ホンのつまみぐい

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梶原一騎生誕80年記念~一騎に祝え!!~レポート

 梶原一騎の非公式データベースサイト「一騎に読め!」を運営しているBONさん主催・登壇の梶原一騎生誕80周年イベント。

梶原一騎原作漫画網頁『一騎に読め!』

 トークのお相手はまんだらけZENBUにて「梶原一騎の逆襲」を連載中で、「なつ漫探偵団」という著書も持つすずき寿ひささん。

 

 阿佐ヶ谷ロフト昼の部、2時間きっかり。おふたりともトークが本業ではないという状況の中、どんなイベントになるのだろうと思っていましたが、BONさんが最初に話した「オフ会のような雰囲気にしたい」という言葉通り、いい意味でのんびりした空気のイベントになっていたのではないでしょうか。

 

 幅広いトピックを取り上げるため、第1部は当日回収したアンケートに取り上げて欲しい作品名を書いてもらって箱につめ、それを引き抜いて該当作品について語るという方式でした。

 登場した作品は青春山脈、巨人の星、愛と誠、あしたのジョー、新戦艦大和、男の星座、空手バカ一代、男の条件だったかな……。巨人の星は自分が書いたアンケートを拾ってもらったので、「オタクとして仕事した!」感あって満足でした。

 青春山脈は戦記ものなのに、ヤクザの親分が出てくるところが先生らしい。空手バカ一代の元ネタになった人々の話、愛と誠におけるネルーの言葉はどこから引いたのかなどなど、研究家でもあるおふたりらしい話もいろいろ飛び出てきました。

 個人的に面白かったのはリアルタイム読者がどのように楽しんでいたかのお話。

 すずきさんが「岩清水くん、出てきた時は完全に誠を喰ってたのにね~~」と3回くらいしみじみ漏らしていた場面や、BONさんの「誠にナイフが刺さったままでいきなり第1部完! 2週休みですよ!なんじゃこりゃーー!!と思いましたよ」から、すずきさんの「ながやす先生疲れちゃったんだよ」という話の流れ、そしてBONさんの「小学校5・6年生だったけど、ウルフ金串戦のクロスカウンターに大興奮してそろばん教室の中を駆け回った」という話など、活き活きしていてとてもよかったです。

 また、ジョーのモデルはたこ八郎説という流言についてBONさんが「あれほんとにイラッとするんですよ!」とつっこんだことに対し、すずきさんが「その説は当時から流れていて、最終回の特集でも書かれているんですよ」と話していたのがオタク×オタクの会話としてよい流れでした。

 特集の話で言えば、連載時は本誌内にちょくちょく特集ページがあったそうで、飛雄馬が巨人に入ったばかりの頃に、「花形・左門に次ぐ新しいライバルとは?これまでの常識を覆す」なんていうアオリの2ページの特集があり、それを読んだすずきさんが「以前この会話に出てきたこいつに違いない!」と盛り上がっていたら、突然アメリカからオズマがやってきて、「そりゃ新しいよ!」と思ったという話や、消える魔球の攻略方法を著名人(和田アキ子から野球解説者まで)から募る特集などが組まれた話などが出て、作者・編集・読者が皆で虚実一体の大きな物語を共有していたのだなと感じました。

 

 また、「巨人の星」について語るくだりで下の場面を引き、報われた努力だけに価値があるわけではないという話から、「努力が成功すると、快楽物質が出てくるらしいんですよ。飛雄馬と伴は甲子園で一回優勝してそれを体験しちゃってるから……」というすずきさん。

  「いや、優勝してないですよ。準優勝なのがいいんですよ」というBONさんに、「えっ、でもアニメのオープニングではいつも勝ってるから! ぼくの中では優勝してるから! パラレルワールド!」という流れは最高でしたね。

 

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 ほかには、ウルフ戦での「偵察に行った子供たちがボロボロにされて帰ってくる。試合後にそれを受けて、ジョーが子供たちに敵を取ったことをアピールする場面がない。ちば先生なら入れると思うのだけど」「ジョーはそういうあいまいなところが多いというか、感覚的に書かれたところがある」という話も印象的でした。

 

 後半は梶原一騎という作家そのものについて。

 

 すずきさんの「憎たらしい顔してるよね~~。うまいもの一杯食って、いい女抱いて、嫌いな奴はぶん殴って……」という愛情表現から始まり、「梶原先生がいなかったら今のマンガの隆盛はない」という話に。

 

 すずきさんは“ジョーが代表作で、あれはちば先生の手柄だみたいなことを言う人が多いけれど、ちば先生の作品で、ジョー以外の作品をどれだけの人が覚えてますか? でも梶原先生は日本中の人が知ってる代表作がたくさんあるんですよ”的な、ちょっと危ないことを面白おかしくおっしゃってました。

 

 もちろん作品に上下はないし、すずきさんだって会場の人たちだってそんなことわかりきっているはずですが、それでも言わずにおれない悔しさみたいなのはやっぱりあるんでしょうね。生き方や世界観に対する好き嫌いはともかく、マンガ表現の大きな流れを作った功労者であり、後の少年マンガの基礎を作った人なのに、評価されてないものなあ。

 

 最後はプレゼント大会とあいさつで〆。プレゼントはBONさんの編集の同人誌とCDROM、ご家族が提供してくれたマフラーと、座右の銘の入ったぐい飲み、梶原一騎フィギュア、愛と誠のEP、なつ漫探偵団という内容でした。

 なつ漫探偵団を当てた方がふたりとも「もう持ってるんですけどね」と言ってたのがおかしかった。

 

 最後のBONさんのあいさつが染みました。

 最近の梶原一騎に関するもっとも大きなトピックは、自宅の管理と遺品の運営の話。資料館を建設しようにも現在受け入れ先がなく、管理の見通しが立っていないということ。

www.asagei.com

 BONさんも当然ながらこの事実に関する葛藤はあるものの、「署名活動をしたりなどということではなく、それぞれが自分の好きな分野をつきつめていって、そうした人たちがつながっていけばいいのではないか」という話をされていました。

 19年もこつこつサイト運営をしてきた方に言われると重みがある……。

 今回の主催の動機も「周年に向けて何か公式でイベントがあるかと思ったが、2月の段階で特にそういう発表もなかったから」と、少し寂しい話がきっかけとのこと。しかし、この日を機に人と人がつながれば、また新しく何かが始まることもあるでしょう。この日のあいさつと近い内容のことをすでにBONさんがブログに書いていますので、興味のある方はご一読を。

ikkiniyome.blog.fc2.com

 個人的な話ですが、この日は三原順をきっかけに知り合った笹生那実さんがイベントに来て下さいました。笹生さんに巨人の星の恋愛事情について書いた同人誌をいただいたり、帰りに少しハマったきっかけなどについてお話しできたのがとても楽しかったです。

 イベントの中で「マンガが市民権を得たのは巨人の星から」という話が出たのですが、その直後にリアルタイムで読んでいた笹生さんから、「父が『会社で巨人の星が面白いという話が出た』と言っていた。それまではマンガやアニメが大人の話題になることなんてなかったのに」という話を聞けたのがうれしかったな。

 「アニメにゴールデンカップスの曲が使われていて、ファンだったのでなんじゃこりゃと思った」とか「最初笑いながら見てるのに、なぜか真剣になってしまう」とかいろんな話が出来ました。

 BONさんには以前から巨人の星の舞台パンフのコピーをいただいたり、小説版をいただいたりしていたのですが、今回改めて感謝の意を新たにしました。

 進行・トークともにゆるい内容ながらうまくまとめられていて、来場者の皆さん楽しめたのではないかと思います。

 BONさん、すずきさんお疲れ様でした。

 

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 会場写真を撮りそびれてしまったので、阿佐ヶ谷アニメストリートでやっていた新戦艦大和展の写真。展示はともかく、このストリート噂通り廃墟のような空間でしたね……。

なつ漫探偵団

なつ漫探偵団

 

 

梶原一騎伝 夕やけを見ていた男 (文春文庫)

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劇画一代―梶原一騎自伝

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