ホンのつまみぐい

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「楽園のカンヴァス」(原田マハ)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

 幻のコレクター、ジョセフ・バイラーはいまだ公になっていないアンリ・ルソーの作品を手にしている。しかし、それが真作なのかは彼自身にもわからない。真贋を確かめるため、バイラーはふたりの人物を自らのもとに招いた。さえないキュレーターアシスタントと若き女性研究者。立場は違えど、ルソーを愛し、美術を愛する三人の7日間の攻防。その行く末は……!

 今は亡き学習雑誌に載っていたミステリーみたいな味わい。
 軽い謎解き要素があって、読んでいくうちに少しずつ科学豆知識や歴史豆知識が手に入るというやつ。ミステリー部分は思い返すとアラが多いけど、謎に引っ張られながらクイクイ読めるから、情報や知識がスルッと頭に入ってくる。

 この作品も同様で、ミステリーとして読むとトンデモ展開や回収されない伏線が気になりますが、美術・そして美術館に興味のある人なら確実に楽しく読めると思います。

 いや、美術に興味のない人こそが、お仕事もの・美術うんちくものとして楽しく読めるかもしれない。本文中では、「女性の顔をぐしゃっとつぶしたようなピカソの絵が、なぜ名画と呼ばれているのか」のような疑問にも、当時の絵画史の流れを交えて答えてくれます。

 個人的にもっとも衝撃的だったのは、「なぜ大型美術展のパンフレットを新聞社が作っているのか」という疑問の答えでした。金のない日本の美術館では高い絵画を借りられず、新聞社が旗振り役になって企業から金を集めることで、教科書クラスの名画を日本で見ることができるようになっているとか。

 これつまり、新聞社が弱体化すると高い作家は日本で見られなくなる可能性が高まるということですよね……。いや、もちろんイコールではないだろうけど、横浜美術館が今年は現代美術作家しかやらないのと何か関係があったりするのかななんて。