tinpot Maniax」も3年目だ。
オフ会の延長っぽさを感じる第1回のイベント案内ページからは信じられないくらい、内容も運営も、そして客も進化していった。
MAZAI RECORDSのイベントが面白いのは「発明」があるからだ。
第2回の途中から参加しているが、その時に初めて見たお題&パンチラインカウント制バトルの面白さは忘れらない。お題に沿って、くだらないパンチラインが次々と飛び出す様は通常のかっこつけたMCバトルにはない、圧倒的な面白さがあった。
先攻が提示された3つのお題の中から一つを選び、両者それに沿った話題(正直おもしろければあんまり沿ってなくてもいい…)でバトルする。審査員が「かっこいい」「おもしろい」「キモい」といった独断と偏見に基づいた基準で試合中のパンチ・ラインの数をカウントし、その合計数で勝敗を決める。ノリを重要視するため事前エントリー不要。
もともとは、「バトルを普通にやると、友人あるいは見ず知らずの人に対して言うことがなくてつまらない」という状況を打破するために生まれたらしいが、しょうもない下ネタと暴露発言が爆笑を誘う、狂ったバトルをいくつも見させてもらった。
しかし、大ウケだったそのバトルを「みんなだいぶラップがうまくなってスタイルが確立されてきた」という理由で辞めてしまい、次はフローだけやんMCバトルという、「お題カードで引いた言葉と、その単語で韻を踏んだ言葉しか使えないというルールのバトルを開発。
ルールだけではよくわからないという人は、谷川俊太郎の「かっぱ」を思い出して、これにフローをつけてみた状態をイメージしてほしい。韻とフローだけが勝負の決め手となる、ヒップホップ上級者向けのバトルだったが、カクニケンスケvsぎぎぎのでにろうというフローが売りの二人の対決が盛り上がった。
さらに、それも一度で切り上げて次はフリースタイルダンスバトルという、オタク客にやらせるにはちょっとハードルが高いんじゃないかという催しものまで繰り広げられた。
ダンスバトルに至るまでの流れを見ていて感動的だったのは、それまでラップしかしてこなかったメンツもとにかくその場に参加したいという気持ちから、どんどんバトルにエントリーしていたことだった。
たとえかっこ悪くたって面白きゃいい、参加する方が絶対楽しいという空気の蓄積が、オタクによるダンスバトルを成功させていたといえる。
そして、バトルだけでなく音楽イベントとしてもチンマニはどんどん進化していった。
最初のころはDJタイムだけだったのに、いつしかゲストライブが入り、運営メンバーによるライブが生まれ、セッションの時間も取り入れられるようになった。
このセッションは、よくラップのイベントにあるオープンマイクではなく、好き勝手に流れる音楽の上で、100均で買った鍋や楽器などをたたきまくるというものだ。
誰でも参加できるし、何やってもいいし、めちゃくちゃ楽しい。
チンマニにはいつも発明と進化がある。
そんなTinpot Maniaxだけど、来年度からは運営主要メンバーがすべて社会人となる。新しいメンバーも入ったし、続けていくという意思は確認したからきっと最終回ではないだろうけど、同じペースでは続かないかもしれない。
3月24日のタイムテーブルはギチギチに詰まっていて、無事に運営できるのか心配になるくらいだ。
3/24 TINPOT MANIAX vol.5
— ドクマンジュ (@DocDocManju) 2018年2月9日
月あかり夢てらす@川崎 pic.twitter.com/uUFu4xn1vm
uglinex、MANOY、オラディー、YABO$HIKI-1、JavbaraというMAZAI RECORDSの仲間たちに加えて、あらいぐまMCというオタ仲間のライブ。そして高野政所によるDJとoretachiによるライブがある。
かつてアシッド・パンダ・カフェでSIMONJAPとラップをして、「ヒップヒップを広めろ」と言われたというドクマンジュが、まさにオタク内でのヒップホップの伝道師的な存在になり、自分のイベントに高野政所を呼ぶという由縁は美しい。
そして、最新プロジェクト「青い果実」も話題のMETEOR参加のプロジェクト「oretachi」では、秘密結社MMRの楽曲が川崎に鳴り響く。
とにかくばかばかしくて面白いことをやり続けてきたMAZAI RECORDSの、現時点での集大成と言ってもいいかもしれない、正しいブッキングだ。
前回に続いてのダンスバトルに加え、50分もの時間を割いているヒップホップ大喜利という謎の参加型イベントも見逃せない。
ありとあらゆるものは変わっていく。彼らが週一でサイファーをしていた河原の橋の下も、今は工事中で立ち入れない(でも、工事が終わったら入れるかもしれない)。
だからこそ、パーティーがあるなら楽しまなくっちゃいけない。
メンツもやり方も曲も変わっても。