ホンのつまみぐい

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あ「アイドル」

 アイドルにはまったのは「でんぱ組.inc」の横浜市長への表敬訪問の場に取材で立ち会ってからという話を以前書いた。

 それ以降ずっとアイドルのことを考えている。あまりにアイドルが自分の人生に及ぼした影響が大きいので、アイドルにはまらなかった人生がどういうものだったかがもはや想像できない。

 たしか以前にも書いたけど、アイドルが自分にもたらした最も大きなものは感情だった。とにかく一時期の自分は精神的に完全に死んでいて、達成感を感じて喜んだり、逆に自分のふがいなさを悔しく思ったりというもろもろの感情も消え失せていた。

 ところが、アイドルにはまって彼女たちの挙動に感情移入し、一喜一憂することで「達成感を得たい」とか「がんばりたい」という感情が復活していったのだ。

 ももいろクローバーについて書かれた同人誌に「世界が感情を取り戻す」というタイトルのものがあるそうで、残念ながらまだ読めていないのだけど、これはオタクにとってのアイドルの意味をうまく表した言葉だと思う。アイドルにはまったことで、生きている実感を取り戻せたとも言える。

 モテキに「弱っている時に聞くアイドルソングは麻薬」という言葉があるそうだけど、これはとてもよくわかる。

 ソングだけでなく、握手会に行くと「大好きな相手に直接好きって言える」とか、「生誕祭のためにコメントを集めてライブ中に推し色のサイリウムを炊く」とか、もうそういうのいちいち擬似文化祭で擬似青春だ。つらいことも多いけれど、それも含めてアイドル現場は感情的で人間的でいることが許される。

 ただ、あまりにも、「アイドル現場に何もかもがつまっていて楽しすぎる」からこそ、自分の人生がその10分の1くらいの密度である事実にいらだちもする。

 私は最近アイドル現場から以前より距離を置いている。理由はたくさんあるけれど、「アイドルの青春は私の青春ではないから、私は私の人生を生きなくてはいけない」と思ったのもそのひとつだ。

 何かをきちんと愛し続けるのにも、並々ならぬ覚悟やそれに見合った状況がいるということも、アイドルから学んだと思う。ある人は離婚し、ある人は借金を作り、ある人はいつまでも無職のままだ。それでも愛し続ける覚悟が、業と呼ばれるものなのだろう。