ホンのつまみぐい

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サバイバーに対する敬意がにじみ出る映画「ルーム ROOM」

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おとぎ話のエッセンスを加えれば、耳を塞ぎたくなるような酷い話も芯を守りながら多くの人に届けられる。とても巧みな作品でした。

この映画は、長髪の小さな男の子が、青く塗られた部屋の中で小さな天窓を見ているところから始まります。

そのうち画面には誕生日のケーキを作ってくれる母親が現れますが、そのケーキは何の飾り付けもない簡素なもので、観客は戸惑いを覚えます。

部屋には時折訪ねて食べ物を置いてゆく男が現れるのですが、語り手である少年は彼を魔法使いのようなものと認識し、小屋の中をホンモノの世界と呼び、テレビの中の出来事をニセモノの世界と呼んでいます。

細かな違和感を感じながら見ていると、観客は物語中盤でやっと「母親が高校生の頃に誘拐監禁され、5年の間外に一歩も出られないまま、小さな小屋の中で子供を産んだ」ということを知らされるのです。

性が絡む犯罪というのはポルノグラフィーとして貶められてしまうことがありますし、あまりに悲惨な話には人は耳を塞ぎがちです。「ルーム」ではこうした遠回りによって、悲惨な題材を観客に咀嚼させることに成功しています。

作中で描かれる出来事はとても悲惨で残酷なのですが、部屋の内装や少年の目線はどこかおとぎ話のような独特の距離感を保っていて、観客は悲しみや怒りの圧に押しつぶされることなく物語を受け取ることが出来るのです。

映画の後半は、逃走を果たした母子による再生のための闘いが描かれます。時間をかけて外の世界を少しずつ受け入れていく息子と、自分と世界とのギャップに苦しむ母。このとても困難な闘いを、本作は徹底して優しく描いています。

少年が初めて逃走のために小屋の外に出た時に、流れる春をつげるような祝福の音楽や、ラストシーンのまるで古い絵本の1ページのような美しさ。

そうした細かなディティールに、サバイバーたちに対する深い敬意を感じることが出来ます。

バイバーは同情すべきかわいそうな被害者ではなく、生き延びて幸福になるべき勇者なのだから、世界はそれを祝福しなければいけない。

とても品格のある映画でした。

 

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