ホンのつまみぐい

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社会福祉機関としての図書館を書く「青い図書カード」(ジェリースピネッリ)

図書館を舞台とした少年少女のオムニバスストーリー。

スピネッリの「少年少女が何かと出会って心を解放していく」表現がとても好きなのですが、「青い図書カード」はそれがすべて本であり、図書館であるという意味で、本好きが読んだらニコニコしてしまう内容でしょう。

たとえば、1話目の「マングース」は中学生になり、幼なじみの万引きにつきあっていた少年が、図書館で「不思議あれこれ」という科学の本を読んで、知的好奇心を培う話。

本を読む快感をスピネッリはこんな風に表現します。

まるでバナナパフェを食べるときと同じだった。どこもあまりに魅力的で、一か所つっつくとほかのところもすぐにつっつきたくなるのだ。ただ、バナナパフェの場合、食べ終えるともう二度と食べたくないくらいおなかがいっぱいになるのに、この本の場合は、朝、がつがつ食べても、昼にはまたいくらでもはいるのだ。おなかとちがって、「不思議あれこれ」はどこへいくのか、どこまでもかぎりなく吸収されるのだった。

 

もう一つちがいがある。バナナパフェを食べるとき、マングースはとてもいやしくなる。人にとられないように、しっかりとガードをして食べる。(略)ところが本の場合、自分だけでは満足しないのだ。他の人にもおいしさをわけたくなる。

ただ、スピネッリらしく登場人物のおかれた状況は時にハードです。

たとえば、3話に登場するソンスレイは、麻薬中毒により母を幼い頃になくし、面倒を見てくれる叔父との車生活を強いられます。ソンスレイが行く町ごとで暴力をふるってしまうため、同じ町で生活が出来ないのです。ただ、ソンスレイの荒れた行動には、ひとつ理由があり、そこに彼が本と出会う意味が存在するのです。

ソンスレイが求める本と出会った瞬間に、心に到来する感情の暖かさは思わず目頭が熱くなりました。

登場する子供たちは必ずしも社会的に恵まれた立場におらず、これまで読書あるいは図書館に接することなく生きてきた子も多数登場します。彼ら彼女らは一人でじっくりを本を読むこと(またそうしたある種の隠れ家を持つこと)。読書によって過去と向き合うことを経験して変化していきます。

ありがちな本好きによる同類捜しの物語や、読書体験を特権化する物語で終わらず、社会福祉的機関としての図書館の価値を丁寧に描いていることが本書の優れている点と言えるでしょう。

それはそれとして、その後が描かれなかったウイーゼルの今後が心配です……。

青い図書カード

青い図書カード