ホンのつまみぐい

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友人で、仲間で、先輩後輩で、師匠弟子で。17歳差の二人の集大成/サ上と中江ワンマンライブ「支配からの卒業」@代官山LOOP

 ラッパー・サイプレス上野東京女子流の中江友梨、17歳差・音楽家だけどジャンルは別々・おじさんと女子高生(開始当時)という不思議なコンビの3年間の集大成ライブ。

 支配からの卒業は中江ちゃんがつけたタイトルらしいけど、深い意味はないそうだ。

 もともとスペースシャワーネットワークの単独企画「サ上と中江の青春日記」内ユニットだった「サ上と中江」。でも、3年で楽曲を制作して、中江ちゃんは自分でリリックを書くようになって、ミニアルバムを出して、イベントにも「サ上と中江」で呼ばれるようになって、2.5Dの企画として「マイメン100人できるかな?」が始まって……。

 最後のフルアルバムについた「ここらでいったん一区切り」というふれこみがちょっと切ない最初で最後のワンマンライブ。会場は代官山LOOP。

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 着いたのが19時40分頃、まだ始まっていなくてほっとして、荷物を下ろしたくらいのタイミングで「よっしゃっしゃす!」からスタート。

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 後ろにVJが広がり、今は亡き2.5Dを思い出させる雰囲気。第1印象は、「中江ちゃんラップ巧くなった! 」。銀色のジャケットにボロボロのジーンズ、プラスチックチェーンをネックレスにするコーデがキュート。上野さんは赤と青のジャケットにエクソシストTシャツで今日もファンシーおじさん。

 マイメンでは庄司芽生ちゃんがダンスで参加。ダンスパートで芽生ちゃんと顔を見合わせる上野さんがかわいかった。芽生ちゃんもポニーテールに白Tシャツというスポーティーな服装。「マイメン100人できるかな?」に参加してくれたゲストの写真もVJに投影。

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 MC中、突然バックDJのBAET武士さんに話を振る中江ちゃん。

「タケちゃんはサ上と中江の現場で鍛えられたでしょ?普通DJの人こんな風に話しかけられることないもんね?」

 押しまくる中江ちゃんに対して、「この人フジロック出てますからね?」と苦笑する上野さん。

「いや〜〜、そんな人に私ヤバくない?」

「無礼だよ……」

 からの売命行為。これは現場で聴くと本当にリリックがラッパーとアイドルにぴったり。

命を売るで売命行為
でも面白くなきゃなそのストーリー
骨は拾ってくれよホーミー

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 My Home Townでは元LinQで、今はソロで音楽活動を続けている深瀬智聖ちゃんが参加。この智聖ちゃんのラップがかっこよかった! 智聖ちゃんはもともとヒップホップ好きで有名で、DJとしてB-BOY-PARKに出演したこともあるけれど、ラップを人前で披露したことはあまりないはず。それなのに歯切れのいいラップが弾丸みたいで気持ちよい。

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 そして「最後までいたかったけれど、福岡で朝の3時からライブするので、最終の飛行機で戻らないと」というハードな話を披露。

 ここでの彼女の登場、なんだか意外なほどうれしかった。2013年からアイドルを見ているけれど、卒業したり、環境が変わったりすることで活動を続けられなくなる子が多い中、卒業後もソロで活動を続けて、しっかりとしたパフォーマンスを見せてくれる子がいるというのは希望に見える。
日本語ラップ大好きすぎて出来ませんってずっと言ってたんだけど、ふたりにそそのかされて。ひとつ突破出来ました!」と言って退場。

 MCで「CD買った人、中江ヤサに行くDVD見た?」という質問。CDを買った人に手を挙げてもらうことになったけど、リリイベがなく、この日が最後の特典会のためかけっこう少な目。「いや~リアルな数、出てくるね」というふたり。でも、「買ったよって嘘付かれるより、気まずそうな顔見てる方が面白いよね」という中江ちゃん。「My Home Town」が方言でのリリックのせいか、途中でちょっと大阪弁が出る。
 そして、再び武士さんに話を振る中江ちゃん。

「タケちゃん楽しんでる?自分だけ置いて行かれてると思ってない?タケちゃん、ここでやり残しちゃダメだよ?! 今しかないよ!」

「いや、でもこの人恥ずかしがりやなんですよ」という上野さん。

「ほんといつまでたってもあなたってシャイボーイよね?今日はタケちゃんにこの歌を捧げます! タケちゃん7割、みんな3割で!」からの TOO SHY BOY。

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 VJに映るMVの映像は、まだ距離を図りかねている3年前、学ラン×制服でふたりで遊園地デートをする様子。思わず「若い」を連発する中江ちゃん。
 お次のWE GOTTO GOでVJが夜の鉄筋を撮ったような少し暗い映像に。

大人はずるい 子供はダメでなんで大人はいいの?

なんでいっつも余裕なの それって子供に絶対わからない魔法?

知らないことをたくさん知ってる 私には出来てない経験

 から始まるリリックは一見すると子供っぽいのだけど、入りのピアノの音のメロウな雰囲気と合わせて不思議な説得力を持って響いていた。彼女の実感なんだろう。

道を進めば大人になれる? 思い描いていた大人になれる?

 サ上と中江の曲は基本的にふたりが順番に歌う作りになっているのだけど、個人的にはこれとSO.RE.NAが最もその構成の魅力が出ていると感じた。
 MCでは「いや~でも私これ最近ずっと考えてるんだよ。いつから大人になるんだろうねー」
 ここで登場する謎の箱。事前にアスタライトから集めたという質問を引くコーナー。
 印象的だった場面だけ。

 「次は誰とユニットを組みたいですか?」という問いに対して「私はうえちょと組みたい」と即答する中江ちゃん。「オジロー!」「めいちゃん!」というガヤが入ったのち、ちょっと間があってから中江ちゃんを指す上野さん。
 「もちろん続くでしょ?」という問いに対し「今日もタケちゃんが『続くでしょ?』って言ってて。いや~~、私怖くて聞いてないんだよねって言ったら、『でも続くでしょ』って。タケちゃんかっこいい」という中江ちゃん。
 「今日のパンツの色を教えてください」から、とりあえず武士さんに聞いて(グレーだったかな)、上野さんに聞いて(赤と青のシマだったような)、結局最終的に中江ちゃんも暴露する羽目に。

 「え~~大丈夫かな~~」と言いながら、わざわざ確認を取りに行く。
 上野さんの「はい、佐竹(プロデューサー)オーケー出ました〜〜」からの「今日は~あ、白?」

 「こんなにたくさんの人の前でパンツの色いうと思わなかった~~」。そりゃそうだ。

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 そんなトンデモなMCからのSO.RE.NA!

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 そして上野さんから中江ちゃんに課した最後の宿題として中江ちゃんフリースタイルに挑戦!

 上野さんの前ふりから中江ちゃんのラップ

サ上と中江と東京女子寮どっちも大事な居場所
終わるとかマジわかんねえ!
こんなんでいいですかね

 という感じの韻は踏んでいないけれどちゃんとビートに乗ったラップ。

 緊張感から解放されて「8時43分新しい中江が生まれましたね」という中江ちゃん。

 そこから中江ちゃんのリアル高校卒業に合わせて作られたさいごの宿題。

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 終わったところで、ふっと暗転して中江ちゃんが袖にはける。
 いきなり「はっ、ここはどこだ?」。「武士?なんでDJやってるんだ?今何年?」「2013年」「あれ、そうか。吉野が活動休止して……」

 ……? それは2014年では? 一瞬、「企画が決まったのが2013年だったのかな」と思って帰宅してから確認したけれど、番組開始が2014年10月末。「3年の活動の集大成」だから2013年だと思ったのかな。2014~2015~2016の3年間だよ……。

「なんだろう……。俺、学ラン着たり、おぼこい女の子と一緒に曲作ったり、修羅の道を歩んでいたような気がする……。なかえーーー!!!」という叫びに呼び出されて飛び出す中江ちゃん。

 そして、to be continued。

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 歌サビ以外はほぼ上野さんのリリックと思われるこの歌。ちょっと泣きそうな上野さん。改めて聞くと、中江ちゃんへのエールの曲なんだね。

背の高さ違うから見ている景色 違っても気持ちは同じ

先のことはわからないからこそ 大事な記憶いつかの宝物

 MCでは「なかえーーー!じゃないよ!」とか「私とうえちょで世界を取ろう!」にするつもりだったけど、これはスッと入ったほうがいいと思ったという話。

 そして、「うえちょ潤んでたでしょ」と自分でふって、つい「潤んでないけど、ちょっと寂しいかも……」と言って泣き出す中江ちゃん。
 「終わるまで泣かないでいようと思ったのに~~。さっきの曲の時も我慢してたし……」
 「だからずっとニヤニヤしてたの? おれ、新曲だから間違えろ~~とか思ってんのかと思った。思惑通り、飛ばしましたよ」とちょっとうれしそうに言う上野さん。
 「別に終わりとか思ってないし」と言って泣く中江ちゃん。

 「いや、でもまたやれるよ。エイベックストラ~クス!」という上野さんを「勝手なこと言うと上の人に怒られちゃうから」としかる。

 最後のSO.RE.NAに合わせて中江ちゃんが「ヤバい、今日楽しい!」と笑う。

 最後はふたりでまじめなあいさつ。

 「ワンマンなんかできると思ってなかった」「私終わりって言葉嫌いだし、怒られちゃうかもしれないけど、また続けたい」という中江ちゃん。
 「最初は企画ありきで始まったけど、ラッパーを自分でリリック書かなきゃダメだよって言って、書けないって言って電話が来て終電逃したり」「最初のみんなの敵を見る目!」「チェキでプロレス技かけてくださいと言われたり」と思い出話をしてから「期待させるとあれだけど、可能性を信じてるんで」と締める上野さん。

 明るくて楽しくてちょっと寂しいライブ終了。

 あー、楽しかった。から、残念。
 女の子のラップ、アイドルのラップをたぶんそこそこは見ているけれど、女性のラッパーはだいたいダウナーか強そうかのどっちかで、アイドルアップはおっさんの作った世界観を表現するタイプのグループがほとんど。

 もちろん、そういったラップも大好きなのだけど、サ上と中江はアイドルラップと呼ぶには自由で、ヒップホップという呼ぶには自己主張が激しくなくて、とにかく「気のいいおじさんとおませな女の子」が楽しそうに、でも大切そうにステージの上でラップしているのを見守るグループだった。

 普段はグループの一員としてしっかりと丁寧に歌い踊る中江友梨と、1MCとして客にストレートに向き合うサイプレス上野

 サ上と中江はふたりにとって番外編的なユニットだったと思うけれど、だからこそお互いの掛け合いをゆるく楽しみながら動き回る姿はちょっとほかのユニットには出せない明るさと開放感があったと思う。少し肩を落として体を揺らす中江ちゃんと、彼女の奔放なMCに翻弄されながら笑う上野さん。私はサ上とロ吉のワンマンとこの日しか、生では見ていないけれどね。

 そして、何より年齢も性別も音楽性も違うふたりが活動の中で友情を育んでいく姿が美しかった。友人で、仲間で、先輩後輩で、師匠弟子で。

 17歳も年下の女の子を侮らず、きちんと人間として尊重して作品と場を作っていった上野さんも、立場も考え方も違う大人と組んで、ちゃんと自分の意見をぶつけていった中江ちゃんも本当に素晴らしいと思う。

 活動休止という印が押されたのは大人の都合なんだろうけれど、きっとお互いがいくつになっても、待っていてくれる人がいると思うので、いつかしれっと再開してくれるのをのんびり待とうと思う。

夢見心地(DVD付)

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夢見心地

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※2013年はLOOPでNegiccoと対バンしてた年では?と思った。LOOPを知ったのがNegiccoの自主企画だったので何となく印象深い。まだ祭り湯でイベントやってましたなあ。

※上野さんのエーベックストラ~ックスで「そういえば、avexのアイドルと別ジャンルのアーティストのコラボあったな……。BiS階段……」と思った。でも、あれも女の子を開放するユニットだった。ノイズとヒップホップは演者の輪郭をはっきり浮き立たせるところがちょっと似てるかも。

※「こういう開放感のユニット意外とないんだよな~~。あ、ちょっと違うけどEチケライムベリー……。そういえば、サ上と中江はじめて意識したのはライムベリー事変の時に思わず2ちゃんを見て、『ライムベリーとリリスクは音楽性が違う。どちらかというとサ上と中江が近い』って書いてあったのを読んだのが最初だった」ということを思い出した。

※サ上と中江の人としての距離感は本当に憧れで、いろんな意味で自分の人としての不甲斐なさを自覚させられるので、ちょっと観ててつらいこともありました。これは個人的な話。

※チケットを譲ってくださったアスタライトのMさんとの「中江ちゃんかわいかったですね。アイドルラップ好きなんですよ」「東京女子流は?」「あ……MV観るくらいですね。でもアイドル全般いろいろ見る感じです。あ、アイドルじゃないんですよね」「いや、それはいいんですが。特典会行きますか?」「いや……。ちょっと金欠なので」と会話の流れ我ながらひどかった……。ありがとうございました、すみませんでした。

インタビュー:年齢差を超えても友達だって思える――サイプレス上野 + 中江友梨(東京女子流) = サ上と中江『ビールとジュース』 - CDJournal CDJ PUSH

インタビュー:最初で最後のワンマン・ライヴ〈支配からの卒業〉直前 サ上と中江、1stフルアルバム『夢見心地』を語る - CDJournal CDJ PUSH

インタビュー:日本語ラップ対談「サ上とロ吉と深瀬さん Back Again」サイプレス上野とロベルト吉野×深瀬智聖(LinQ) - CDJournal CDJ PUSH

 

 サ上と中江対談入り。この本でしか話していないエピソードもあります。このブログでの感想はこちら。

2014年の地下アイドル現場の記録「ゼロからでも始められるアイドル運営」「サイプレス上野とロベルト吉野のアイドル ライヴオン ダイレクト」 - ホンのつまみぐい