- 作者: 沙村広明
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/07/10
- メディア: コミック
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どうしたんだ、沙村広明。
舞台は帝政ロシアの終末期。
両足を切断されたために車いすで行動する不思議な美少女ビエールカとその従者シシェノーク。
少女の車いすは従者の手がなければ動けないように設計されており、両者は離れることが出来ないようになっています。
蠱惑的な魅力をそなえた少女と青年の間に何があったのか。ふたりの謎を解き明かす形で物語は展開します。
ロシア帝政末期の実在の人物を絡めながら進むこの作品には、飛び道具のようなアイデアがあります。このアイデアはとても奇想天外かつ魅力的で、設定を聞くだけでワクワクできるような、とても可能性の感じられるものになっています。
ただし、作劇の方法は必ずしもこのアイデアを活かしていません。ビエールカとシシェノークに出会った人々は、皆彼女たちの不思議な関係に疑問を抱き、彼女たちの謎に迫ろうとします。
これは、作者が周辺の人物に読者の目を同化させ、同時に彼女たちに対する情報を共有させ、一緒に謎を解いていく構造と思われるのですが……。
読者がふたりのことを何も知らない状態で「お前たち何者だっ!」「何……?!ひょっとして!」を連発されても困るわ!
「ビエールカはとても蠱惑的な存在で、出会った人の心を捉えていく」という設定が、彼女の出生の秘密に大きく関わっているのですが、作品内でその魅力が描かれた回数が少ないので、最後の種明かしでは思わず「もったいねー!」って声が出ました。
何が言いたいかというとですね「その設定だったらもっと面白く出来ただろ!」っていうやつですよ。情報の開示の仕方が下手だから、事件も感情も何もかもスルって流れていく。歴史ミステリーって呼んでる人いるけど、謎と答えを順番に出していくだけの物語を果たしてミステリーと読んでいいんでしょうか。
一応歴史物なのに、史実の持つダイナミズムもないし、歴史の流れの中に生きる個人の瞬間を捉えている感じもない。
弟に愚痴ったら「あれは映画のやり方をパクってるから、話が急に過去に飛ぶんだけど、そのせいで話が理解しずらいんだよ」とのこと。
たしかに映画だったら、ビエールカには役者の存在感以上の描写は必要ないかもしれないし、唐突に挿入される過去の情景も不自然ではないでしょう。
でも、マンガだからー! だれか注意しなかったの、これー!!
「もやしもん」の石川雅之もなんですけど、あんまりマンガを研究しないでヒット作家になった人の弱点が、じわじわ露呈している感じ。でも、絵がうまいから読めちゃうし、オタクは褒めてあげるし、売上もそこそこ立つからそのまんまっていうこの感じ!
いちおう12年くらい前から沙村広明を知っていて、もっともっと面白いマンガが描ける人だと思っていたから、なんだかこじんまりとまとまってしまったことにがっかりしました……。やっぱ、絵がうまくて発想力があってセンスがあっても、マンガがうまくないとダメなんだな。
でも、世間の感想はほとんど絶賛。ということは、みんなこれでいいと思っているんでしょうか? ひょっとして、もう沙村作品ってああいうの好きな人しか読んでいないの? だとしたらそれはそれでとても残念です。
あと、少女の両足が切断されているという猟奇的な設定は、沙村広明の持つフェティッシュに基づいたものなのだろうけど、全体的にあんまりエロくないもグロくもないのも、とても残念でした。
最近規制が厳しいからか? それとも何か枯れてしまったのか沙村さん。
ただ、彼の場合はもともと暴力的な絵そのものは別にエロティックじゃないんですよね……。エロって言うなら鈴木健也や掘骨砕三の方がエロい。業が浅いのか、本質が健全なのか、絵がうまいせいなのか。
沙村さんのこの手の話でもっともエロティックなのは、「シスタージェネレーター」収録の「久誓院家最大のショウ」だったように思います。Mな父親にSに育てられ、がんばってSとしてお勤めを果たそうとする健気な女の子の話。脂ののった絵とシンプルなシチュエーションがとても官能的でした。
本作も、もっとシチュエーションの持つ官能性や残酷さを際立たせる方がよかったんではないかなと。
うーん、愚痴しか浮かばないな……。
つまりは、「がんばってください、沙村さんと編集者の皆様」
シスタージェネレーター 沙村広明短編集 (アフタヌーンKC)
- 作者: 沙村広明
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/09/23
- メディア: コミック
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これ品切れなの?!なんて世だ。
- 作者: 石川雅之
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2012/09/20
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「人斬り龍馬」は本当に新鮮だったので、今の石川さんの停滞は残念。
- 作者: 掘骨砕三
- 出版社/メーカー: 秋田書店
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- メディア: コミック
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「クロとマルコ」を弟に見せたら、ふたりとも「この人エロマンガ家でしょ」って言い当てた思い出。
- 作者: 鈴木健也
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2011/03/14
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鈴木さん、売れる作家ではないのだろうけど、せめて彼の作品に共鳴する人に行き渡ってほしい。