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ホンのつまみぐい

いろんなもののファンをやっている人が、日々のよしなしごとを綴っています。

練馬区立美術館「あしたのジョー、の時代展」

マンガ 美術・展示 巨人の星

 行ってきました最終日!

 一昨年の今頃は梶原一騎の話しかしないbotみたいだったのに今年は意識低い!

 ジョーを軸に、同世代の音楽や芸能など、さまざまな表現について紹介するという展示でした。

 展示は4つに分かれており、最初の部屋はマンガとアニメの紹介。次の部屋は1960年代後半から70年代前半の文化をアルバムジャケット、広告、朝日ジャーナルなどを展示。次の肉体をテーマにした展示では、土方巽、万博破壊共闘派の全裸パフォーマンスなどが紹介されていました。最後に現代の作家によるオマージュ作品が並び、このオマージュ作品群がジョーを現代につなぐという構成でした。

 中でもっとも目を引いたのは1970年に行われた力石の葬式を再現した祭壇でしょう。アニメの販促を兼ねた凝ったごっこ遊びが、高尚な儀式のように後生に伝えられている様子は、もし寺山修司がご存命であればその滑稽さを含めて喜んでいたのではないかな。

 今回の展示に合わせて行われた対談では、ジョーの葬式に関することも語られており、当時のばかばかしくも真剣な様子をこちらに想像させてくれます。

ちばてつや)詳しいことは私もあまり覚えてないんですけど、お葬式だから参列してくれ、って言われて、私は二日くらい徹夜した後だったので、ちょっと悪いけど少し寝たいからパスします、て言ったんですね。そうしたら、いやいや会場には読者の人がたくさん来てるし、そっちに車回したからと。しょうがないから車を待っていたら、梶原さんは練馬の大泉にお住まいで、私は富士見台ですから、先に梶原さんを乗せて来たんです。そうしたら梶原さんが真っ黒なスーツを着て黒のネクタイをして神妙な顔をして座っていまして。私は寝ようとしてたからまだパジャマだったんですけど(笑)、あわてて黒い服に着替えて乗りましたね。ずっと車のなかで、誰がそんな冗談を言い出したんだろうねーって話をしていたんですけど、護国寺の角を曲がったあたりからずらーっと列ができてて。ずいぶんたくさんの人が並んでいるので、今日は何かの特売日かなと。そうしたら行列が講談社の門の中にまで入っていて、よく見たら腕章をしている人とか、お線香を持っている人とか、お花を持っている人もいて、やっと力石のお葬式に来てくれた人たちなんだとわかったんですね。目を真っ赤にして涙ぐんでいる人もいたし、ちょっとショックでしたね。マンガのキャラクターを、本当に身近な身内が死んだくらいに思ってくれていたんだと思いましたし、梶原さんもきっとショックを受けていたと思います。

引用:練馬アニメーションサイト内「ちばてつや、あしたのジョーを語る」が開催されました。

 ところで私はロスジェネオタクなので、展覧会概要にある

主人公「ジョー」こと矢吹丈は、打たれても打たれても決して相手に屈せず、血反吐にまみれながら強敵に立ち向かいました。その姿は、大人が作り上げた社会体制の矛盾に対し異議申し立てを行った同時代の青年の共感を呼びます。

 という文章にイラついてました。もちろん、当時の実感としてそういう思いがあったということを否定するつもりないのですが、団塊世代の、ジョーと自分たちを同一視して、過去の行動をヒロイズムの糖衣でくるんでしまう感じがどうしても気持ち悪いんですよねえ……。

 団塊文化人がジョー語りで梶原の存在を無視しがちなのも、自分たちを投影して陶酔するのに、彼の存在が不都合だからなのではと思ってしまいます。梶原一騎反権力じゃないですしね。

 また、時代と寝た作品の宿命なのかもしれませんが、時代という切り口に作品が拘束されているようにも感じました。

 オマージュ作品の参加作家は、浅葉克己、井上嗣也、宇野亜喜良及川正通葛西薫勝井三雄、金山明博、上条喬久、K2(黒田征太郎長友啓典)、島本和彦しりあがり寿杉野昭夫日比野克彦蓬田やすひろという顔ぶれなのですが、「ジョーとその時代」を戯画化したものが多く、ちょっと寂しい気持ちになりました。少なくとも、ジョーという作品から何かを受け取って、それを次の世代に伝えたいという意志を感じるのは島本和彦、金山明博、杉野昭夫くらいだったように感じました。

 作品の中に女性の作家が見当たらなかったのも不思議です。きっと新しい切り口を提供できたと思うんですけどね。

 まあ、面白かった。アニメ「あしたのジョー2」の原画は、絵画としての完成度がとても高く、一枚の絵からまるでパンチの音が風を切る音が聞こえるような躍動感がありました。アニメの原画は人物が描いてあるセルと、背景のセルが分かれているのが普通ですが、出崎アニメの止め絵は一枚で完成した絵画でした。また、原画の中で最終回の原画だけを黒塗りの額で展示するという演出も好きでした。ちば先生のイラストは色の塗りも繊細で、葉子さんの回りを飾る花はとても美しかったです。ボリュームは小さいけれど、中村宏など、当時の社会派イラストレーションや暗黒舞踏も興味深く見ることができました。

 この上で、「あしたのジョー」という作品が、今の時代とどうつながっているかを感じさせる展示があれば、もっとスッと作品がこちらに入ってきたのではないかなと思いました。

 お客さんはリアルタイム世代から大学生まで。21エモンゴンスケや、墓場鬼太郎のTシャツといったレアなマンガTシャツを着た人たちが歩いていて、「この場所に一日中いたら、きっとさまざまなマンガTシャツが見られるのだろうな」と思いました。

 帰りがけの駅前の喫茶店で、展示帰りの方々がうんちくを語り合う様子を見ながら、「そうか、これは一種の同窓会なんだな」と感じたりも。ちなみに、後でツイッターを見たらどうも平松伸二さんご一行のようでした……。


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