ホンのつまみぐい

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アイドルオタク芸人マンガ「ODD FUTURE」の元ネタを紹介するよ

 もはやアイドルそのものについては皆語り尽くしてしまったのか、一昨年あたりからアイドルオタクの物語が増え始めている。

 
 在宅と現場、グループローカルアイドルとソロアイドルといった対立軸を設け、地下アイドル現場のリアルな楽しさを描く「ミリオンドール」。アングラでサイケデリックな世界観のアイドル・BELLRING少女ハートに取材し、ドキュメント風にアイドル現場を描いた「アガペー」がその代表だろう。
 
 ドキュメンタリーも話題になった。老年に差し掛かったアイドルオタクのきよちゃんが、孫のような年頃の女の子に癒されながら、彼女の卒業を見送る姿をとらえた「ザ・ノンフィクション 中年純情物語 〜地下アイドルに恋して〜」。人生の残り時間の見えた男性が、彼女の卒業後にぽつりと「夢のような時間でした」と語るその姿は、多くの反響を呼んだ。
 
 ちなみにきよちゃんは推しの卒業後、新しい推しを見つけて、また別のバラエティ番組に映ったらしい。放送内容のキャプを見た限り、心なしか髪型も服装も明るくなった彼は、変わらず現場を堪能していたそうで、まさに「エンドロールの後も人生は続く」である。
 わずかな母数とはいえ、なぜドルオタものが増えているのか。それは、良くも悪くもアイドル現場がとても人間味に溢れた場だからだと思う。とにかく泣き、笑い、怒る。カネも飛び交う。溢れ出る感情をぶつけ合う場所なのだ。
 
 そんなアイドル現場を舞台にした、新しい作品が生まれた。
 
 
  主人公は芸人として活動していたが、現在はほぼ引退状態でアイドル現場に入り浸るメガネの小男・清水。「おれは客席にいる方が幸せ」とうそぶき、同期のイケメン芸人に借りた12万も握手券のためのCD代に変えてしまう彼が、自分自身と向き合い、生き方を定め直す話だ。
 
 焦燥感を抱えた若者の葛藤は普遍性のあるテーマだが、本作の大きな特徴は「やり直す」話であるというところだろう。
 
 同期に12万の借金を作って逃げ出した清水ははたから見るとクズい。しかし、同居しているミュージシャンのジョージは遅くまでボロボロになりながらネタを考えていた清水の努力を認めていて、共通の友人との電話で、芸人としての清水を何気なく褒めている。
 
 また、12万貸してくれたイケメン芸人の家田は、清水の才能を高く評価していて、客席で自分の舞台を見た清水に「何が『客席が一番幸せ』だよ」「だったらもっと幸せそうな顔をしろ」と叱咤する。
 
  本作のアイドルものとしての最大の特徴は、キーマンである藤野すみれの心情を一切描かず、ただ彼の憧れとして存在させたことだろう。
 
 正しい。清水はすみれちゃんを応援することで、思い切り笑うこと。好きな人に好きと伝えること。ただ刹那的に楽しむという体験を取り戻す。それは、人間らしく生きる瞬間を取り戻すことと同義である。だからこそ、すみれちゃんに直接励ましてもらったり、彼女が彼のことを気にかけていたりという特権的な経験は必要ないのだ。
 
 清水の姿が胸を打つのは、何かを好きになることが自分自身の生を支えてくれるという普遍的な経験が描かれているからだ。ある人にとってはそれはスポーツ観戦で、ある人にとってはマンガで、ある人にとっては特撮番組かもしれない。

 ジョージの言葉を聞き、家田の舞台を観た清水は、すみれちゃんの「見てくださっている方のエネルギーになれるようなアイドルになりたい」という言葉を思い浮かべながら、やっと芸人への復帰を決意する。

過去を振り返ることによって自分の輪郭を取り戻し、憧れの人の言葉で立ち上がるエネルギーを得るのだ。
 
 このように、外から見ると無意味なものを肯定し、肯定されながら私たちは日常を生きている。そして、自分自身に背中を押されながら歩き出す。シンプルで刹那的な、しかし輝かしい生の肯定の物語だ。
 
 さて、記事タイトルである元ネタの話をしよう。「ODD FUTURE」という表題と、イケメン芸人コンビの「プライマル」。
 
 「ODD FUTURE」は、2011~14年を駆け抜けるように活動したBiSというアイドルグループの曲だ。その短い歴史の中で多くの感情と楽曲をファンに遺した、関わった人にとっては確実に一生忘れられないグループである。
 
 BiSはメンバーの入れ替わりの激しいグループで、そのこと自体が数々のドラマを産み、CDごとにグループの色が変わる。「ODD FUTURE」は解散時のメンバー6人によって収録された曲だ。大きな箱で解散するという目標を掲げて活動するも、なかなかうまくいかず、強い焦燥感に駆られていた頃の曲である。PVには車中泊で全国ツアーを敢行するというプロデューサーからの無理な要望により、肉体的にも精神的にも追い詰められていた当時のBiSメンバーの姿が映し出され、「戻れない道を引き返す途中」というフレーズとピアノのメロディが切なさを煽る。このメンバーで収録されたBiSの代表的な曲である。
 
 
 もうひとつ、「プライマル」の元は、BiSの中で二番目に有名で、ファンの中では最も人気が高い「primal.」という曲だ。そもそも、「pdimal.」自体がTHE YELLOW MONKEYの「プライマル。」から取られているのだろうが。
 
 活動初期に作られたこの曲は、PVの発表の1ヶ月半後に卒業するナカヤマユキコ(BiSはメンバーが作詞も手掛ける)の作詞の力が光る。
 
耐えられない言葉に 
みつからないように
靴ずれした両足で
ここに立ってたいんだ
 
繰り返す思い出は 
振り向かずに駆け抜けてきた
揺れながら見た夢は
答えのない明日問いかけてきた
今度は何をほら食べようか?
 
 という歌詞は、アイドルとして活動し、葛藤する彼女たちの心情を反映したものだけれど、そうした個々の体験に収まらない刹那の美しさを描いた、アイドル史上に残る曲である。
 また、「サリーズの大和撫子担当」という藤野すみれの自己紹介も、BiSの自己紹介をもとにしたものだろう。
 もし、少しでも「ODD FUTURE」という作品に心を動かされたのなら、ぜひこれらの曲を聴いてほしい。アイドルというフォーマットを通して、若者の心の揺れをこれほど多彩に表現したグループはなかなかない。直接反映されてはいないけれど、作者の中にBiSの楽曲は水脈のように流れているはずだ。
 
 (そして、CDはこのブログ経緯で買って下さい)
 
※「ODD FUTURE」はメンバーごとにPVがありました。


BiS / "ODD FUTURE(Special Edit)" Music Video -ヒラノノゾミ Ver.-

※primal.のPVは年齢制限がありますが、別に性的ではないので安心してご覧になって下さい。上に貼ったのは大森靖子とのコラボで、あくまで例外的なライブでの動画なんですが、一番見易いので貼りました。


primal. / BiS 新生アイドル研究会

 BiSのメンバーは解散後もアイドルや音楽に関わっている人が多いので、ぜひ調べてみてくださいね!

primal.

primal.

 

  primal.はメンバーが変わるごとに収録し直してるのでいろんなバージョンがあるのですが、まずは最初にリリースされたものを。

STUPiG

STUPiG

 

   ODD FUTUREはB面。A面のSTUPiGと会わせて聴くと当時の焦燥感がうかがえます。

Brand-new idol Society

Brand-new idol Society

 

 

IDOL is DEAD

IDOL is DEAD

 

 

 

WHO KiLLED IDOL?

WHO KiLLED IDOL?

 

 アルバムは3枚とベストが1枚です。ベスト買うならはカバー曲が収録されたデラックス盤がおすすめ。

うりゃおい!!! (CD2枚組+DVD) (DELUXE盤)

うりゃおい!!! (CD2枚組+DVD) (DELUXE盤)

 

 流れが止まるので本文中で紹介しませんでしたが、ミリオンドールの作者もBiSのオタクで、本作中にはBiSの楽曲や、BiS脱退後にソロで活動している寺嶋由芙(在籍時はテラシマユフ)の体験を元にしたエピソードが登場します。

 アニメはちょっとあれでしたが、こちらも楽しい作品なので、おすすめです。

ganma.jp

 

 

ミリオンドール 1 (アース・スターコミックス)

ミリオンドール 1 (アース・スターコミックス)

 
ミリオンドール 2 (アース・スターコミックス)

ミリオンドール 2 (アース・スターコミックス)