ホンのつまみぐい

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BL・レディコミ・TL-女性向けポルノを読み解く丁寧な試み「欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差」(堀あきこ)

最近、「BLって女の子にとって何なんだろう」と思うことが多かったので読んでみました。もちろん、BLの読者は女の子だけではありませんが、ここ最近の私の関心が「女の子にとって」なので、あえてこの文章でも「女の子にとって」を強調します。

 

本書は、「はじめに」で宣言されたように“「性的表現を含む女性向けコミック」に表れている女性のセクシャリティ観は、男性向けポルノコミックに表れているセクシャリティ観とは、異なる価値観によっている”ということを追究しています。

 

レディースコミック、ティーンズラブ(TL)についても取り上げられていますが、ここではBLについてのみ取り上げます。

 

・BLは伝統的な女性性規範からの逃避先
・BLには性描写が求められることが多い
・女性が男性を性的対象として見るための工夫

 

というのを前提に、具体的な作品をもとにした細かな考察があり、面白く読めました。

たとえば、BLコミック「お金がないっ」には借金のカタに売られて奴隷になった受けが攻めに買われてレイプされる場面があります。一見すると権力を行使する攻めに従属する受けの物語でしかない描写ですが、著者は攻めが愛を語るモノローグに注目し、「恋愛という権力関係において支配者は実は受けである」という事実を見いだします。

こうした入り組んだ価値観を前提とした楽しみ方は、BL読者にとっては自明ですが第3者にとっては理解しづらい。丁寧な整理がなされることにより、女性にとってのBLの重要性がわかりやすく説明されています。

 

また、一方で「ヤオイ作品の多くが(ある種)の異性愛規範を内面化していることは、現状も変化していないのだ。」という指摘もあり、これがとても重要だと思いました。

 

これに自覚的でないことによって、精神的に宙づりでいるというか……やおいを楽しみながら、その行為そのものを「異様なこと」と定義づけて引き裂かれている女の子が少なくない印象があるので。

 

つまり

・女性であることにより、自身を「傷つけられる性」であると強く感じている
・「性を楽しむこと」が誰かを傷つけることであるというのが内面に深くある
・客観的な立場でいられるBLをポルノグラフィーとして楽しむ
・BL的な読みを楽しむことは、性によって誰か傷つけることであると考えてしまう
・BLを読んでいる自分を異常であり、それを第3者に見せてはいけないと思う

 

という混乱した状態の女の子って少なくないと思うんですよね……。

でも、ちょっとマイノリティー側で、誰とでも共有できる性癖じゃないかもしれないけれど。そして、二次創作的な文脈において、ネタ元の作者とか当人とかには恥ずかしくて(嫌われたくなくて)言えないかもしれないけれど、異常と思って否定するのも間違いだと思うんですよ。

 

いや、思いますじゃなくて、明確に間違い。だって本当は「性を楽しむこと」と「誰かを傷つけること」はイコールじゃないから。たとえ、社会にそのような権力関係が蔓延していても。いや、しているからこそ、「本来はそうじゃない」って理解することが大事なんだと思います。

 

そういうちょっとナイーブで複雑な、様々なことが整理されたよい本でした。BL研究したい人はもちろん、性について考えたい人にはぜひ読んでほしいです。

欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差 (ビジュアル文化シリーズ)

欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差 (ビジュアル文化シリーズ)

 
お金がないっ 1 (バーズコミックス リンクスコレクション)

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