そこそこいろいろな現代美術の現場を見た結果として「現代美術は美術オタクのオナニーで、社会と全然接続してないんだよ」という失望から逃れられなくなっていたけど、そういう後ろ向きな気持ちを吹き飛ばしてくれた展示。以下、作家別に感想。
関川航平
鉛筆で描かれたという陰影のない画風が、物語性を排していてよい。光の当て方というのが、いかに表現に表情を与えているのかがよくわかる。素材の選び方も面白い。
風間サチコ
顔のない少女が思い切り足を蹴り上げる「獲物は狩人になる夢を見る」は、おそらく「嫌がらせのため靴に画鋲をいられた少女がそれを跳ね飛ばそうとする」様子なのだろう。古い児童文学の装画のような版画の中で描かれる、殺意を含んだ重量感が最高。暴力装置としての学校を描いたシリーズだとか。広まる力のある絵だと思う。
NPOの職員が、野っ原に住む言語の通じない青年を支援しようとするが、青年は彼なりに野原の中で自立した生活しており、むしろ職員がもてなされる立場に。そして、職員は青年からカラダアヤトリという失われた遊びがあると聞く。
カラダアヤトリは大きな縄を使い、自分たちの身体を通してあやとりを完成させる遊び。勝ち負けのないコミュニケーション。
金川晋吾
失踪を繰り返す父の姿を撮影し続けているという金川晋吾の新作。撮影対象はそれまで行方知れずだったという伯母の静江さん。
「あ、今日はこの人他人に見えるな」「今は親しげに見えるな」という微妙な距離感や感情がカメラの中に収められている。動物を観察するような目線と親愛を感じる目線が入り混じる写真群。
鈴木光
映像作品。
どこかアジアの反物工場の様子を撮影し、その労働の過酷さを記録した作品と、ベルリンの少女に対し、彼女が描いた物語について聞く映像と福島の日常を撮影した映像をオーバーラップさせる作品。
牧歌的なイメージの布作りが、パチンコのようなハードな音の中で作られている姿が衝撃的だった。
ただ、どちらも無関係な他者が人のつらさに介入している感じがしてしまった。
無料のパンフレットもついた満足度の高い展示。この施設では今度Mother Terecoが小林大吾、Dustin Wongが対バンするらしく、施設全体がヤバいことになっている雰囲気。
残念ながら「悪い予感のかけらもないさ展」は終わってしまったけど、今後もチェックしたい。