復興支援関連のお仕事をしている知人のYさんのSNSでの紹介で知ったこのツアー。「Yさんが紹介しているのならいいものだろう」という気軽な気持ちで、内容もよく見ず、3900円という値段と日付だけを確認して参加の電話をかけました。
当日の集合場所は新橋のSL前広場。小さいお子さんふたりを連れての家族で参加される方や、日帰り旅行好きそうな女性の集まりなどいろいろな方が集まっていました。バスで隣になった男性は、震災後の報道がきっかけで、ハワイアンズにはまったという方で、そういった土地に思い入れや興味があって参加した人もおそらく多かったのだと思います。
新橋からいわきまでの3時間ほどを走る小さめのバスは、頭が丸くてチョロQのようでした。
バスの乗車中、ガイドのNさんとIさんによる自己紹介。お二人ともいわき育ちで、今はいわきで観光の仕事をしているそう。生まれも育ちもいわきなAさんと、1度上京して、震災後にいわきに戻ってきたNさん。Nさんは「こっちで観光の仕事をする前まで、いわきって何もない、歴史もあるんだかないんだかわからない町だと思ってたんですよ。でも、観光の仕事についてそんなことないと知りました」と話していました。
出発時に渡されたビニール袋の中には大量のPR冊子が入っていましたが、中でひときわガーリーでゆるい内容の冊子があり、これが「いわきうふふ便」でした。「いわきの今、いわきの普通を知らせたい」というコンセプト。
「うふふ便」はNHK福島放送局といわき市が協力して作った番組「被災地極上旅」の中で生まれた冊子で、開くと「看板犬のユキちゃん」「カフェ」「レストラン」「農家」のことが並列に記載されています。
いわき市内までのバスの中で、案内人の二人がいわきの観光地についていろいろお話ししてくれました。ハワイアンズの歴史、博物館のこと、農園のこと。話を聞いていると、いつのまにか外に見える景色の中に山肌が増えてきました。
さらに山を越えると、瓦屋根の家がいくつも通り過ぎていきます。新興住宅地で生活している身には珍しい光景でした。
やがて、最初の目的地である農場「ファーム白石」に到着。タイヤギリギリの狭いあぜ道を、器用に曲がっていく運転手さんの技術に車内が関心していると、向こうから大股で闊歩する赤ジャージの男性が歩いてきました。
「あ、あれ白石さんですよ!白石さんは赤い服を着てるんですよ……」というAさん。車内の目線が集中します。
ところが、次の瞬間「あれ?違うかな?違った!」とAさん。
本物の白石さんはさらに右に曲がったところに立っていました。真っ赤なつなぎに大柄な体躯に彫りの深い顔つきで格闘家のよう。
バスからバラバラ降りて、皆が白石さんの前に立ちます。Aさんに「今日って収穫前に何か話すんでしたっけ?」と聞く白石さん。
「そうですね。白石さんがなんで赤いのかとか」と軽く答えるAさんに「あ、そんな感じなんだ」と笑う白石さん。
参加者が揃い、白石さんのあいさつが始まりました。
「ここから38km地点にウワサの福島原発くんがあります」という表現から始まる土地の説明。白石さんの畑は、右手に見える高い山のおかげで、線量が上がらずに済んだそうです。
「正直、これで楽に農業を止められるなど思ったりもしたんですよ。でも、不思議なものでなくなりそうになると守りたくなるんですね」と話す白石さん。
ちなみに赤い服を着ている理由は「目立つから!」。
「暗い雰囲気だったでしょ。いわきを、農業を明るくしたいと思って。今ならいわきの太陽というポジションが取れるぞ!と思って。大事な会議もこの格好です」と笑っていました。
あいさつが終わると収穫の時間。キャベツ・人参・キャベツの脇芽を獲ります。
キャベツは包丁で茎にざっくりと刃を当て、地面から外すようにして収穫します。白石さんは30分で100個収穫するらしい。
初めて聞く「脇芽」とは、キャベツを獲った茎の周りに生えるミョウガくらいの大きさの葉でした。市場には出荷していないので、畑に来た人しか知らない楽しみなのだとか。人参は春を迎える直前の、白い根が出始めたものを太いものを5本。
ファーム白石の土地は、かつて大雨のたびに夏井川が反乱し、湖のようになるやっかいな土地だったとか。「作物が腐らないか」と思いましたが、野菜は24時間以内なら浸水しても生きているらしい。そして、その水が土地を肥沃なものにしたのだそうです。
参加者のひとりが「土を食べてみたい」という言葉が。「被災地極上旅」にそういう場面があったらしい。真似して口に含もうとすると、白石さんから「口がカラカラになるでしょう。これが土の保水力なんですよ。これで水を蓄えるんです」という話。なるほど!
テレビでは元AKB48の秋元才加さんが土を食べていたそうで、ファンから不安を訴える声も届いたらしい。しかし、白石さんが調査結果などをきちんと話したら、「よし、そういうことなら応援しよう」となったそうです。(こんなところでもアイドルオタクの話を聞くとは……)
白石さんの畑の土が食べられるのは、放射能検査はもちろん、化学肥料を使わないから。そのへんの畑の土をなめてはいけないそうです。
収穫が終わり、いわきの中華料理屋・華正楼で白石さんの野菜を使った中華をいただくことに。
華正楼に関しては、まず写真を見てもらうのがいいでしょう。
いがりぶっこ入りの餃子。いわきの特産トマトとチーズの入ったエビチリ。シソとトマトの入ったスープ。塩麹つけらしき鳥もも肉。白石さんのキャベツを使ったホイコーロー。刻んだいぶりがっこ入りドレッシングで和えたブロッコリー。鮫川村のジャージー牛で作ったシャーベット。
ホイコーローは肉をギリギリまで炒めてうまみを出し切る本格派で、柔らかいキャベツの甘みに甜麺醤がぴったり。チーズ入りのエビチリはまろやかで、エビがプリプリ。正しい中華なのにワクワクする。
大皿の上にこんもり盛られた料理は食べきれるか心配になるほどのボリューム。遺してはいかんと思ってせっせと箸を動かします。
食事が落ち着いた頃に、料理長の吉野さんが登場。
「いや……ぼく実は昔は野菜なんて全然こだわってなくて、ネットで中国野菜とか買ってたんですよね。大変失礼であってはならいなことなんですけど、農家って暗いイメージがあって。業者の人としか思ってなかったんですよ」
吉野さん、率直。白石さんと出会ってから、農業のイメージが変わり、地元の野菜を使うようになったとか。
「料理人と生産者でタッグを組んで盛り上げていきたい」という話をしてくれました。
白石さん・吉野さんと別れてバスに乗り込みます。バスの中では、華正楼で出しているというドレッシングと、紫芋のミルクペーストジャムをいただきました。
次の目的地はアクアマリンふくしま。水族館(アクアリウム)と海洋博物館・科学館(マリンミュージアム)の機能を併せ持った施設だからアクアマリンという名前がついたというこの施設。
ここが圧巻かつ最高でした。
開館16年目という新しい建物と言うこともあって、とにかく生きものの見せ方が洗練されているし、イベントもバラエティーに富んでいる。
入口入ってすぐにある錦鯉と金魚の水槽は種類によって少しずつ形が違うオリジナルなもので、それぞれが観賞しやすい形に設計されています。透明な円柱の水槽は金魚が回遊するさまがとても美しいし、錦鯉の背中がはっきり見える水槽もかっこいい。熱帯アジアの水辺を再現するというコーナーは、水棲の生きものだけでなく、植物まで生育している。潮目の海というコーナーでは水槽全体が三角形のゲートになっていて、来館者が上を見上げるとガラス越しに魚が回遊するのが見られる。
館内には潮目の海を見ながら寿司が食べられるカウンターがあるし、ホタテ釣りイベントや鰹節削りイベントなど、ちょいシャレの効いたイベントがあるのがすごくいい。
生態を見せることで、来館者に感動を与えるにはどうすればいいか。興味・関心を生み出すにはどうすればいいかを考えた構造やイベントの数々に感動してしまう。
そして、今回のアクアマリンふくしま来館の目的は、観光だけではありません。調べラボという「調べラボ!~いわきの魚を食べてみよう~」試食会兼測定体験付き。
いわきで獲れた魚の放射線量を調べて、その後に魚介類を食べるというワークショップ。 この日出たのはヒラツメガニのお味噌汁とメヒカリの干物でした。
アクアマリンの獣医の富原さんという方が自身が釣った魚や調べラボで用意した魚を前に、放射線量の測り方、地震後の海の変化、放射線量が高くなりがちな魚、そうでない魚の違いなどを教えてくれました。
この富原さんがけっこうパンクで、そのまんま書いたらユーモアのない人が炎上させそうなことを笑いながら話していて最高に面白かったです。(というか、後日調べたら4年前に結構大きく燃えてました。興味のある方は適当に検索してください)
館内ガイドも富原さんが担当してくれたのですが、
スイミーのモデルになったという群れになって泳ぐキンメモドキの前で、「スイミーのモデルになった魚ですよ。でも、別に群れになって強い魚を倒すわけでなく、たくさんいると弱いやつから順に食べられていくから、一緒になってるだけなんですけどね。あ、リーダーはいません。どれか1匹が向いた方にみんな動いていくだけ」。
「魚は途中で性別が変わるものも多いんですよね。だから、同性愛とか別に生きものとして普通のことじゃないかって思いますけど」。
アザラシの賢さってどのくらいなんですか?という質問に「あ、バカですよ。手かまれますし」。
などなど名言連発!
もちろん、施設内のこと、生物のことも事細かに教えてくれたし、その口ぶりから仕事がとても好きなのだと言うことが伝わりました。
生きもの面白いけど、生きものに関わってる人も最高なんだよ! 富原さんに会いにまた調べラボ行きたいし、今度はもっとじっくりアクアマリンふくしまを見たい!
そんな気持ちになった時に、ひとつ、思い出した言葉がありました。
節目の翌日ですね。
— 蒲鉾本舗高政 (@takamasa_net) 2016年3月12日
「震災を忘れないで」といくら口で言えど、人生最後は楽しいことしか覚えていないものです。
ならば女川は「忘れられないくらい楽しい美味しい町」になります。
さあ皆さん、凄まじく美味いこの明神丸の丼、1000円ですよ。 pic.twitter.com/oUJj5XKyjf
高政は宮城県女川町のかまぼこ屋さんで、私たちが今回お邪魔したのは福島県いわき市だったけれど、これはきっとどこだって変わらない気持ちのはず。
楽しかった。おいしかった。また行きたい。そんな気持ちを抱えて、その話をしてそういうのがいいね。
いわき市は品川駅から特急で2時間半。次はハワイアンズに行きたいね。
アクアマリンふくしまで買ったトドのぬいぐるみと、いただいた紫芋のミルクジャムを塗ったパン。
結局ねえ、うまそうな匂いに人間は勝てないんです。これがもうファイナルアンサーです。今回で10回目となる調べラボですが、結局、匂いがいい、あるいは見た目にインパクトのある試食が出るときが、なんだかんだで一番賑わいます。この間の木戸川の鮭を使った紅葉汁のときもすごかった。
思うのですが、ほとんどの皆さん「放射性物質」に興味があるわけではなく、「うまいもの」にしか興味がない。しかしそれが本質だと思うんですね。うまいものに釣られてこの部屋にやってきたら、何やら獣医の方が魚捌いてて、放射性物質について説明している。ああ、もうこんな風に下がってるのね、大丈夫じゃん。っつーかたこ飯うまい!
それでいいんだと思うわけです。というかそれがすべてなんです。普通に「福島の魚を食っている」という状況の積み重ね。遠回りなようですが、一番いいのかなと思った瞬間でした。やっぱり別に放射性物質のことなんてどうだっていいんですよ。流通してる魚は安全だし、第一うまいんだから。普通にうまさを堪能すればよし!