七月七日、湿気を含んだ夜の街を眺めながら恵比寿リキッドルームへ急いだ。
リキッドルーム2階の階段を上がると浴衣姿の女の子がたくさんいた。ライブハウスでのイベントに出演する男性アイドルのファンだろう。薄汚れたライブハウスの壁の前に立つ浴衣姿の女の子は金魚のように華やかで、汚れた壁と対照的だった。
そんな女の子達を横目に滑り込んだ先は、リキッドルーム内の小さなギャラリー「KATA」。展示のタイトルは「EXHIBITION OF 不可思議/wonderboy “SPOKEN WORD BOY”」。
5年前に急逝したポエトリーラッパー・不可思議/wonderboy。彼のCDジャケット原画や写真などを展示した一種の追悼展だ。
私は彼のことをよく知らなかったけれど、この日は彼の盟友たちのライブがあるということで、ふらっと足を運んだ。到着するとGOMESSとmikichu*のユニット「littleAct」のライブ中だった。会場はほぼ満員御礼で、薄暗い照明はあまり展示を見るのにはよくない環境だったけれど、それはそれでライブを任された歌い手や会場の絵画の世界観には合っていたように思う。
「littleAct」は演出らしき雨音が大きすぎて音がうまくこちらに入ってこなかったので、何となく会場の雰囲気を眺めていた。不可思議/wonderboyが生前に路上で使っていたというスピーカーでのライブは、音響的にも恵まれているとは言えなかったけれど、集まった人々はそんな環境でも真剣に耳を傾けている。
「littleAct」が終わると、人の束が少しゆるくなる。壁の展示を眺めながら場所を移すと、けーごのライブが始まった。
13歳の少年。小さな身体にメガネとのびたくんみたいな髪型。「不可思議/wonderboyという人には会ったことない」という。彼のことをよく知らないままその歌を聴いていた。
いじめられていた頃の自分のことを歌い、MCバトルにも参加しているという彼は、見た目は全然攻撃的ではないけど、勇気のある少年なんだろうなと思わせるところがあって、どこか児童文学の主人公のようだった。
おそらく、これからラップ・MCバトルをテーマにしたフィクションが増えていくだろうけど、その時は彼のような少年の物語が出てほしいと少し思った。
けーごから狐火。また、人の束が太くなる。壁にもたれながらその声を聴く。
狐火の声は頼りなくて、歌詞中の人物がいつもかっこ悪い。
泣いてるところとか、悔しがってるところとか、後悔しているところとか、本当ならあまり触ってほしくない部分をラップに乗せてくる。会社のトイレで思わず泣く時。泣きたくなんてないけれど感情を吐き出さないではいられない時。そんな瞬間を歌ってくる。
「悪口ばかり曲にしやがって」の「僕は劣ってない、劣ってない、劣ってない」で胸を掴まれて、認知症の祖母について歌った「マイハツルア」で静かに涙が流れた。
狐火は、あいまのフリースタイルで「ぼくもMOROHAとワンダーボーイで(MCバトルの)チーム組めばいいのかな。でも、弱いんだろうなあ」と、ため息のように、少し笑いながら吐き出していた。
でも、ここにいる人は皆、「かっこ悪いところを出して歌に出来ることのかっこよさ」を知っているのだ……。
狐火が終わると身体がすっかり疲れていたので、その場から離れる。その後のライブも気になっていたけれど、無理しながら消化するように見るのがふさわしい場とは思えなかったのもあって、リキッドの階段を降りた。
会場の外は、ぬるい空気がゆっくりゆっくり冷えていく途中のようで、優しい追悼の夜にふさわしかった。
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