ホンのつまみぐい

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9月3日~7日の現場(日ノ出町で大谷能生×トオイダイスケ、自宅でECD、タワレコ横浜店でサ上とロ吉、寿町で水族館劇場「FURUSATO2009」)

9月3日

涼しくなったせいか、犬の急逝のせいか。やんわりと人恋しくなってきたので日ノ出町試聴室へ。黄金町からの移転後はじめての訪問。

以前なら喫茶へそまがりが人恋しいときのひまつぶしの場所だったのに、なくなってしまってやっぱり寂しい。前日にカレー会(MAZAIRECORDSメンバーが聖蹟桜ヶ丘でやっているサイファー)でたっぷり好き勝手叫んできたのに、犬の死からなかなか元気になりきれない。

試聴室の演目は「大谷能生(サックス)×トオイダイスケ(ピアノ)」の、のんびりしたセッション。1000円ワンドリンクというお手軽な値段が、気分転換にはありがたかった。

日ノ出町試聴室は古いビルの2階にあり、中に入ると暗い照明に木の床が落ち着く品のいい喫茶室になっていた。京浜急行高架下のコンクリ打ちっぱなしにガラス窓のほったて小屋での営業を思うとずいぶんライブバーらしい風袋になっていた。

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机とイスがたくさんあるので、本を読んだり文章を書いたりしながら演奏が聴ける。贅沢だ。気負わないセッションの合間に入る雑談が楽しい。

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エヴァンス麻薬中毒の中でこの曲を作って、もっとも時間をかけた自殺って呼ばれたんだよね。ははは」

「この曲すごく理屈っぽくてさ、そこがね、いかにもエヴァンスで…!」

日曜午後の音響として最高の空気のゆるやかさ。

休憩を入れて3時間ほどの演奏が終わり、外に出るものは出て、残るものはマスターと雑談などを続けていた。

9月4日

ドミューンのECD特集を家事の合間に見た。

ECDの音楽には、いつもどこか懐かしい昏さがある。それはたぶん、大学生のころに見ていた小劇場などに通じているものだ。クラブミュージックあるいはR&Bという文脈から生まれる熱気や明るさと、少し距離のあるほの昏さ。どこか俯瞰的な彼の歌は朗読劇のようで、でも、不器用な熱量がある。

登壇者は磯部涼、二木信、石黒景太(ex キミドリ、ILLDOZER)、今里(STRUGGLE FOR PRIDE)、坂脇慶、佐々木堅人、高木完荏開津広スチャダラパーBose、ANI、SHINCO)、K DUB SHINE山崎春美(ガセネタ、タコ)、山本哲 & 有近真澄 & 池田敬太(ex 劇団 キラキラ社)、野々村文宏、宮里潤(編集者)、続木順平(QuickJapan編集長)、スチャダラパーDJ OASIS、田我流、YOU THE ROCK☆、YAS。各人の「この人のことを語らねばならない」「記録しなければならない」という静かな熱が伝わってくる。

どう見ても狭いドミューンの観覧ブース。ライブになって明かりが落とされると、狭い小屋の中で宗教行事が行われているように見えた。客席の声をあまり拾わないから、YOU THE ROCK☆の雄叫びのような激励も画面のこちら側には静かに響く。

この日のECDのアクトはDJ。それはそれで彼の体温や思想を感じられるものだったけれど、やはりライブは見られないのかなと少しさびしく思う。

最後に2015年のライブが再放送され、まだ太い首のECDがラップをする姿が映されて、そのくらいつくような声に少し泣きそうになる。そして、なぜか少し元気になる。

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21世紀のECD

21世紀のECD

 

 

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9月6日

タワーレコードビブレ横浜店でサイプレス上野とロベルト吉野メジャーデビューミニアルバム「大海賊」のリリースイベント。一足先にストリーミングで聴いたけど、「なるほど、ゴージャス」というのと「環境変わってもイズムは変わらないな」というのがおおまかな感想。アーティストがちゃんとプロダクトをハンドリングしていて、一時期どっと増えていたアイドルのメジャーデビューとは違うな。ちゃんとした感想は後日書くかも。

リリイベもスタッフが多く、普段はマネージャー一人、スタッフ一人みたいな地下アイドル現場にいるのでメジャー感にちょっとビビる。

8月23日にバイク事故で鎖骨を折り、前日はFMYOKOHAMAに出っぱなしのサイプレス上野がパッと見でわかるくらい疲れていてちょっと心配になった。反対にロベルト吉野は元気で、いつもより饒舌なくらいだった。

セトリは

ぶっかませ

メリゴ feat.SKY-HI

Walk This Way(アセ・ツラ・キツイスメル)

「ここに上野ってやつがいるってことを証明してくれ」というMCからの上サイン

WHAT'S GOOD

タワ横のスピーカーは相変わらず音がよくて、ストリーミングで聴くよりクラブミュージックとしての魅力がよく伝わる。メリゴ、生バンドのディスコっぽい曲調に、WONDER WHEELのリリックを引用したSKY-HIの甘い声のサビがロマンティックな、いわゆる踊れる曲。でも、上サインやWalk This Way(アセ・ツラ・キツイスメル)の方が「来た!」って感じがするな。

新曲はどれも手を振ったり、無理やり上サインさせたり、客を巻き込むリアクションが用意されている。

帰宅してからメリゴのMVを見る。

一見かわいい人形劇なのに嘔吐するシーンがあって、ゲロの処理の仕方にちょっと出崎統のアニメを感じた。あしたのジョーには矢吹丈が嘔吐する場面があるのだけど、そこで出崎統はリアルなゲロを吐かせず、光をあてて嫌悪感をもよおさないような演出をほどこしている。こんなところでつながるマイフェイバリット。

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メリゴ feat. SKY-HI

メリゴ feat. SKY-HI

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9月7日

寿町の水族館劇場「盜賊たちのるなぱあく」にて映像制作集団・空族の「FURUSATO2009」を観た。

水族館劇場についても、寿町についても、「FURUSATO2009」についても少し説明が必要だろう。

水族館劇場は巨大なセットを設置した野外劇を上演している劇団で、今回も寿町に小さな駅くらいの大きさの、朽ちた城のような巨大な劇場を建てていた。

寿町は東京の山谷、大阪のあいりん地区に並ぶ寄席場の1つで、大量の簡易宿泊所ではかつての港湾労働者や日雇い労働者が生活している。

「FURUSATO2009」は、「サウダーヂ」制作中の空族が、甲府周辺の町を取材した映像を編集したドキュメンタリーだ。そこには「サウダーヂ」同様、衰退する地方都市の一面が記録されている。

行き場のない、かつての労働者達の生活する町に建てられた、人口の廃墟の中で観る、閉塞感漂う町の映像。

これを「よいロケーション」と言っていいのか、どうか。

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開始時間は19時。会場を探すのに手間取ったこともあり、上映はもう残りの20分くらいの時間に到着した。

中に入ると、投げ銭制なこともあってか、けっこうな人数、日頃から寿町で生活しているであろう人が座っていた。社会派サブカルが観に来ることしかイメージしていなかったので、自分の見識の狭さにちょっと恥ずかしくなる。

地方都市の貧しさや立場の弱い人間の行き場のなさが続く映像を、まさに追いやられた人々が観ている。こんな寂しい映像より、スカッとする劇映画の方を観たいんじゃないだろうか。いや、そういう忖度はよけいなお世話か。

上映後のトークでは、サウダーヂの脚本を担当した相澤虎之助に、主催の桃山邑が話を聞く。

相澤は寿町でカンパのために毎年開催されているフリーコンサートに何度か来ていたという。自身も地方出身者であり、河原者という言葉を思い出させるような風袋の桃山は空族に共感するところがあったらしく、細かな質問を投げかけ、時に自身も饒舌に語っていた。

印象的だったのは、桃山の「栃木の農家がふるさとだったけれど、田舎には帰れなくなってしまった」という話。「帰れない」にはさまざまな要素が含まれるのだろうけれど、ふるさとがかつて歌われたような「帰る場所」でなくなってしまった話は、社会が喪失したさまざまなものを連想させる。

「フランスの戦後復興を担ったのは移民。しかし、彼らは郊外という檻の中に閉じ込められて、出世もできず、ジハードに向かってしまう。みなさん建築労働を一生懸命やってきたのに、ケガしても国家は助けてくれない。ぼくも最終的にケガしたら終わり。そういう人たちのコミュニティというか、溜まり場がバラバラにされている」というインテリゲンチャ桃山に、「甲府もそういうおっちゃんが溜まるところがほんとになくなっちゃって、酒呑んで遊べる場所がない」と素朴な言葉で答える相澤。

「空族の作品は世の中のどうしようもないものにきちっとカメラを向ける。でも、重くなりすぎない。観ててちょっと救われる」という桃山に、「けなしあったりしつつ、ちゃんとコミュニケーションを取る時間が大切なんじゃないか」と相澤が答えると、おそらく町の住民であろう、ボロボロのハンカチをリボンのように結んだ壮年の女性が「えっ?じゃあ、どうして、昨日の映画は殺しちゃうじゃないですか」と叫んだ。

前日に上映されていた「サウダーヂ」では、地元に住むラッパーがブラジル移民を刺し殺してしまう場面があるのだ。

相澤は「本当はお互いがわかり合うのが大切だと思っているけど、映画としてそういうところも描いている」と答え、桃山は「まあ、現実はそうなんですよね。そういうところをちゃんと描ける集団だと思った」と言葉を続けた。

女性は納得した風ではなかったけれど、その後何事もなくトークは進み、最後に相澤の友人だという山梨の弾き語りのシンガーが3曲ほど、これまた寂しい日常を描いた歌を歌ってくれ、イベントは終了した。

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なんだか妙な無力感を抱えてしまい、まるで1980年代のような寿町の街並みを観ながら家路についた。

追記:FURUSATO2009にも田我流が登場する。最初のカットでは、かなりの時間後ろ姿しか映らないのだけど、頭の形で田我流とわかるのと、相澤さんがこの日、彼のことを「若い子」と呼んでたのが少しおかしかった。たぶん、相澤さんは田我流が「若い子」だった頃から知っているんだろうな。

桃山さんが借景として寿町を使っているのではなく、ある種の共感を持ってこの場所に劇場を作っていることがわかったのもよかった。

 

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