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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

トラウマ社会派アニメ「タイガーマスク」を原口正宏が語り倒した!「TVアニメ50年史を語る 『スポ根アニメ』黄金期」

 去年のイベントのメモ。塩漬けになっていたのですが、新たにアニメが公開されるということで清書して更新します。


 原口正宏アニメ講義vol.9 TVアニメ50年史を語る 『スポ根アニメ』黄金期。


 タイトルに反してタイガーマスクの話が8割でしたが、面白かった。伝えること、物語ることの意味を信じることが出来た時間でした。


 登壇者はライターの原口正宏さんとアニメ様ことアニメスタイル編集長小黒祐一郎さん。(もうお一方いらしたのですが、遅れて入ったためわからず……)

 スポ根アニメ勃興期、特撮ブームの煽りを受け、下り坂になっていく当時のアニメ業界の話から始まりました。崖から落ちそうなアニメ業界を救ったのがスポ根もので、これ以降アニメは徐々にファンタジックなものから現実的なものへ変化していったとか。

 「特撮ブームがもっと続いていたら、アニメはどん底になっていたかもしれない」というお話が印象的でした。

■劇画スポコンブームは巨人の星から

 巨人の星は“魔球”が登場する世界ですが、現実の日本を舞台にし、川上哲治長嶋茂雄のような実在の人物が登場。川上の戦時中のエピソードも描かれます。そこで描かれたのは人々が「今そこで生きている時代の喜びや苦しみで」あり、「努力すれば登り詰めることができる」という世相の反映された世界。


「人生のすべてを野球に捧げる」ことの是非が物議を醸しながら広まっていき、巨人の星によってアニメ業界は息を吹き返すことになったとか。

 この当時、魔女っ子ものも「最初から魔法使い」のサリーちゃん(66年~)から、「普通の人間が魔法を使う」アッコちゃん(マンガは62年~、アニメは69年)へ変化していったそうです。

 ちなみに、巨人の星のアニメ企画は最初いろいろな局をたらい回しにされていて、結局在阪のテレビ局に拾われたそう。期待値が低かったと言うことでしょうね。当時は野球のルールを知らないアニメーターも多かったから、画にミスが多かったそうです。

 アニメーターのお名前に明るくないので、確実に聞き取れたところだけ書きますと、「荒木伸吾さんは表情もすごいけれど、汗の描写もすごかった。劇画の荒々しいアクションがもてはやされる時期と技術の変化がフィットした」という話がありました。荒木伸吾や村野守美といった当時のアニメーターの名前や、技術の変化の話なども盛り上がりましたね。

 そして、巨人の星からあしたのジョーへ……という話になるのですが、ジョーの話は一瞬で終わり、話はこの日のメイン、タイガーマスクの話に突入。

 

■なぜか社会派になっていったアニメ「タイガーマスク

 

 生年1962年の原口さんは1969~71年放送のタイガーマスク放送時には小学校低学年。そんな原口さんにとってトラウマとも言える作品だったとか。

 1968年連載スタートの梶原一騎原作・辻なおき作画のプロレスマンガである本作。

 孤児院で育った伊達直人が、悪の組織「虎の穴」に誘拐されヒールなプロレスラーに成長。しかし、彼は「虎の穴」を脱退し、自ら悪役覆面レスラー「タイガーマスク」として稼いだお金を孤児院に寄付するようになります。組織を抜けて上納金の支払いを拒否するようになったタイガーを、「虎の穴」は裏切り者と見なし抹殺しよう企みます。「虎の穴」が送り込むレスラーと、タイガーの闘いをメインに物語が進行します。

 原作開始の1年後に始まったアニメは、すぐに原作の物語を使い切ってしまい、残りを地方巡業という形式でまったくのオリジナル展開で埋めることになります。


 その結果、「脚本家たちがやりたかったこと」が反映されていき、アニメは原作とはまた違ったドープな内容になっていったのだとか。

 で、この内容というのが多彩かつ重い。

 海の汚損と漁村の過疎化、交通遺児、移民、人種差別、原爆、僻地医療、四日市の公害……。

 各種テーマの掘り下げ方も容赦がなく、

・黒人の妻を持った白人レスラーの苦悩
・原爆被害に苦しみながら、原爆の模型を売って生計を立てる家族
・カナダで養子として暮らし、家族を愛しているが心の奥で日本人としてのアイデンティティーを求めてしまう少年

・ちびっ子ハウスの少年が本当の親を見つけるが、そうすることで彼はちびっ子ハウスの仲間でなくなってしまうという葛藤に直面する。しかも、実は自分には「捨てられていない弟」がいたことを知ってしまう


 などなど、社会問題をあくまで人々の生活の一部として書くことで、これでもかと視聴者に突きつける挑戦的な内容ばかり。アニメと言うよりポレポレ東中野のラインナップみたい?!

 

■「早く試合してくれよと思いつつ、これは大切なことが描かれてるんじゃないか?って思ってた」

 

 今回のイベントで特に話題になったのは四日市ぜんそくを扱った「煤煙の中の太陽」でした。

 冒頭で流されるのは工場の煤煙に覆われた四日市市の風景。スタッフが実際に現場取材をした上で描かれたという背景美術はひたすら重たくて暗く、プロレタリアートの趣き。

 その映像をニコニコ笑いながら「いやもうね、これは夕食どきに流す絵じゃない!」と話す原口さん。

 四日市市に巡業に着いたタイガーたちを待ち受けていたのは、ある少年が起こした事件でした。

 工場の煙突の上によじ登り、コンビナートの稼働停止を主張する孤児院の少年。「住民は皆公害に疲れ果てて無気力で死んだような顔になっている」とか身も蓋もないことを言いながら、ついつい少年愛に突き動かされたタイガー(原口さん曰く)は、自ら煙突に登り少年に語りかけようとします。


 ここでさらに子供の死体を背中に入れて街を歩いている白髪にカンオケばあさんという狂った老婆が登場して「またバカが煙突に上りよるわい。あんなことをしても息子は帰ってこない」と金網にしがみつきながら叫ぶという重たい画がインサート。ちなみにこの女性にはモデルがいて、抗議のために棺桶を背負って歩いた人が実際にいたのだとか。お…重い…!!


 そしてタイガーは、少年に無事に降りてきてほしいが為に、つい「煤煙の届かない丘の上に孤児院を移転させよう」と言ってしまいます。


 喜んで降りてくる少年。そして、「さすがにそんなことが出来るはずがない。このままでは少年に嘘をついてしまう」と悩むタイガー。最終的にはタイガーと少年の行動がメディアで話題になり、市議会が移転を決めるというラストに落ち着きます。こうした話を一通り語り終えた原口さんはタイガーという人間について、こう語っていました。


タイガーマスクは所詮通りすがりの他人に過ぎないんです。解決してしまってはリアルな主題を取り上げる意味がなくなる。彼にはちょっとした手助けしか出来ない」 

「ほかのスポーツものが自己実現や立身出世を目指している中、タイガーが大切にしているのはあくまで自分の小さな友達との約束なんです」


 なるほど 、よく言う「等身大「とはまた違った身近な大人で、そこが社会派なテーマと噛み合ったのかな。

 また、トークの中で「幻の脚本家・柴田夏余」という女性のことが話題に上がりました。

 あまりにも情報がないため、誰かのペンネームではないかと噂されたこの方が、こうしたリアリズムをタイガーマスクに持ち込んでいたのだとか。ちなみに彼女がゲゲゲの鬼太郎でもインパクトのある回をいくつも担当しており、この場では「あしまがり」「地相眼」などの担当回の名前が挙げられていました。


 そもそもこうした社会派の物語が作られるようになった背景には、もとは実写畑で修行して人たちが、結果的にアニメの脚本家を手がけることになったことが原因だとか。各人が「実写でやりたかったこと」「伝えたいと思っていたこと」がタイガーマスクにぶち込まれていった結果としてこうした重たくもメッセージ性の強い独自の世界が生まれていったそうです。


 こうした作家性の介入には賛否あるとおもうのですが、私は原口さんの「ぼくもね!子供の頃はつまらないなあ、早く試合にならないかなあと思っていたんですよ。でも! 一方でこれは大切なことが描かれてるんじゃないかって……。これはドキュメンタリーみたいなものですよ」と、オタク特有の好きなものを語る喜びで顔が崩れている時の変なデへへ感を醸しながら、身を乗り出すように叫んでいたのが本当に印象的でした。


 何のつながりもないけれど、柴田さんに「こんな風に感じて、こんなに大切に思って、トークイベントでオタクしゃべりしながらあなたの作品を語っている人がいますよ!」と言いたくなるような、原口さんの熱意!


 これ、もう全然アニメ関係ない人でも何か創作してる人なら感動したと思います。作ったものは伝わるし、大人になってからも人を動かすってことが可視化されていたから。一応児童文学好きも兼任しているので、子供の頃に出会ったものに人が引っ張られているのを見るのもうれしかった。


  『スポ根アニメ』黄金期というより、「タイガーマスクとその時代」という風情のイベントでしたが、原口さんのバイブスを現場で見られたのはいい思い出でした。あと、「タイガーの少年愛が……」言い過ぎ!


 新作アニメがどうなるか、不安と期待でいっぱいですが、歴史とともに歩んだ作品の後を継げるような出来になればいいなと思います。


タイガーマスク DVD‐COLLECTION VOL.1

タイガーマスク DVD‐COLLECTION VOL.1

 

 

 

 

www.youtube.com

〔視・読・聴〕: タイガーマスク #55「煤煙の中の太陽」

こちらのサイトでちょっと画像見られます。