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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

夢ではなく予定のために生き延びる「証言~川崎を生きる~」@川崎市ふれあい館文化交流室/BADHOPのHOODで

 川崎市横浜市のお隣さんだ。だから、多数の運動施設を備え、育ちのよさそうな子供がのんびり遊ぶ等々力緑地も、お世辞にもきれいとは言えない川崎駅東口の商店街・銀柳街も、ニュータウンを絵に描いたようさっぱりした光景の川崎駅西口の大型商業施設・ラゾーナ川崎も、岡本太郎美術館藤子・F・不二雄ミュージアムに近い向ヶ丘遊園駅も、すべて横浜市民の私にとって隣町の光景だ。


 しかし、磯部涼さんがサイゾーに連載しているノンフィクション「川崎」に書かれている川崎での出来事は、ほぼすべて「隣町」のこととは思えない。

磯部涼の「川崎」 | サイゾーpremium

 抗争の末バーナーで顔を焼かれて殺された先輩、ドラッグをやって駐車場で倒れこむ中学生、中学生に数十万のカンパを要求する暴力団……。


 だから、川崎に住む様々な立場の人々に話を聞く学習会「証言~川崎を生きる~」(登壇者:磯部涼さん・ 長島純一さん・ペロンチョさん・鈴木健さん)に参加したのは、ヒップホップの話を聞きにいくというより、隣の市で起こっていることを知っておきたいという気持ちによるものが大きかった。


 磯部さんの登壇は4回の学習会のうち3回目、会場は桜本の川崎市ふれあい館文化交流室。「川崎」の読者なら、この場所がたびたび子供たちの避難所として登場することをご存じだろう。

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 会場に着いたのは19時30分と講演も30分ほど過ぎたころで、30席ほどのパイプ椅子が用意された小さな部屋は、やはり音楽の話を聞きに来たというより、地元の町の出来事として話を聞きに来ていた人のほうが多かったと思う。


 スクリーンには「川崎」の雑誌掲載時の色校が映されており、サイゾーで書かれていたことが、磯部さんによってさらに具体的に語られていた。



「ラップを通じて自分たちの住む場所を誇りに思うことが出来る。一方でオーセンティシティを内面化することで、『悪い事をしないとラッパーじゃない!ドラックについて歌わなくてはいけない!』という倒錯に引きずられていく」


「川崎の中学校ではお昼の放送にBADHOPがかかることも。市民公園のようなところでニッカボッカをはいた若者がラップをやっていたり、桜本公園でiPhoneで練習していたりする。ここまでラップが根付いている土地はない」


「BADHOPの子たちは2~3年で川崎の中にもうひとつの世界を作り出している。ヤクザになるか、職人になるかしかないところに、第3の道を作ろうとしている。ラップを通じて無意識にコミュニティを立て直そうとしているのではないか」


「桜本は非常にコミュニティの結びつきが強いけれど、その反面しがらみも強い。BADHOPも上の世代の不良から否定されることも。けれど、ヒップホップ的には地元から出るとオーセンシティを失ってしまう」

www.youtube.com

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 連載をベースにした話が一通り終わり、二人の登壇者を迎えて再び話が始まる。登壇者は長島さんとペロンチョさん。「川崎」の連載にも登場するヘイトデモの対抗組織「C.R.A.C川崎」の活動家だ。



 川崎出身だが、狭い世界にとどまるのが嫌だという理由で一度川崎を出た長島さん。仕事を探して転々とし、川崎に流れ着いたというペロンチョさん。パンクミュージックを通して知り合ったというふたりがヘイトデモの参加者になるまでの話は、当然「川崎」にも詳しく書かれているので、詳細ははぶく。

【磯部涼/川崎】“流れ者”の街で交差する絶望と希望|サイゾーpremium

 

 なぜヘイトデモの反対運動に参加したのかと問われ、「人種差別はそりゃダメでしょ」というペロンチョさん。そして、「アンチヘイトはパンクの教養だから」という長島さん。


  ペロンチョさんは川崎に居着いた頃は「川崎なんてぶっ潰してる!」と口癖のように言っていたという。そんな彼が、居酒屋で働いていた頃に、よく店を利用しているフィリピン人の女の子と仲良くなる。しかし、彼女たちと交流を持ち始めたある日、居酒屋の仲の良い同僚が、カジュアルに「またフィリピン人かよ」と口にするのを聞く。たしかに、自分も当初はフィリピンの女の子たちの騒がしさに辟易していたけれど……。ヘイトデモの前から、この街は差別が起きやすい環境なんじゃないか?と思ったそうだ。


 そして、「友人に『音楽やってるからには人種差別はノーと言おうよ』と話したんだけど、反応がなかった。変な宗教にはまってしまったみたいな目で見られましたね。今までの友達はゼロになった」というペロンチョさん。


 長島さんも「最初は地元川崎からはぶかれ、パンクコミュニティからもはぶかれ。今たまたまはぶかれてない感じかな」という。


 一方で、川崎に好きな人がたくさん出来たという話が、この日は何度も繰り返された。


 「お二人とも祭りに関わっていますね」という磯部さんの質問に、「それはだますためですね!リベラルの人たちを引きずり込むための詐欺です。祭りの手伝いでモチついてたらヘイトスピーチに反対してくれるんじゃないかと思って。『おう、C.R.A.Cはよく働くのう』って。でも、毎週呑んでるうちに取り込まれちゃって……。頼りになる人生の先輩みたいな」というペロンチョさん。

 子供たちのためにふれあい館にターンテーブルを寄付したという長島さん。「12月17日に新大久保でやるイベント(※Rage Against Fascism)、子供たち無料にして連れてこよう」と話していた。

 ふたりは、「そもそも川崎にはすでに市民運動の根があり、ぼくらチンピラは、昔からいるリベラルに頭を下げに行っただけ」という。


 そして、「俺たちがワーッと叫んでるだけじゃダメじゃないかと思っていたところにふれあい館があった」という長島さん。


 そのふれあい館の職員であり、在日コリアンやフィリピンにルーツを持つ人たちが参加する手作りの音楽フェス「桜本フェス」の主催者であり、今回の勉強会の企画者の鈴木健さんが話に加わる。(※すみません、当初館長と書いていましたが鈴木さんは館長ではないそうです)



 「ぼくはふれあい館4年目の新人なんですが」と言いながら登場。とはいえ、桜本とのつきあいは20年近いという。


 桜本フェスは、フィリピンをツールとする子供たちとの、つきあいから生まれた祭りだ。かつてのふれあい館の館長さんが、孤立しがちな子供たちを受け入れ、子供たちがふれあい館でラップやダンスをするようになった。そこで「いつかブロックパーティーをやりたいね」と約束したことが開催の根底にあるという。

歌通じ居場所を 川崎「桜本フェス」|カナロコ|神奈川新聞ニュース


 「川崎」の中で鈴木さんはこのフェスの意義をこう語っている。

この1年で彼ら彼女らを取り巻く環境が変わったかっていうと、はっきり言って変わってませんよ。ただ、生活が苦しいと、『オレはこれだからダメなんだ』と不幸な記憶が積み重なって、身動きが取れなくなっちゃうんですね。それに対して、『でも、あの日は愉しかったよな』ってフェスのことを思い出し、『また良いことがあるかもしれない。もう少し頑張ろう』と考え直してくれたら。そういう、小さくてもいいから、拠り所となる幸せな記憶をつくっていくこと。それって、『勝てないかもしれないけれど、負けないための生き方』なんじゃないか。これは、僕の一方的な、祈りに近いような想いですけど


 現場で日々子供たちと向き合っている鈴木さんは、川崎の子供たちの今の話をたくさんしてくれた。


「何年か前、中学生を連れてドライブに行ったんです。工業地帯に入ると、みんな窓から入る空気をかいで一斉に『あ、川崎のにおいだ。俺たちの町のにおいだ』と言ったんですよ。皮膚感覚として、ここが自分たちの町という感覚があるんですね」


「貧困の中にいる子が自分たちのコミュニティの中にいる仲間を守ろうとケンカして孤立してしまう」


「川崎の子は川崎から出ないんです。ある子が電車で桜木町まで行ったけど、怖くて帰ってきちゃった。定時制高校の中に居場所を作ろうとするけれど、いろいろな子が集まるカフェに、桜本の子は混ざれなくて、帰ってきちゃったりする」(桜木町は川崎から10数分、みなとみらい直近の大型駅)


 川崎の子は川崎から出ないという話を呼び水に、登壇者が口々にそれぞれの経験を口にする。


「子供たちのレペゼンする範囲がすごく小さいですよね。川崎じゃなくて、桜本とか浜町とか。町単位」という磯部さんに「中学生の感覚と変わらないのかも」と答える長島さん。


 そして、「リン高最高!みたいな感覚が大人になっても続いている感じですね。でも、おれも川崎来てからあまり外に出なくなった。なんか壁があるんですかね?」と話すペロンチョさん。


 磯部さんが「地元を大切にすることは大事だけど、外に出ていくことも大事なのかもしれません。FUNIくんは高校進学で、川崎北部の学校に進学して、桜本を含む南部は特殊なところだと思ったそう。みんな部活や大学の話をしているから。桜本では卒業してどう生活していくかの話ばかり」とつなぐ。

【磯部涼/川崎】在日コリアンラッパーが夢見る川崎の未来|サイゾーpremium

 それを受けて「どっちがいいのかわからないことの連続です。ふるさとのコミュニティから離れて生きていくか。大事にして生きていくか……」という鈴木さん。


 そこで、磯部さんが「ちょっと違う例」としてスケートボード周辺の話を紹介する。


 磯部さんが取材した川崎・堀之内のスケボー&アパレルショップ「GOLDFISH」にはさまざまな地域の人たちが集まるそうだ。今スケートボードは流行っていないので、結果として様々なところから人が集まってくるらしいが、そこに日系ブラジル人の子も遊びに来るという。


「言葉が通じなくても、すごいプレイをすると盛り上がるし、ブラジルのスケーターの動画を見せて話をしたりもする。趣味があるっていいことだなって」

【磯部涼/川崎】スケボーが創り出すもうひとつの川崎|サイゾーpremium



「祭りというのは受け入れや交流の場として機能するのでしょうか」と磯部さんが聞く。


 川崎の連載には、桜本フェス以外に音楽を通じて人々が交流するイベントが紹介されている。川崎臨海部の工場の屋上で開催されていた「レイヴ・パーティ〈DK SOUND〉、元住吉のバーでのパーティー「NUESTRO TERRITORIO」。音楽のことを書くつもりで取材していたわけではないのに、自然と音楽の話につながることが多かったという。

【磯部涼/川崎】不況の街のレイヴ・パーティ|サイゾーpremium

【磯部涼/川崎】川崎の不良が歌うストリートの世界|サイゾーpremium


「ぼくらが祭りをきっかけに入り込んだので。でも、簡単じゃないです」というペロンチョさんと、「きっかけは作れると思うんだけど」という長島さん。


そして、「桜本フェスでは、普段は同じ空間にいることすら知らない人たちが集まってきます。でも、ふるさと意識の反対でよそ者に対して警戒心が強かったりする。一方で日本人と遊んだことのないフィリピン人の子が来ても、途中で帰ってしまったり……。そこからもう少し先に行けるか。チャレンジし続けるしかない」と答える鈴木さん。



「ぼくが鈴木さんにうかがった言葉でとても印象的なのは、桜本の子たちにはあきらめさせることが重要という言葉で……」という磯部さんに答える鈴木さんの話はとても重かった。


「何かにとらわれている子をずっと相手にしているんですね。幸せがほしかった、ちゃんとした家族がいない、どうして普通になれないんだ……。そういう幻想やとらわれに縛られている。生きていることをあきらめろとは言わないけれど、そういうとらわれをあきらめさせなくてはいけない」


「若者支援なんていうけれど、優秀な人材になれなくても何とか生きていこうと思えるようになる感覚かな」


「でもね、バイトのお金は家に入れて、遊ぶ場所をラップで作ったりしている。自分たちは小学生のおこづかいより少ないお金しか使わないで。立派なものだと思います」(これに、「ラップはお金かからないですからね」と相槌を打つ磯部さん)


「ぼくは『あなたの夢は何ですか』とは言わない。夢を持てと言っても、かなえられる保証もないのに。だから、『あなたのご予定は』って聞くんです。とりあえずその頃までは何とかやっていくという」


 淡々と話す鈴木さん。


 そして、「それが桜本フェスだったりね。大人も一緒だね。とりあえず年末に大久保でDJイベントやるとか」という長島さんに、「ラップの代わりにモチついてるだけだね。ここに骨を埋めるつもりとかなかったけれど、とりあえず祭りの予定が入ってるからここにいる。70~80歳までモチをついてたら、その頃には『ここにいてよかった』となるかもしれないけれど」というペロンチョさん。


 磯部さんが「じゃあ、次のモチつきまで皆さん生き延びてくださいということで」と締め、短い質疑をはさんで、勉強会は終了した。


 一通り聞き終えて、これを自分はどう受け止めていいくべきかをぼんやり考えた。


 勉強会途中、磯部さんは「ダークツーリスト・スラムツーリストは興味深く観察して去っていく」という話をし、フランスのヒップホップ映画「憎しみ」の話をしている。


 その映画にはゲットーに住む青年が、押しかける第3者に対し、「ここは動物園じゃないんだぞ!」と叫ぶ場面があるという。


 さて、この話を聞き終えた自分がツーリストでないと、動物園の客でないとどうして言えるのか。今ここでこうして書いていることを、ただの旅行記と隔てるものはあるのか。


 磯部さんももともと、もう少し客観的な目線で取材していくつもりだったが「今は、ただ見物するのではなく、どうやって自分の延長線上の問題としてとらえるか。どうやって関わっていくかを考えている」という。


 延長線上ということであれば、「夢ではなく予定のために生き延びる」というのは今の日本人の多くが無自覚に抱えている諦観といえる。その諦観を仲間意識として、隣町の話として「川崎」のことを、これからも考え続けなくてはいけないのだろう。

 

 さて、ここで最後にひとつの音楽を紹介したい。「川崎」の連載に登場したFUNIさんが発表した音源MEWTANT HOMOSAPIENCE」だ。在日コリアンであり、桜本で育ったラッパーのFUNIさんは、「川崎」の中でこの音源について下記のように語っている。

最近、INHAと連絡がついて、頓挫したアルバムを完成させたんです。MEWTANT HOMOSAPIENCEっていうのは、ミュータント・タートルズみたいに川崎の光化学スモッグを吸いすぎて進化しちゃった人間、って意味なんですね。川崎は日本の未来の姿だと思うんですよ。それは、東京が2020年に向けて目標として掲げるダイバーシティの課題でもある。だからこそ、オレも侮れない大人になって、キング牧師やマルコム・Xのように、未来を生きる子どもたちにオープンソースとして使ってもらえたらと

 前向きな「未来の川崎」の話。どこかSF的な広がりを感じる音作りが染みるこのアルバムがネットを通して多くの人のもとに流れ着いてくれることを願う。

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Mewtant Homosapience 「KAWASAKI」フリーダウンロード freedom | MEWTANT HOMOSAPIENCE

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プロテスト・ソング・クロニクル~反原発から反差別まで

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